『テコンドー・バイブル』 はたしてテコンドーは実戦に使えるか | 手当たり次第の本棚

『テコンドー・バイブル』 はたしてテコンドーは実戦に使えるか

武術の本といえば老舗の愛隆堂、なんと最近はDVD付らしい。
もちろん、今までのように動きの分解写真プラス解説文というスタイルなのだが、これだと実は素人や、はじめたばかりの人にはわかりにくいものなので、DVDで動画が見られるなら、格段に「理解しやすくなった」と言えるだろう。
価格もそれなりにリーズナブル。

しかし。
こうして通し見てみても、テコンドーというのは、摩訶不思議な「武術」である(笑)。
まずは、冒頭にかかげた表紙の画像を見てもらいたい。
右側でハイキックをはなっている人物だ。
なんと両手は軽く握ったまま(握り込んでいるようにはあまり見えない)、
肘ごと、上に上げている。

これは、洋の東西を問わず、どのような武術・格闘技でも、ちょっとあり得ない事だと思う。
なぜか?
それは、弱点である脇が、がら空きになるからなのだよ。

なんなら、ボクシングでも、K-1でも、見てみると良い。
こんなに、どばっと脇をあけた格闘家は、まず、見る事はできない。

こういう写真を、堂々と、表紙にのせて恥じないのが、テコンドーなのだ(笑)。

本の中身を見ていても、このように隙の大きな写真は、容易に見つかる。
とくに、ハイキックや跳び蹴りを行う場合は、そうだ。
もちろん、高い蹴りを鋭く放つ事で、攻守一体としているのだ、と考える事は可能だろう。
だが、それは、
「常に敵は正面から来る。自分の足より遠い間合いを持つ武器を持つ相手はいない」
と考えている、としか思えないんだよねえ。

たとえばだよ。
正面に敵がいます。
だが、相手は必ず一人であろうか。
あるいは他の奴が横あいから攻撃をかけてくるかもしれない。

または、正面の敵は、長い棒を持っているかもしれない。
足は腕より長いものだが、たとえば、六尺棒(なんなら、箒やモップでも良い)よりも、短いんだよ?

私が棒でテコンドーの相手をするならば、ハイキックをはなった瞬間を狙って、横打ちするかな。
空手を使うならば、足を振り上げたところを狙って、横に転身し、脇を狙うか、相手の蹴り足を上げ受けで更に上へはねあげ、バランスを崩すか、間合いをさっと詰めて軸足を蹴る。
一時期、テコンドーの「かかと落とし」は有名になったものだが、実は、
「そういう技がある」
という事が知られていれば、対抗するのは全く難しい事ではない。
別段、武術の達人でもなんでもない私ですら、この程度の対策は即座に思いつく(笑)。

実際、映像を見ていても、テコンドーの攻撃というのは、適切にさばくならば、実に崩しやすいと思う。
隙も多い。

これはなぜなのか?

個人的な「感想」だが、それは、テコンドーが「実戦」で錬磨され、工夫された「武術」ではないから、じゃなかろうか。
もちろん、テコンドーの原型となった空手については、そうではない。
※ テコンドーは朝鮮半島の古い遊芸、テッキョンから生まれたという説があったが、現在では、韓国のテコンドーの偉いヒトが、松濤館空手などを学んだ韓国人がテコンドーを作ったという事を公にしている由。
しかし、テコンドーそのものは、たとえば中国のいろいろな武術や琉球の武術のように、民衆が護身のために編み出し、工夫してきたものではないし、日本の槍術、剣術その他のように、武士が合戦や闘争のために工夫してきたというような歴史は、ないのだ。

「ここを防いでおかなければ、こういう攻撃を受けた時に痛い」
という経験を、テコンドーはしていないのだと思う。

また、美容整形その他いろいろな美容グッズが発達しているというように、見栄えを非常に大切にするという民族性も、影響しているのかも。
実際、テコンドーのハイキックや跳び蹴りは、見ていて非常に美しく見える。
(時々、カカトがあがってますけどね<武術としては、あり得ない)。

あるいは、朝鮮民族というのは、どういうわけか、「蹴る」という事が好きなのだ、というのも、あるか。
サッカーなんかも熱狂的だものなあ。
韓国のアクションドラマを見ていても、また、韓国在住の方のブログなどでの報告を見ても、喧嘩の時、たとえば日本人と比較して、「蹴る」事がとても多いようだ。

ともかく蹴ろう、それもなるべく美しく蹴ろう、とした時に、それ以外の防御がおろそかになってしまうのではなかろうか。
同じ事をめざしているテコンドーの使い手どうしなら、問題ないのかもしれないし(事実オリンピックの、テコンドーの試合中継では、ボディはお互いノーガード、ひたすらキックを出し合うという試合展開がほとんどであった)。

ゆえに、もし、テコンドーを、テコンドー以外の武術や格闘技を使う相手との実戦で用いるのならば、一にも二にも、スピードがなくてはならないだろうと思う。
なにしろ、ハイキックも跳び蹴りも、動きが大きく、かつ次の動きにうつるまでの時間がかかるため、自分の身を守り、かつ相手に痛撃を与えるためには、ほんとに、速度がなくてはだめだ。

なにしろ、試合でなく、「実戦」だったら。
表紙の右の人のようなハイキックをはなった時、相手はそれを左右にちょっとよけつつ、中段蹴りを繰り出せば、なんとハイキックした人の股間に、それが命中するのだぜ?
(もちろん、試合なら、たいていのルールでは反則になる事だろうから、その心配はほとんどない)。
単純に比較しても、斜め上に蹴上げるより、相手の腹あたりの高さにまっすぐ蹴る方が、速い
従って、そういう相手の攻撃よりも速く、蹴上げる、望むらくは、その蹴りがはずれても自分が蹴られる前に最低限カカトを相手の上に落とせるだけのスピードが必要だろう、というわけ。
しかし、そこまでやったとしても、私が最初考えたように、蹴り足を受けられてしまっては、もはやどうにもならないはずだ。
受けられる事を避けるためには、もっともっとスピードが必要になるだろう。

あ。
ただし、蹴って上にあがってる足を「受ける」のは、言うだけは簡単だけど、
脚ってとても重い物なので、受ける方もそれなりの鍛錬をしていなければ、やっぱり、危険は危険(笑)。
しかも、「かかと落とし」の場合、カカトという、硬い部分を武器にするため、これが当たったら、もちろん、シャレにならない。


黄 進
DVDでマスター テコンドーバイブル