『ヴィンランド・サガ (5) 』 | 手当たり次第の本棚

『ヴィンランド・サガ (5) 』

洋の東西を問わず、戦にのぞむ者は、「ツキ」を大事にしたと言われる。
まあ、今でも、ギャンブラーはツキを大事にするそうだけれど、戦などは、いわば究極のギャンブルなわけで、そう考えるなら、なるほど、ツキをかつぎたくもなろうというものだ。

逆に、リーダーからツキがはなれていると思うと、敗色が濃厚になればなるほど、部下は不安になるものなのだろう。
(そりゃ、ツキなんてどうでも良いと思っても、作戦ミスなどが続いたら、いや~な気分になるのは確実だ)。

それゆえの裏切りであり、
それゆえの策謀でもある。

王子様の身の上は、戦国のならいならば、ある意味典型的なものなのだが、
やはり、興味深いのはアシェラッドの言動だ。
純粋なデーン人ではないらしいアシェラッドの、真の目的は、いったい、何なのだろう?
飄々としたその表情の下には、何が隠されているのか。
もしや、西の方、海の向こうにあるというアヴァロンが、彼の目的地なのか?
それとも、そこから帰還するべき男が念頭にあるのか?
キャメロットの騎士というのは、あまりにクールなキャラクターだが……。
(アヴァロン、アルトリウス公といえば、当然これは「アーサー王伝説だ)。

クールといえば、反対に、ホットきわまりないのが、敵手トルケルだ。
投降してくるような奴はみんな殺せ!
いやー、わかりやすくて良い。
もっとも、たいていの戦国期の武将なら、どこの国の者であっても、
「リーダーを裏切るような奴は、次もまた裏切っちゃうだろうから、信用ならないもんね」
と考えるものだ。
ところが、トルケルの場合は、
「なーんだ、俺、戦いたかったのに降参するなんて、つまんねー!」
こっちが理由だそうだ。
面白い奴だけ、生かしておきたいのだ。

いいねえ。
こういう男は、大将にしておくには非常にわかりやすい(但し、部下として)。
絶対、自分の部下にはもちたくないタイプだけどな!
(その場合は、バカとハサミを使いこなせる度量が必要になってきそうだ)。

しかし、こういった強烈なキャラクターたちにはさまれて、主人公は、いささか立場がない。
なにせ、いまだに親父のかたきも討てずにいる状態だしなあ。
がんばれトルフィン。


ヴィンランド・サガ 5 (5) (アフタヌーンKC)/幸村 誠
2007年10月23日初版