最近YouTubeで私の好きな戦前の日本映画『放浪記』(昭和10年)がアップされましたのでご紹介します。本来なら名場面の写真をブログに貼付けるところなのですが、持っているビデオテープから映像を取り出す方法がわからないので、こちらでYouTubeの本編の方をご紹介します→
一時間半程の長さですが、あまり状態がよくないので、戦前の映画を見慣れておられる方でないとちょっと辛いかもしれません。でも、大変な名作なのでよろしければ画面を大きくして一度ご覧になってみて下さい。

私はアンティーク収集を始める以前は、戦前日本の社会を知りたくて戦前の映画をよく観ました。昭和に入ってからの作品だけでも50本くらいは観たと思います。確かに有名な小津安二郎監督や成瀬巳喜男監督の作品はよいですが、私が最も好きになったのはこの木村荘十二(そとじ)監督の作品です。

木村監督個人の事についてはあまり知らないのですが、アカデミックな家柄だったようで、木村監督も最初はプロレタリア活動をしていたようです。映画監督になったのは昭和5年ですが、私のお勧めはこの『放浪記』、翌年の『兄いもうと』(昭和11年)、『新選組』(昭和12年)の三本です。この三本の作品を残しただけでも、私は木村監督を戦前の名監督のひとりに挙げてよいと思っています。『兄いもうと』もYouTubeでアップされていますのでご覧下さい。そちらの方が画質がいいですが、近衛秀麿の音楽がちょっと目立ちすぎて気になります、笑。

『放浪記』は作家林芙美子の代表作の映画化です。実は小説の方は読んでいないのですが、映画のストーリーは、夏川静江演じる小林ふさ子という貧しい女性が次々と男に騙され、生活もどんどん落ち果てていき、最後には絶望のあまり服毒自殺を図るという実に悲惨な内容です。それでも心を堕落させずに作家を目指して真っ直ぐに生きていく彼女の姿は、今観ても大変格調が高いです。

この映画では次々とダメ男が出てきます。もう温厚な(?)私でもケリ入れたくなるくらい(笑)ムカつく男が揃いも揃っています。美人で社会的弱者と見ると群がって来る碌でもない男どもですが、またヒロインもそんな男に
見事に次々と騙されてしまいます。ラストの自殺は未遂で終わるのですが、泣きながらお母さんに会いたい、生きて、という彼女の言葉が胸にささります。

木村監督は、そんなヒロインや周りの貧しい人々の心に寄り添う様な演出をしています。小津監督も戦前は貧困者をよく映画の題材にしましたが、小津監督の作品はどれもそういう弱者に対してはかなり冷酷です。
木村監督の優しさは小さい頃から家庭的に苦労をしているところからくるのでしょうか。木村監督は絵心があったようで、カメラアングルやカメラワークも斬新で、映像に古さを全く感じさせません。(保存が悪いのは残念ですが)カメラマンの三村明は戦前では有名な方のようで、映像に広がりがあって大変きれいです。

ふさ子は最初キューピー人形の絵付けをする小さな工場に勤めていました。その労働の姿も木村監督は丹念に描いています。昭和10年で日給75銭、ということは、一日働いて2,000円程度でしょうか。戦前の映画に出て来る貧困層の映像からは本物の貧しさが伝わってきます。私が今集めている貴金属製品やオールド大倉などは、実に中の上以上の階級の一部の人しか手にする事ができなかったのだということがよくわかります。

作品の中で、ふさ子が電話口で「今頃そんな頼もしい男の人がいるかしらん?」と言う台詞があるのですが、80年前の男性がそんな言われ方をしているのだったら、現代なんて一体どうなるのだろう、とちょっと面白く感じました。

同じ木村監督作品の昭和12年の『新選組』も悲惨な話です。ここに描かれている新選組は、勇猛果敢どころか、味方であるはずの幕府から時代遅れの邪魔者とされ、(このとき既に幕府の
上層部は薩長軍と密約を交わし、抵抗しない代わりに将軍慶喜には危害を加えないことを確約していました。なんだかどこかで聞いた様な話ですね)幕府の策略にまんまと嵌り、筋書きどおりに自滅していきます。幕府の本当の意図に最後まで気づかない新選組の近藤勇や土方歳三は実にあわれですが、彼らも必死で生きる道を探してもがきます。その姿を、やはり木村監督は彼らの人間性を浮き彫りにして丁寧に演出しています。この作品も大変名作なので、YouTubeで是非アップしていただきたいものです。



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