ハマセウラスへ着いたフレアスとセーラスは、村の光景がまるで普段と変わらないことを確認した。
「ここは、特に襲われたりしたわけではないということか?」
 フレアスが呟いた。
 マシウドからハマセウラスは、距離にてもさほど離れているわけではなかった。徒歩でゆっくり歩いても半日もかからない程の距離だった。しかし、マシウドと違ってハマセウラスは活気に帯びていた。村のあちこちで店が開かれ、客がその商品に対し値下げ交渉を行っていた。フレアスとセーラスは、町の人達にマシウドのことについて聞いてみたが、誰も知らなかった。
 町にいる人々に聞いて回った時、セーラスが何かに気づいた。
「ねぇ……フレアス兄さん……」
 セーラスがフレアスの服を掴んで引っ張った。
「なんだ?」
 セーラスがフレアスの視線を誘導するように、自分の腕を村から見える山の裾野に向けた。
「ほらあそこ……なにかいるよね?」
 フレアスがセーラスの指先を視線で追った。フレアスが見ると、木の上側に黒い陰が見えたがすぐに消えた。フレアスが注意深く見ると、そこには髪の長い少女のような子が見えた。
「行こう」
 フレアスが言うと、セーラスが後に続いた。
 二人が近づいてくるのを見た少女が、慌てて逃げ出した。
「待て!」
 フレアスが走って少女を追いかけた。しかし、少女は思った以上に速く森を駆け抜けた。フレアスとセーラスも必死になって追いかけた。少女は、マシウドへ向かっているとフレアスが気づいた。
「セーラス!このまま追いかけるんだ!」
 フレアスがセーラスにそう言うと、フレアスはマシウドへ向かう別のルートへと駆けて行った。
 
「もう逃げられないぞ!」
 フレアスが回り込んで少女の前に立ち塞がった。少女はフレアスに気づいたが、止まる気配を見せなかった。フレアスが両手を広げて捕まえようとした瞬間、少女はフレアスの視界から消えた。
「なに!?」
 フレアスの上空を体を回転させて飛び越えたのだった。そして少女は、背に背負った弓と矢を右手で抜き放ち、一瞬のうちに攻撃態勢に入った。フレアスが気づいたときには、既に矢が放たれていた。ちょうど後方から来たセーラスが剣を抜き放ち、フレアスに向かって放たれた矢を斬り落とした。
「貴様何者だ!」
 フレアスが叫ぶと、少女が地面に降り立つと同時に二本の矢を同時に放った。フレアスが剣を抜くと同時にその矢を斬り落とし、少女に向かって剣を構えた。
「腕は衰えてないみたいね」
 フレアスの後方から声が聞こえてきた。フレアスが振り返ると、そこにはアヤカが立っていた。
「アヤカ! ちょっと待て……あっちの子はお前の……」
 そこまで言うと、アヤカがフレアスに向かって拳で殴りかかった。
「私の子じゃないわよ! 妹よ! 妹!」
 アヤカがそう言うと、少女が弓を背負い歩いて来た。
「いきなりすみませんでした……。私は嫌だと言ったのですが、お姉ちゃんがどうしてもって……。だから本当にすみません」
 少女が頭を下げて謝った。
「いや……君のせいじゃないさ」
 フレアスとセーラスが剣を収めると、アヤカが言った。
「その子は? どうみてもフレアスの子じゃないよね?」
「違う! 俺の子はまだ赤ちゃんだ!」
 フレアスの言葉に、アヤカが口元に怪しげな笑みを浮かべて言った。
「相手は誰? レオ? レイ?」
 ニヤニヤと笑いながらアヤカが聞いた。
「ちっ! 誰でもいいだろう?」
 アヤカはフレアスの照れた顔を見て笑いながら、視線をセーラスに向けた。
「大きくなったんだ。お父さんは元気?」
 アヤカがセーラスに聞いた。
「ボクを知ってるの?」
 セーラスが驚いた顔で言った。
「リョウヤの子でしょう? 違った?」
 アヤカがフレアスの顔を見て聞いた。
「よくわかったな。リョウヤの子供のセーラスって言うんだ」
「私はアヤカ。あんたのお父さんや、この生意気なフレアスと昔一緒に戦ったエルフ族よ」
 アヤカが言うと、セーラスが微笑んで言った。
「父から話しを聞いています。始めまして」
 セーラスが言うと、アヤカの隣にいた少女が溜息をついた。
「アヤ姉……いつになったら私は紹介してくれるの?」
 少女がアヤカにふてくされた顔で言った。
「あっ、ごめん」
 アヤカが頭を抑えて笑った。
「この子は、私の妹のニーナ。妹と言っても、かなり年の離れた妹だけどね。ちょうどセーラスと同じくらいの年じゃないかな?」
 アヤカが微笑んでセーラスを見た。全員の紹介が終わったところでフレアスがアヤカに聞いた。
「なんでこんなとこにいるんだ?」
 フレアスの言葉にアヤカが反論した。
「それはこっちに台詞よ! 私達は、世界の異変に気づいて調査してるとこなの!」
 アヤカが言うと、ニーナが付け加えた。
「妖精達が騒ぎ出したのです。突然世界中の聖地が汚されているって。それで調査していたら、偶然ここに辿り着いたのです……」
「聖地が汚されているってどういうことだ?」
 フレアスが聞いた。
「神聖な場所……それが聖地よ。フレアスも聞いてると思うけど、十年前の時に魔法石を探してた時に、フィーアさんが居た湖のように、一切穢れのない場所のことよ。それがここ最近、何者かによって荒らされているの。一応行ってみたけどすごい有様よ? マシウド並に荒らされていたわ」
 アヤカが話しながら辺りを見渡していた。フレアスは、ライハートのことを説明した方がいいのではないかと思い口を開いた
「俺らは聖地とは関係ない調査だが、もしかすると繋がっているのかもしれないな」
 アヤカがフレアスの顔を見て言った。
「どういうこと?」
「実は、先日ライハートが消息を絶ったんだ。アヤカは聞いていないか? ライハーン近くの森の中に現れるようになった正体不明の生物の話しを」
 アヤカは少し考えたが首を振って答えた。
「聞いていないわ」
 フレアスは説明が必要だと感じた。
「とりあえず、座って話しをしよう」
 近くにあった廃屋から、四人はそれぞれ椅子を持ち出して座った。家の中が暗かったのと、いつ崩れてくるかわからなかったからだ。フレアス達は、椅子に座ると最初にフレアスが口を開いた。
「数日前、正体不明の生物を見たとダラスの耳に入ったんだ。それで調査の為にライハートが行くことになった。ダラスはライハートが一人で行くとは思っていなかったらしい。本来なら他にも数名連れて行くはずだが、それは本人の決断の話しだ。それで森に調査へ行ったあと、ライハートは行方不明。しかし問題はそのあとだ。ライハーンに軍団で魔獣が襲い掛かってきたんだ」
 アヤカが勢いよく椅子から立ち上がった。
「どういうことよ! なんで魔獣が出てくるわけ?」
 フレアスが落ち着けと言わんばかりにアヤカを座らせた。
「魔獣はどうも、以前異世界に行った時に使われた魔法陣を、魔界の住人が無理矢理繋げて出入り口として利用している可能性がある。だが、そこは世界政府の建物の中だ。魔獣が出入りしているなら気づかないわけがない。っで、俺とセーラスの二人で行ってみた」
 アヤカは口に溜まった唾を飲み込み、背中を流れる汗が全身を冷やしていくのを感じていた。
「……なにもわからなかった」
「どういうこと!?」
 アヤカが聞いた。
「その部屋の中は既に瓦礫などで封じられていた。外からは開かなかったんだ」
 フレアスが言うと、セーラスも頭で頷いていた。
「それとこことどういう関係が?」
 ここが、その封じられた部屋と一時期繋がっていたんだ。だから、ここへ来ればなにか分かるかもしれないと思ったんだ」
 フレアスがの言葉にアヤカは信じられないと思った。
「ここには魔獣はいないわ。私とニーナがこの辺り一体を隈なく探したのだから間違いないわ。でも、フレアスの言うとおり、ここには魔力の流れを感じてはいるけど……」
 アヤカは、この村の周囲に魔力の残骸を感じていたのだった。
「とりあえず、ここに魔獣が現れたことは間違いない。でも、それなら何故ハマセウラスは襲われなかったんだ? マシウドからだってかなり近い。だが、あそこの住人は普段と変わらない生活を続けているんだぞ? マシウドがここまで壊滅的ダメージを受けているんだから、襲われなかったにしても、なにかを知っている人間がいてもおかしくはないはずだ」
 フレアスの言葉は間違いではなかった。しかし、実際問題としてハマセウラスの人々は普段どおり生活しているし、マシウドの事件について知っている者もいなかったの確かだった。
 不可解なマシウドの壊滅についての情報を何も得ることはできず、四人はハマセウラスの宿に一泊し、翌日、更に調査することになった。


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