『鋼の錬金術師 (14) 』 | 手当たり次第の本棚

『鋼の錬金術師 (14) 』

前巻が物語の、ひとつのターニングポイントであるとするなら、本巻は新たな局面がまさしく始まったという感じで、ちらり、ちらりと、あちこちに小さな疑問や事件の芽がちりばめられているようだ。
しかし、この時点で一番興味深いのは、シンの皇子リンだろう。

望んだのは、新たな罪。シン国皇子リンの想いが、新たな罪を産む。」

とは、腰巻にある言葉。
もとより、「敵」であるホムンクルスは、七つの大罪をそれぞれ名前及び特性として与えられているわけで、そう考えると、本巻でリンが迎え入れる運命は、ある程度、この腰巻の惹句にあらわされている事になる。

しかし、単にそれだけなのか。
罪をも飲み込み、受け容れようとするリンの姿勢は、一面、懐の深いものなのだが、反面、「欲深い」とも受け取れるわけで、さらに、もしかしたら別の含みもあるのかもしれないなどと、意味深な印象があるのだよなあ。
ここしばらくは、リンがどうなるのか、注目せずにはいられまい。

ところで、「欲が深い」というのは、しばしば、悪い事とされているのだが、
その根本は、生きようとする意志につながると思う。
生存本能が過剰に発揮された時、それは「欲望」となり、「罪」に数えられてしまう。
だが、その線引きは、誰が、どのように行うのだろう?

リンの求めた「罪」あるいは「真実」は、そこにあるのではないか。


荒川 弘
鋼の錬金術師(14)
2006年8月22日初版(発売中)