山路を登りながら、こう考えた。
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。
意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。
有名な書き出しで始まる「草枕」。
名文と言うよりか、
格調高い文章というか、
芸術的な文章で、よくわからないけど感動します。
背表紙には、
「絢爛豊富な語彙と、多彩な文章を駆使して絵画的感覚美の世界を描き」
とある。
「坊っちゃん」「吾輩は猫である」や「こころ」とは、
また一味もふた味も違う文章に、
夏目漱石という人の奥深さを感じます。
■草枕 夏目漱石
世に住むこと二十年にして、住むに甲斐ある世と知った。
二十五年にして明暗は表裏のごとく、日のあたる所にはきっと影がさすと悟った。
三十の今日はこう思うている。
――喜びの深きとき憂(うれい)いよいよ深く、楽しみの大いなるほど苦しみも大きい。
これを切り放そうとすると身が持てぬ。
片づけようとすれば世が立たぬ。
金は大事だ、大事なものが殖(ふ)えれば寝る間も心配だろう。
恋はうれしい、嬉しい恋が積もれば、恋をせぬ昔がかえって恋しかろ。
閣僚の肩は数百万人の足を支えている。
背中には重い天下がおぶさっている。
うまい物も食わねば惜しい。少し食えば飽き足らぬ。
存分食えばあとが不愉快だ。……
草枕 (新潮文庫)/新潮社
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幸せのことを「怖いくらい幸せ」と表現することがある。
幸せだからこそ、それがいつまで続くのだろうかと不安になる。
大事なものが増えれば増えるほど、それが失われやしないかと心配になる。
かといって、幸せを求めないわけにもいかないし、
大事なものなんていらない、なんて淋しいことも言いたくない。
とかく、人の世は難しい。
正論を言えば、嫌われるし、
同情すると、流されたり、自分自身が疲れたり。
かといって、意地を通したり、自分を大事にしようと思うと、
人付き合いが悪いとか、もっと相手の立場に立つことが大事とか、
なんとも窮屈で、不自由で、息苦しくなってくる。
「じゃあ、一体どうすればいいんだ・・・」
と、ぼやきたくなるのが、人の世の常なのかもしれないけれど。
幸せってなんだろうか。
世渡り上手なことでもなく、
情に厚いのも、それはそれで大変そう。
自由に生きることと、意地を通すことの違いってなんだろう。
少なくとも、こういう「問い」は、
時代を超えて、共通するもののようです。
【心理療法入門 河合隼雄】
動きを止める「答え」よりも、 新たな動きを生ぜしめる「問い」を探す
【夢十夜 夏目漱石】
第七夜:無限の後悔と恐怖を抱いて黒い波の方へ静かに落ちて行った
【こころ 夏目漱石】
あなたはそのたった一人になれますか。 なってくれますか。
【なぜ生きる】
苦しみの新しい間を楽しみといい、楽しみの古くなったのを苦しみという