『海戦』〈交代寄合伊那衆異聞11〉 | 手当たり次第の本棚

『海戦』〈交代寄合伊那衆異聞11〉


佐伯泰英の時代小説には、ずいぶんと、船が登場する率が高い。
〈古着屋総兵衛〉は商人を装う武士が、ついには船で遠くアジアへ雄飛していく話だし、一番の人気シリーズ、〈居眠り磐音〉でも、磐音がおこんを伴って故国へ船旅をする、だけでなくその上で闘いをしているし、〈酔いどれ小籐次〉は大きな船にこそなかなか乗らないけれど、日常的に、小舟で江戸を動いて研ぎ仕事をしている、という風。

しかし、背景とする時代もあって、洋風の船を駆使するのは座光寺籐之助ただ一人だ。
それも、タイトルが「海戦」とあるからには、英米の帆船小説を思わせるような、船と海上のシーンが豊富に描写される。

もちろん、帆船小説おいえば、イギリスがダントツであって、〈ホーンブロワー〉シリーズのような古典的名作もあるわけだけれど、洋式を取り入れた和船という特殊な船というユニークな状況があるのに、船内の訓練の様子などは、それらの帆船小説に匹敵するような部分がところどころ、目につくのだ。
砲撃訓練の時の、大砲の動きや動作、発射前に白く補足煙があがるなど、「おっ」と思うような、心憎い演出があるのだが、それにもかかわらずくどく感じられない、というところが良い。
この1巻、時代小説ファンならずとも、帆船小説ファンにも楽しめるんじゃないかと思う。

陸上でも、発展する直前の、建設途上の横浜とか、流人の島への立ち寄りなど、面白いスポットが用意されているし、もちろん、籐之助に千葉道場の俊英まで加えて、いつもの剣劇シーンもちゃんと準備されている。
エンタテイメントとして、ほんとにツボをおさえているよなあ。


海戦―交代寄合伊那衆異聞 (講談社文庫)/佐伯 泰英
2009年9月15日初版