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2007-11-30 21:18:34

『悲恋』〈密命8 尾張柳生剣〉

テーマ:歴史・時代小説
梅が、香っているのだ。
荒れ果てた寺に、梅が、香っているのだ。
甘いなかにも清冽なのが、梅の香りなのだ。

さて。
今回、梅の香りにつつまれるヒロインは、惣三郎の娘、みわ。
彼女も、お年頃なのだな。
ここらあたり、タイトルなどからも即座に連想できてしまうとおり、みわの初恋は、悲恋に終わってしまう。
それも、シリーズ全体の流れからいって、悲恋の原因は、当然、尾張柳生の手によるもの、という事になる。

日頃、惣三郎が「剣士」としての道を歩んでいるのは、家族に迷惑なのだ、とみわが言う、まさしくそれが、この巻では現実になってしまったのだ。

しかし、そんな中でも、みわの初恋は、初恋らしく一途だ。
恋心ゆえに迷いもし、愁いもし、自分に嘘をつくこともあり、
そのあたりが、はたから見ていて(読んでいて)、もどかしくも、けなげにも感じられる。
正直言うと、イイ年をしたオジサンが書いたとは思えないほど、「少女漫画的」でもある。

この巻、木原敏江あたりに漫画にしてもらったらば、凄く、いいかもしれない!

肝腎の敵は、それなりにいやな感じの奴なのだが、とりたてて、それまでの敵手に比べ、凄腕とは感じられず、怪物的な要素も、これまで何人かそういうのが出てきたので、あまりぱっとしないように思える。
それに応じて、惣三郎の活躍も、ここでは、ややマンネリ気味だ。

そう、だからこそ、タイトル通り、みわの悲恋が物語の中心でありまくっている、と言えるのだ。

新装版の表紙の雰囲気、いいだろう?
もうほんとに、この表紙通りの話になっている。


悲恋 新装版―密命・尾張柳生剣巻之8 (祥伝社文庫 さ 6-38)/佐伯 泰英
2007年10月20日初版(新装版)
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2007-11-29 20:48:37

『ヴィンランド・サガ (5) 』

テーマ:歴史・時代小説
洋の東西を問わず、戦にのぞむ者は、「ツキ」を大事にしたと言われる。
まあ、今でも、ギャンブラーはツキを大事にするそうだけれど、戦などは、いわば究極のギャンブルなわけで、そう考えるなら、なるほど、ツキをかつぎたくもなろうというものだ。

逆に、リーダーからツキがはなれていると思うと、敗色が濃厚になればなるほど、部下は不安になるものなのだろう。
(そりゃ、ツキなんてどうでも良いと思っても、作戦ミスなどが続いたら、いや~な気分になるのは確実だ)。

それゆえの裏切りであり、
それゆえの策謀でもある。

王子様の身の上は、戦国のならいならば、ある意味典型的なものなのだが、
やはり、興味深いのはアシェラッドの言動だ。
純粋なデーン人ではないらしいアシェラッドの、真の目的は、いったい、何なのだろう?
飄々としたその表情の下には、何が隠されているのか。
もしや、西の方、海の向こうにあるというアヴァロンが、彼の目的地なのか?
それとも、そこから帰還するべき男が念頭にあるのか?
キャメロットの騎士というのは、あまりにクールなキャラクターだが……。
(アヴァロン、アルトリウス公といえば、当然これは「アーサー王伝説だ)。

クールといえば、反対に、ホットきわまりないのが、敵手トルケルだ。
投降してくるような奴はみんな殺せ!
いやー、わかりやすくて良い。
もっとも、たいていの戦国期の武将なら、どこの国の者であっても、
「リーダーを裏切るような奴は、次もまた裏切っちゃうだろうから、信用ならないもんね」
と考えるものだ。
ところが、トルケルの場合は、
「なーんだ、俺、戦いたかったのに降参するなんて、つまんねー!」
こっちが理由だそうだ。
面白い奴だけ、生かしておきたいのだ。

いいねえ。
こういう男は、大将にしておくには非常にわかりやすい(但し、部下として)。
絶対、自分の部下にはもちたくないタイプだけどな!
(その場合は、バカとハサミを使いこなせる度量が必要になってきそうだ)。

しかし、こういった強烈なキャラクターたちにはさまれて、主人公は、いささか立場がない。
なにせ、いまだに親父のかたきも討てずにいる状態だしなあ。
がんばれトルフィン。


ヴィンランド・サガ 5 (5) (アフタヌーンKC)/幸村 誠
2007年10月23日初版
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2007-11-28 23:10:25

『とりぱん (4) 』

テーマ:自然と科学
先日、第4巻が出た『とりぱん』、3巻とは様相をかえて、再び鳥の話満載となっている。
まあ、これは、とりの家の餌台が、主に越冬する鳥中心のようなので、仕方のない事なのだろう。
季節のうつりかわりとともに、観察の対象が変わるのは、避けられないというわけだ。
とはいえ、人気者「つぐみん」がパワーアップして戻ってきたのをはじめ、今回初登場のヒレンジャクが戦隊(!)を組んでいたり、餌台を訪れる鳥の数も種類も、大幅に増えている様子。
作者が、鳥たちによるエンゲル係数上昇に悩むようなシーンもある。

とはいえ、今回は作者が自然を観る目の、ポイントとなる部分なども登場し、
詩情に溢れる、地の文ともども、良い雰囲気の一巻だ。
それにしても、とりのなん子の漫画は、地の文が良い。
ふつう、漫画といえば、まず絵柄。そして台詞回し。地の文章は、二の次だと思うのだが、
本作に限っては、そこが読ませる部分となっている。
透徹とした目で自然を観るその視線は、遠く宮崎賢治に通じるセンスのようにも思える。
同じ東北ではぐくまれてきた感覚なのか。そこはなんともわからないが……。


とりぱん 4 (4) (ワイドKC)/とりの なん子
2007年10月23日初版
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2007-11-27 21:50:35

『初陣』〈密命7 霜夜炎返し〉

テーマ:歴史・時代小説
本巻は、剣術好きがわくわくする要素いっぱいな巻だ。
(といっても、そこは佐伯作品であるから、別に剣術好きでなくても、面白い部分は山のようにあるが)。

まあ、ともかくも……。
歴代の将軍の中でも武芸好きで知られた徳川吉宗が、泰平の世でなまくらになった侍に活を入れようと、享保の大剣術大会を開く事になったのだ。
つまり、全日本剣術大会吉宗杯。
各流派から選手を出す他、諸国を浪々とする武芸者からも選抜する。
吉宗公から主催者を命じられたのが老中水野であり、補佐するのが大岡越前、
となれば当然、惣三郎にも仕事がまわってくるというわけ。

普通に大会を催すだけでも、そりゃあ大変なはずだけれども、
そもそも、この時点でも、吉宗公は尾張と対立したまんま。
ゆえに、惣三郎らの心配は、剣術大会に尾張の刺客が紛れ込むのではないかという事で、余計に心配事が増してるという仕掛け。

一方、今は鹿島に剣術修行に行っている、惣三郎の息子の清之助は、ひとかどの青年剣士に成長しており、みごと、流派内で行われる予選を制して、鹿島一刀流の選手として大会ののぞむ事となる。
それを前に、黙々と、早朝、蝋燭の炎を斬り続ける清之助。
数年前から練り上げようとしている、清之助独自の秘剣なのだな。
これが、ちと「ありえねー」って感じではあるんだが、でも、凄くかっこいい。

そして、惣三郎らの危惧があたり、やはり紛れこんでいた尾張の刺客を含め、
剣術大会に出場した選手らは、正統派あり、異色のものあり、
その中で、本巻のヒーローたる最年少の剣士清之助は、清々しくもおいしい役を振られているのだが、
その他にも魅力のある剣士が何人も登場し、十人十色の勝負をみせてくれるので、
そう、ここらへんが剣術好きにはたまらない、というわけ。

幼かった清之助のみごとな成長ぶりも、親の惣三郎ならずとも、なんともまばゆく頼もしく、ここで物語は第二段階に入ったという気がする。


初陣―密命・霜夜炎返し (祥伝社文庫―密命シリーズ (さ6-37))/佐伯 泰英
2007年10月20日初版(新装版)
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2007-11-26 22:23:23

『兇刃』〈密命6 一期一殺〉

テーマ:海外SF・ファンタジイ
シリーズとしてはこちらより後発になる、〈居眠り磐音〉でもそうだし、〈酔いどれ小藤次〉でも同じなのだが、
事情あって主君のもとを離れた侍が、幸運と自らの腕で運命を切り開き、その結果、広い方面で知己を得、
かつ、いろいろな大名や旗本などから、仕えて欲しいと望まれる……。
それは、密命の金杉惣三郎も、全く同じだ。
しかし、いずれの主人公も、旧主ひとりが生涯の主君と定め、二君にまみえず、といって旧主のもとにも戻らないという生活を続けているわけだ。
それでも、君臣の絆が弱まらず、一種の友情のようなものが通っているのは、佐伯作品のパターンとはいえ、心温まるものがある。だからこそ、本巻は、おいしい仕立てなのだ。
すなわち、惣三郎の旧主、相良藩主斎木高玖から救難信号が届いたのだ!
(えす、おー、えす!)
いったい何事かといえば、そもそも惣三郎が藩から出るきっかけとなった事件、相良文庫にご禁制の「ばてれん」本が入り交じっていた、というのとちょっとつながりがある。
すなわち、先頃高玖がかかえた側女に、切支丹であるという疑いがかけられているというのだ。
しかも、その裏には、またしても、尾張の陰謀がちらついている。
もともと、惣三郎と高玖は、高玖幼少のみぎりに、惣三郎が剣をてほどきした、という関係があり、ここでも、主従というより、むしろ、高玖にとって惣三郎は兄に近いものだ、という関係がにおわされる。
これがまた、ちと微笑ましい(笑)。
しかし、尾張と紀伊(吉宗公)との代理戦争であるかのような、相良藩主と分家の争いは、ここにピークを迎える。
しかし、今回、惣三郎の前に立ちふさがる剣士は、なかなか異色だ。
長崎に近いところから出てきた者どもで、なんと、西洋剣術を使うのだ!
惣三郎の直心影流に対して、いきなり、アン・ガルデ!
フルーレで勝負なのだ。
うわー。
しかも、相手は団体競技なのだ(違)。
一糸乱れず突き出される西洋の細い剣。
これに対して惣三郎はどう戦うのか!
どうです、なかなかのみものだろう。
このあたりは、自らも九州が出身地であり、かつ、闘牛カメラマンとしてスペインを駆け回ったという、作者の経験がものを言っているのだろうか。
うん、そうなのかもな。


『兇刃』(佐伯泰英作 祥伝社文庫)
2007年10月20日初版(新装版)
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2007-11-25 21:39:11

『火頭』〈密命5 紅蓮剣〉

テーマ:歴史・時代小説
金杉惣三郎の表向きの仕事は、火事始末屋という事になっている。
これは、物語(シリーズ)の冒頭で、やむなく藩を出る事になった惣三郎が、偶然火事始末の現場を通りかかり、そこで、人手が足りないというのを聞いて、飛び込みで雇ってもらった事に端を発する。

これをきっかけとして、惣三郎は芝鳶(後の町火消「め」組)とも、親しくつきあうようになる。

本巻は、そういう背景をフルに使った物語なわけで、吉宗公と尾張の対決という図式のもと、火付け盗賊を巡って、誕生直前の町火消と大名が受け持っている定火消が激しく対立するのだ。

実際にそういう事があったのかどうかは、知らない。
しかし、もともと、江戸時代の前期には、旗本奴と町奴の対決、なんてものもあった事だし、フィクションだとしても、これはあり得ない話には見えない。
充分リアルであり、スリリングであり、わくわくする話だ。
今でも、火事が起これば、火事見物が集まるというが、火事というのは、怖ろしいだけに、「怖いもの見たさ」の魅力で人を魅了する部分も、確かに、あるのだろう。

しかし、今回跳梁する火付け強盗団も、やはり、尾張が送りこんだもので、一見、定火消が、自分たちの権益を侵害しそうな町火消設立の邪魔をするというのとあいまって、
(1) 町火消発足を邪魔する
(2) 江戸を火災によって疲弊させる
  ↓
吉宗公の改革政治をぶちこわし、将軍位を奪う
というのを狙っているのだな。

ここらへんの絡み合いも、幾つかの要素が複雑に影響しあい、時代劇としてもちょっとユニークな、面白い仕立てとなっている。
あえて難を言うならば、火付け強盗団の面々が、いちいち放火関係のスペシャリストであるのが、寄せ集め的ななりたちなわりに、出来すぎな感じがするあたりか。


火頭 新装版―密命・紅蓮剣巻之5 (祥伝社文庫 さ 6-35)/佐伯 泰英
2007年10月20日新刊(新装版)
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2007-11-24 22:30:04

『刺客』〈密命4 斬月剣〉

テーマ:歴史・時代小説
4巻は、またしても、前巻より少し(物語中の)時をおいている。
凄い剣の冴えを見せて奇怪な敵を倒した剣士、金杉惣三郎。
しかし、なんと今は、アル中の初老男(江戸時代基準)に……!

昼間から飲み屋に入り浸り、泥酔して醜態をさらしているというのだから、実にナサケナイ。

そういえば、酔いどれの小藤次などと違い、惣三郎はそれほど酒には強くないようだ。
もちろん、酒は好きなようで、飲むのだけれども、1升なんてとんでもない。
せいぜい、2合がいいところ。
なのに無茶飲みするから、悪酔いもする、というわけだ。

しかし、剣豪が主人公の小説であるからには(そして佐伯泰英作品なのだし)、これは擬態。
このナサケナイ状態を隠れ蓑に、惣三郎は表向き失踪を果たし、名前をかえて、なんと京都に現れるのだ。

本シリーズの場合、九州の小藩出身の惣三郎は、出身藩と旧主を守るため、否応なく、吉宗公と、その腹心である大岡越前のために働く事になっていて、敵手は当然、吉宗公の政敵にあたる、尾張という事になる。
今回も、もちろん、その尾張が京都で策謀するのだけど、なんと、吉宗公を倒すため、その緊縮財政の影響をもろに被った、公家や京の商人などをそそのかし、吉宗暗殺を目的とした、七人の凄い武芸者を送り出すという仕掛け。

となれば、話は単純なので、惣三郎がそれを防ぐため、七人と順番に戦うという筋立てだ。

非常に、シンプルとも言える。

しかし、七人の顔ぶれが実に良い。
求道的な武芸者もいれば、
庶民や身分の低い下士から身を起こして武芸者になった者もあるし、
武門で名を馳せた一族の者もおり、
さらに、異形の剣士もあらわれるという多士済々ぶり。

当然、シリーズ前半では、最も多くの、そしてバラエティに富んだ決闘シーンが満載で、剣戟好きなら、まず見逃せない一巻となっている。
といって、剣戟が好きでない人でも、多分、面白く読めそうかと思うのは、随所に江戸で待つ人々の様子や、刺客を操る側の様子などが挿入されており、それがまた、良い演出になっているからかと思う。

また、刺客がそれぞれ、菊一文字を携えるなどというのも、けれん味がかっていて、楽しい。
ここらへん、佐伯泰英は、エンタテイメントとしての時代ものの、ツボを心得てるよなあ。
私としては、山田風太郎的なにおいを感じるのだが、しかし、ぎりぎり、リアルな剣戟からもはずれないところに踏みとどまっているあたりが、佐伯作品の「バランス感覚」であろう。


刺客 新装版―密命・斬月剣巻之4 (祥伝社文庫 さ 6-34)/佐伯 泰英
2007年10月20日初版(新装版)
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2007-11-23 20:04:53

『おせん』 池波の異色短編集

テーマ:歴史・時代小説
池波正太郎といえば、鬼平、剣客商売、梅庵、そして真田太平記といったあたりが有名で、いかにも「男の世界」という感じがする。
実際、男をテーマにした作品とか、タイトルに使った作品も、いろいろある。

しかし、本巻は珍しく、「女」をテーマにした短編集なのだ。

特に、短編集の冒頭にある『蕎麦切おその』は秀逸。
継母との間がうまくいかないまま、(おそらくはその心理的な要因で、と作中に示唆されているが)、蕎麦以外全く受け付けなくなってしまった女、おそのが主人公。
極端な偏食のあまりに、「かたわもの」扱いされてしまい、性格が歪んでしまう。
しかし、蕎麦打ちには無類の妙技をみせるので、どこの宿へ行っても高級で雇われるし、反面、おそのも、おそのを雇った店も、嫉妬にさらされる。
もちろん、イヤミな女になってしまっているのだが、その背景には、前述のとおり、気の毒な事情もある。
そんな彼女が、最後にはどのようになるのか。

実を言えば、池波正太郎は、幾つかの忍者ものでも、魅力的な女忍者を描いていたりするのだが、
その筆は、やはり、市井の人々を描く時に、ひときわ冴えわたるようだ。

小説家にとって、異性のキャラクターを描くのは難しいと言われる。
実際、いかにうまく同性のキャラクターを描いている作家であっても、異性のキャラクターとなると、いきなり型にはまったものになったり、「異性らしくない」キャラクターになってしまったりする事は、多々ある。
もちろん、池波作品でも、作者にとっての異性キャラである女性は、男性キャラほどバリエーションがなく、主体性がないというきらいは、あるかもしれない。
(とくに、男が主人公のものは、どうしても副次的な役回りになるため、そうなってしまうのだろう)。

そりゃあ、どうしてもこうしても、生き物は性別によって生理的な機能が違うのだから、自分と違う性別の個体が、どんな風なものなのかを想像するのは、非常に難しいはずだ。

しかし、この短編集を読むと、そういうハンデをこえて、池波正太郎が鋭い人間観察力をもって、さまざまな女性を、ユニークかつ魅力的に描いている事がわかる。
また、それをもって、逆に、池波正太郎の人間観察力が、いかに鋭いかという事も実感できると思う。

(収録作)
「蕎麦切おせん」
「烈女切腹」
「おせん」
「力婦伝」
「御菓子所・壺屋火事」
「女の血」
「三河屋お長」
「あいびき」
「お千代」
「梅屋のおしげ」
「平松屋おみつ」
「おきぬとお道」
「狐の嫁入り」


おせん (新潮文庫)/池波 正太郎
1985年9月25日初版
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2007-11-22 21:42:34

『密命 残月無想剣』〈密命3〉

テーマ:歴史・時代小説
奥女中が、大番頭が、オランダ人が殺される。
かれらの命を奪ったのはみごとな一撃ながら、妖気芬々。
しかも、みな、口に御幣をつけた樒の一枝がくわえさせられていた……!

なんとも脈絡のない被害者のラインナップだが、唯一の共通点は、何らかの形で彼らが吉宗公と関わりがある事。
そして、吉宗公と会ったばかりの人間であった事。

これだけで、なかなか猟奇なスタートを切った本巻だが、下手人がまた、凄い。
話を、信玄VS家康の合戦につなげながら、とんでもない昔から生きている老人なんてものも登場し、最後の方には旗本八万騎を動員しての、世紀の大芝居まで待っているという、壮大な、大がかりな物語。

ここらへんの「あやしさ」は、山田風太郎を思わせるような部分があるのだが、それでも、妙に、地に足が着いたものになっているのは、たとえば、札差冠阿弥の関わる、江戸の金融界などがリアルに描かれていたり、酸いも甘いもかみ分けた岡っ引きの親分や、酸いも甘いもいっしょくたにした長屋の住人などが、ほどよい人情味を盛り込んでいるからなのかもしれない。

ところで、磐音や小藤次のシリーズでは、(将来はいざしらず)現状、主人公たちが、「両親と子」からなる家族を成していないのであるが、本シリーズでは、3巻目にして、家族がつながっていく様子がこまやかに描かれている。
「密命」フェアが、本シリーズを「剣豪小説にして家族小説」と煽るのもむべなるかな。
惣三郎としの、二人の間に、惣三郎の亡妻が残した二人の子、そして惣三郎としの自身の間に生まれた子、あわせて三人の子がある。
本巻では、ちょうど、しのと、なさぬ仲である二人の子が、親子の絆を結ぶ巻ともなってる。

もっとも、その様子は、本筋のかたわら、きれぎれに示唆されているだけなのだが、それでも、絆が次第にしっかりと結ばれていく様子が、読者には、手に取るようにわかるのだ。
こういう雰囲気が、なかなか、良い。


密命 巻之3 新装版 (3) (祥伝社文庫 さ 6-33)/佐伯 泰英
2007年6月20日初版(新装版)
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2007-11-21 22:02:58

『密命 弦月三十二人斬り』〈密命2〉

テーマ:歴史・時代小説
密命シリーズ第2巻。
しかし物語の中での時間的な流れは、1巻からすでに数年をおき、なんと主人公惣三郎は、藩の留守居役に出世している。
上役の寺村が、1巻の事件の後に中風で倒れ、藩に無事帰参する事となった惣三郎に、その役目がまわってきたという仕掛け。

じゃあ、パーフェクトに惣三郎は幸せかというと、そういうわけではなくて、
相愛になろうとしていたしのとはまだ一緒に暮らせていないし、
思春期にさしかかりつつある息子の挙動に悩んでいるし、
もちろん、仕事は大変。
なんせ、藩の財政立て直しまで、藩主から命令されている。
これが当然、借金達磨な藩だから、大変なわけで……。

つけている日記の名前が爪燈記。
爪に火をともすってか!

しかし、当然、世間の方も動いているわけで、ちょうど前巻では、柳沢吉保が隠居をするというタイミングだった。
その後、6代、7代の将軍が去り、とうとう、8代将軍吉宗公登場、というのが今回のタイミング。
将軍位にのぼるため、紀州から到来したところなのだ。
さて、この将軍は、徳川家の中興の祖とか呼ばれたりして、享保の改革が有名で、
一般的には、江戸時代のヒーローの一人でもある。

ところが、面白いことに、本巻で登場する吉宗公は、なんとなく、ダークなにおいが濃厚だ。
生まれ育ちから、絶対に不遇のままだろうと思われたこの人が、とんとん拍子に出世したのは、実に幸運だったと言われているわけだが、
「ほんとに幸運なだけなのか~?」
と、本作は疑問を投げかける。

怪しげな忍者っぽい集団も、2つも登場するのだ。

もちろん、将軍家に怪しい気配があるとすると、いわゆる御三家がしのぎを削る事になるわけで、そんな中に、たった二万石の小藩が巻き込まれたら、石臼に放り込まれた豆も同然。
その豆を救い出す役目が、惣三郎に負わされるというわけだ。

前巻の終わりから経過すること7年、経理事務に忙殺されていた惣三郎の体には、ちとガタがきている。
年齢だって四十路を越えたのだ。
その錆を落とすように奮戦するところが、「ともかく強い」時代劇ヒーローとは、ちょっと違う気がする。
また、そういうところが、人間的魅力を増している要素でもあるだろう。

一方、この時代のある有名な人物と知己となった惣三郎は、将軍家の危機に際して、かなりけれん味のある動きも、する羽目になる。
単に、主人公が弱みをさらすこともある、地味な部分だけでなく、ちゃんとこういうところもあるので、作品としてバランスがとれている、とも言える。


密命 巻之2 新装版 (2) (祥伝社文庫 さ 6-32)/佐伯 泰英
2007年6月10日初版(新装版)
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