『ウスリートラを追って』 | 手当たり次第の本棚

『ウスリートラを追って』

『ウスリートラを追って』は、またまたAmazon.comで画像が出ない本のようなのだが、ものは偕成社から出ていて、従って一応児童向けの本、ということになっている。(たぶん、小学校4年生くらいからなら読めるのでは)。
しかし、大人が読んでも充分面白い。
というのは、文章自体は、格別子供向けに書いているとは思われないからだ。
たんに、活字が大きめで、どの漢字にもルビが振ってある、そういうところか。
著者が写真家だから、当然、写真は満載。

虎の写真が、ですよ。
いやいや、虎だけではないけど……。

もちろん、その虎写真は、表題のとおりのウスリートラなのだが、さてウスリートラとはなにもの。
私も読むまではピンと来なかったのだが、
要するに、最もメジャーな名前では、シベリアンタイガーと呼ばれているあれで、
日本の動物園では、たいてい、アムールトラと表記されているはず。

本書のあとがきにもあるが、近年でこそ、米ロ共同で現地のトラの研究が始められているけれども、ソ連当時は、まず、外国人が入れなかった。
もちろん、動物の保護も行われていなかった。
もっとも、研究に限らず、なんでも制限されていた時代だから、今のような乱開発や密猟も、行われていなかったそうだけれど……。

だからこそ、トラを含む、いわゆるシベリア地方の野生動物を日本人カメラマンが写しに行くなんて、とんでもなく大変だったわけだけれど、では、なぜ、著者はそれを志したのだろうか。

そう、ここでは、著者がシベリアを撮影したいと思い立ったところから、実際に撮影に入るまでの苦労、
シベリアと日本の、驚くほどの「近さ」、あたかも100年前の日本のようなその土地柄、
かんじんのトラ撮影の難しさ。

過剰な脚色など一切なく、淡々と語られるそれらの事象は、読む人によって、ロシアという国の素晴らしさと難しさを感じさせるかもしれないし、
あるいは、ロシアと日本の意外な共通点を実感させるかもしれず、
動物カメラマンという職業の凄さにわくわくするかもしれない。

このあたりは、面白いことに、大人が読んでも子供が読んでも、そう変わらない感想になると思えるのだ。
せっかく夏休みを迎える事だし、もし図書館あたりで本書をみつけたならば、親子で読んでみるというのはいかが。
夏休みの読書には、お奨めの一冊だ。


『ウスリートラを追って シベリア5年間の撮影記録』(福田俊司著 偕成社刊)
1995年7月初版