「父さんを連れて行け!」
 リョウヤのピンチで、門下生の何人かが近くに来ていたのだった。
 門下生の数人が、リョウヤを抱え車椅子を回収すると、門の方へと向かった。
「セーラス!! お前じゃ無理だ!」
 リョウヤが叫んだが、セーラスはアラカエルから目を離さなかった。
「父さん……僕、今本気で怒ってるんです。だから……離れていてもらいます」
 小さな声で呟いた。セーラスがゆっくりと手にした剣を構えた。アラカエルは、セーラスの剣に異様な殺気を感じていた。
「俺は、貴様の様な小僧相手でも決して手を抜かん。切り刻んでくれるわ!」
 アラカエルが飛び上がると、手から魔法力を放った。
「僕だって、お前のような奴は絶対に許さない!」
 放たれた魔法力に向かって真空斬を放った。空中で爆発する音と共に、噴煙が立ち込める。アラカエルは煙で覆われた中へと突っ込んだ。セーラスも同時に飛び上がった。噴煙の中で剣の交わる音が響いた。
「くそっ!」
 空を飛ぶことの出来ないセーラスが、噴煙の中から落ちてきた。アラカエルが剣を思い切り振ると、周囲の煙が晴れていった。
「貴様には、空を飛ぶことは出来ん……おとなしく我が刃で朽ちるがいい!」
 アラカエルが叫ぶと、剣に込められた魔法力がセーラスに襲い掛かる。
「そんなもので僕が殺せるものか!」
 セーラスは、全てをギリギリでかわしていった。地面を転がり、横に飛び……後方へと飛んでかわしていった。アラカエルは次々と剣を振って、魔法力を放っていった。セーラスはそれを全てかわしていく。しかし、いつの間にか後方に魔獣の軍団が迫っていた。
「後ろには魔獣達が近づいてきているぞ? お前に逃げ道はない……」
 アラカエルの言葉にも、セーラスに動揺する様子は見られなかった。
「だから……?」
 セーラスが冷たく言い放った。セーラスの態度が、アラカエルの怒りを増幅させる。
「逃げ道のない貴様に勝ち目などあるものか!!」
 アラカエルが魔法力を溜め込んだ。後方から迫る魔獣の気配を、セーラスは背中に感じていた。セーラスが剣を右手に持ち、アラカエルを見ていた。後方から襲い掛かる魔獣が、巨大な手を振り上げセーラスを襲った。セーラスはそれをかわし、魔獣の胴を切り裂いた。そのまま今度は更に背後の魔獣を袈裟斬りに斬り伏せる。
「喰らえ!」
 アラカエルが魔法力を一気に放った。巨大な魔法力の玉がセーラスに向かっていった。
「それだけか!」
 セーラスが後方から襲い掛かる魔獣の上に飛び上がった。そして、その魔獣を踏み台に更に後方へと飛ぶ。魔法力の玉が先頭の魔獣の前に落ちると、巨大な爆発を起こした。周囲の魔獣が一気に消え去った。セーラスは魔獣の頭を踏み台に、次々と移動した。アラカエルは、そんなセーラスを追って魔法力を放つ。先程のリョウヤのとの戦いのように、アラカエル自身が魔獣を滅ぼしていった。しかしアラカエルはそんなことを気にしていなかった。
「くそっ! なんで小僧一人倒せない!」
 アラカエルは焦っていた。セーラスに向かって放つ魔法力の玉を、セーラスは冷静に見極めていた。
 
「あいつ……」
 安全な場所まで離れたリョウヤがセーラスの戦いを見ていた。
「資質はあると思っていたが、これ程とは……」
 リョウヤはセーラスの戦いに見入っていた。
「セーラスはいつもリョウヤ先生に隠れて修練していましたからね」
 傍に立っていたカラエスがリョウヤに言った。
「そうなのか?」
 リョウヤがカラエスに聞いた。
「セーラスの目標は、いつも『父さんを抜く』でしたから。一度だけ、セーラスがひとりで剣を振るのを見たことがあります。その時のセーラスは本当に凄かったですから」
 カエラスは言葉と同様に、興奮を抑えきれない表情で話していた。それを見たリョウヤは、セーラスがひとりで剣を振る様子が、頭に浮かんでくるようだった。
 
「くそ! くそっ!!」
 アラカエルは、狙いを定めるのも止め、一心不乱に魔法力を放った。セーラスは口元を緩めた。
「お前の負けだ……」
 小さく呟いたセーラスは、魔獣の頭から飛び上がり、後方から襲い掛かる魔獣の頭へと移った。魔獣は自らの腕で、先ほどまでセーラスが乗っていた魔獣を押しつぶした。そして、セーラスは体を沈め足に力を溜めた。
「行くぞ!」
 セーラスは、自分の言葉を合図に一気に飛び上がった。
「空で俺に勝つつもりか!!」
 アラカエルは右腕に魔法力を込めた。
「一気に終わらせる!」
 セーラスは、右腕に持った剣を、両手で握った。アラカエルが溜まった魔法力を、セーラスに向かって一気に放った。セーラスは前方から迫る魔法力の玉を見つめた。そして両腕に力を込めると剣を振った。
「うぉー!」
 セーラスの剣が魔法力を地上に流した。
「なっ……!!」
 アラカエルがセーラスを睨んだ。そして、左腕に持った剣を構え、セーラスに向かっていった。
「この刃で沈めてやるわ!」
 アラカエルが剣を振った。セーラスはその剣を受け止める。
「終わりだといったはずだ!」
 セーラスは、アラカエルの剣を軽く流すと、刃の方向を変えアラカエルを寸断した。
「こ……こんなやつに……」
 力が抜け、空からゆっくりと落ちているアラカエルと同時に、セーラスも地上めがけて落ちていった。
 
「やった!」
 カエラスが飛び上がった。同じく様子を見ていたリョウヤの表情にも笑顔が浮かんだ。
「セーラスめ……」
 今まで本当の力をリョウヤの前で見せていなかったセーラスの力を目の前にし、喜びと嫉妬心がリョウヤを包み込んだ。背後で聞こえるセーラスへの歓声が、大地を揺るがすような声の波紋を生み出していた。リョウヤはその場で振り返り、門下生の顔を見ると自然と口元が緩んだ。
「セーラスを助け、残りの魔獣を倒すぞ!」
 リョウヤの声で門下生達が一気に声を上げ、セーラスの元へと走った。
 
 大地に降り立ったセーラスが、目の前に迫る魔獣の大群を見た。
「あれを倒せば……」
 セーラスが呟くと、背後から声が聞こえた。門下生達が一気に魔獣に攻撃を仕掛けようと走っていた。
「じゃあ……これを最後に、あいつらに任せるか」
 セーラスが魔獣達に向かって剣を構えた。そして剣に向かって声をかけた。
「もう一度頼むよ……」
 セーラスが呟くと、それに呼応するように剣が薄っすらと光が纏った。
「真……」
 セーラスは、言葉と同時に魔獣に向かって低く剣を構えた。そして一気に剣を横に振り切った。
「真・真空斬!!」
 セーラスの剣から光の刃が魔獣に向かっていった。セーラスは、更にその剣を左脇に構えた。そして再度空を斬る。
「後はみんなに任せるよ……」
 セーラスが背を向けると、背後で二本の真空の刃が衝突した。凄まじい真空の刃が縦横無尽に飛び交った。爆風と真空の刃が、辺り一面を砂煙で覆い隠した。
「な……」
 門下生のみんなが足を止めた。ゆっくりと晴れる砂煙と同時に、魔獣の消える黒き煙が立ち上った。向かってきた魔獣の大半が、セーラスの一撃で消え去ったのだった。
「あとはお願いしますね」
 セーラスは門下生のみんなに向かって微笑んだ。そしてそのまま城門に向かって走っていった。
 
「セーラス!」
 リョウヤの声がセーラスの背後から聞こえた。セーラスはその場で立ち止まり振り返った。
「いつの間にそんな力を……?」
 リョウヤが驚いた表情でセーラスに言った。セーラスは口元に笑みを浮かべて一言だけ言った。
「必殺技は隠すものでしょ?」
 そう言って笑顔を見せると、セーラスはまた走り出した。


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