推理小説「コアラツアー殺人事件」㉓ | 失語症作家 小島恒夫のリハビリ・ノート!!

失語症作家 小島恒夫のリハビリ・ノート!!

自ら作家と名乗る人間にろくな者はいないでしょう,他の方はともかく。私は2000年、脳出血を患い失語症になりました。そしてリハビリの一環として文章書きをしています、作家のように――。
何はともかく、よろしく!  (1941年生まれで、現在・80歳になる単なるじじい)

 

 

 

《オーストラリア・ゴールドコースト》

コアラツアー殺人事件 ㉓

 

 

 

 それは熊木に違いない――。

 

「具体的に行方不明が分かったのは、どの時点ですか。それに、死体発見の状況はどんなものでした」

 

 青年はミルク君の質問に、記憶を繰るような表情を見せて答える。

 

「終了時間のちょっと手前ですね。皆が船に上がり出すと、2人が騒ぎ出したのです。僕たちは手分けをして難破船の周りや深いところまで調べました。すると最初に海に入った時点の船倉に引っかかったような形で」

 

「呼吸はどうでしたか」

 

「停止していました」

 

 

 

 最初に入った時点となると、私には、熊木が指差した行動が解せない。

 

それに監視役は、再度訊かなかったのだろうか。

 

 

私の質問に、青年はむっとした表情で答えた。

 

「途中でも訊きましたよ。でも向こうへ行ったとまた指差しましたので……」

 

 

 ――熊木は何を考えていたのだろう。また女子社員が言った、中島の泳ぎは本当なのだろうか。

 

 

ガイドの青年がムッとしたのは、正直に答えたのに、疑うような再質問があったからで、やましいことではないと思う。

 

 

 

 ミルク君が話を進めた。

 

「大きい魚を見たので驚いたと聞きましたが、何時も、そんな魚が泳いでいるのですか」

 

「時々ですね。でも、そう考えるしか原因が見当たりませんよ。波は静かだったし潮の流れはゆったりしていましたから」

 

 ガイドの青年は不思議そうに答えた。

 

 

 

現地の人はともかく、中島は、初めて見る大きな魚にびっくりし慌てた。そのとき頭をぶつけて脳震盪――。あり得る話である。

 

 

「他にも気づいたことはありませんか」

 

 

 青年はまた考え込んだあと、

 

「これは関係ないんでしょうけど、変なボートが止まっていたんですよ」

 

「変なボート」

 

「ええ、沖あい300メートルくらいのところでしたけどね」

 

 私たちはその言葉に引き込まれ、色々の想像を巡らせた。

 

「それに、そのボートには誰もいないんですよ」

 

「それは珍しいことですか」

 

「数人で来て潜ることがありますけど、誰かが必ず船上に残りますね。僕の見間違いかもしれませんけど」

 

 しかしそのボートは、いつの間にか消えていたと言う。

 

 

私たちは質問を終えると、溺死した場所を見たいと言って、モーターボートをチャーターし、アクアラングも借りた。

 

そして更衣室で水着に着替え、指定された桟橋へ行くと、1艘のボートが近寄ってきた。私は久しぶりだが、ミルク君は頻繁に潜っているらしい。

 

つづく