風の音にぞおどろかれぬる | ことのは学舎通信 ---朝霞台の小さな国語教室から---

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考える力・伝える力を育てる国語教室 ことのは学舎 の教室から、授業の様子、日々考えたこと、感じたことなどをつづっていきます。読んで下さる保護者の方に、お子様の国語力向上の助けとなる情報をご提供できたらと思っております。

 今週のことのは学舎の小学生の国語の授業では、古今和歌集のこの歌を教えた。

 

   秋立つ日よめる         藤原敏行朝臣

秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる

            (古今和歌集・巻4・秋上・169)

 

 今日は久しぶりに暑かったが、この数日はらしい気候であった。

 猛暑が続いていた日々から、突然になった感がある。

 

 小学生の授業が終わる時刻は、18時15分である。

 夏の間はまだ十分明るい。

 最近は、すっかり暗くなっている。

 小学生が帰る時間に外が暗くなっていると、の訪れを感じる。

 

 夏の間は、授業を終えた小学生が外に出て、「暑!」と叫ぶ。

 先日、外に出た小学生がこの秋初めて「寒!」と言った。

 は来ている。

 

 夜の空気が冷たくなり、どこからともなく金木犀の香が感じられる。

 である。

 

 八月の終わりごろから、夜になると草むらから虫の声が聞こえた。

 実はもう、は来ていたのである。

 猛暑のせいで気付かなかっただけである。

 

 気温日の長さ匂い虫の声など、を感じさせるものは多い。

 藤原敏行は、風の音秋の訪れに気付いた。

 繊細な聴覚の持ち主である。

 授業でこの歌を教えたとき、風の音の違いを感じられるかどうか、入り口の戸を開けてみた。

 聞こえるのは自動車の音ばかりである。

 たまに車が途絶えたときに耳をすまして集中して聞いてみると、かすかに風の音が聞こえる。

 言われてみれば、夏の風の音とは違う気がする。

 気のせいかもしれない。

 子どもたちは、「本当だ!秋の風の音だ!」とはしゃいでいる。

 1300年の時を超えて、藤原敏行と共感できた瞬間である。

 

 この歌の結句の「おどろかれぬる」「おどろく」という動詞は、はっとする、ということである。

 意識していなかったことに、はっと意識が目覚めるのである。

 現代語同様に、「はっと驚く」ときにも使う。

 現代語と違い、「はっと気づく」ときにも使う。

 寝ているときに「おどろく」とあれば、それは「はっと目を覚ます」ということである。

 高校生諸君、試験に出るから覚えておきなさい。