卒業~登校~

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退院して一か月。

 

学校側と相談の上、個別で規定外だが学校に慣れるという方法を取ってもらう。

 

授業は別室で、その時間に空いてる先生に協力してもらい勉強させてもらう。

時には職員室で、時には違う教室で。

 

正直有難かった。

 

勉強は元々好きで、物覚えも悪い方ではない。

教科書を開くと見えてくる様々な文字も、小説や絵本とは違う雰囲気が楽しいらしい。

苦手な教科もあるが、それはそれで『知る』ということが出来ることが嬉しいという。

 

安定している感じ。

安心できる環境。

 

生徒が教室に入った後の10分後に登校。

授業が終わる10分前には勉強を終え、帰宅。

生徒に会わない方法。

学年が違っても、『生徒』というだけで委縮する娘。

 

行ける時にだけ行く学校。

車での送り迎え。

授業に一緒に親も参加。

1時間だけの特別授業。

 

毎日ではないにしても、制服を着て学校に行く様を見ているのは親として感慨深い。

 

慣れてきたころ、先生からの提案で、時間を延ばしての授業を勧められた。

娘もその気になり3時間目からの登校。

2時間続けての授業。

 

何か月ぶりだろう。

小学校に上がりたての1年生の子を見守るように、学校まで送り見送る。

 

車での送り迎えは学校側からの指示。

 

『何かあっても心配』

 

それはそうだろう。

あんなことがあった後。

死を以て自らの人生を終わらせようとした娘。

周りの警戒心は半端ない。

 

娘のために時間を空けてのスケジュール。

以前なら考えられない。

 

仕事優先で家に帰らない時もしばしば。

ご飯も自分で作って食べる。

一人暮らししているような状態。

パパも朝早く夜遅い。

必然的に、娘はいつもひとりだった。

 

友達もいたが、今となっては他人。

小学校で特に仲が良かった友達も、さすがに娘の取った行動に理解を

示すことが出来なく声も掛けてこない。

それ以前に、入院していた時もねぎらいの言葉も何もなかった。

 

『あんなに仲良かったのに』

 

世間は冷たい。

世の中の冷酷さを一番に感じる。

 

学校に行けた。

なんとなくの安堵。

2時間だけの授業のため、学校の駐車場で帰りを待つ。

 

「ただいま」

「おかえり」

「楽しかった?」

「まあまあ」

「明日も行く?」

「明日は行かない」

「どうして?」

「疲れたから」

「そう。。。」

 

帰りの車の中の会話。

家に着くとすぐさま部屋に入る娘。

ご飯の時間にも部屋から出てこない。

1時間の時より疲れるらしい。

 

(学校に行っただけでも良しとしよう。)

 

自分に言い聞かせる。

 

翌日、担任からの電話で次の予定を組む。

一日おいての登校。

 

何回か行った学校も、いつも2時間の授業も苦痛らしく、登校自体も苦痛になりつつあった

 

2週間が過ぎ、大分慣れてきたとはいえ一向に教室に行きたがらない。

当然と言えば当然。

特に仲の良かった友人が同じクラス。

聞けば、身の毛もよだつと言っていた。

顔も見たくなければ思い出したくもない。

教室に入った瞬間に目を向けられる、あの空気感が怖いと言う。

 

ある日、学校に行くと保健の先生に呼ばれた娘。

授業で行っている約束。

先生たちとの話し合いをする時には、必ず親が同席することを条件にしていた。

 

約束が違う。

 

授業が終わる時間に戻ってこない娘。

この日は1時間だけの授業の約束。

2時間経っても帰ってこない。

 

やっと担任と一緒に校舎を出てきた娘を見て、安堵。

その時に聞いた保健の先生の話。

 

担任は申し訳ないとしきりに頭を下げる。

 

何があったか聞く。

 

担任「遅くなって申し訳ありません。授業に変更があり、一人で課題をやっていると

いうことだったので、自習という形を取らせて頂いている間に、何かあっても心配なので

保健の先生に様子を見るよう頼んだ所、保健室に呼ばれて話をしていたそうです。」

 

私「話が違いますよね?」

 

担任「申し訳ありません。」

 

私「先生は悪くないですが、娘に事情を聞きます。」

 

娘に向かい話す。

 

「何があった?」

「保健の先生が来て、保健室に来てと言われて行った。」

「そこで何があった?」

「・・・」

 

娘の様子がおかしい。

 

「何か言われたの?」

「・・・」

「どうした?」

「どうして教室で勉強しないのかと聞かれて、出来ないし行きたくないと答えたら

甘えだと言われた。」

「それで?」

「教室に行って勉強するから学校なんだよ。もう中学生で

小学生じゃないからそのくらいわかるよね?って。

それで、今までのことを言ったら、傷見せてって言われて腕見せたら、

そんなことやっても大人は許してくれないよって。

あとの傷も見せてって言われて、見せないといけないんだと思って

見せたら、どうしてこんなことしたの?自己PRしたかったの?って。

何も言わなかったら、言わないとわからないじゃない?もう子供じゃないんだから

少しは我慢もしないとみんなとやっていけないでしょ?

どうして教室に行けないのか考えたらわかるよね?

自分が良くないことをやったんだよね?

身体傷つけて何がしたかったの?

それがみんなに心配かけて、迷惑かけることになっているって知ってる?

心が弱い子でも頑張って教室で勉強しているんだから、君も教室行こうね。

って言われて、説教されてた。」

「2時間も?」

「うん」

 

私「先生はこの間どうされてたんですか?」

 

担任「授業が終わり、待っている教室に行ったらいなかったので保健室に行きました。

そしたら保健の先生と話をしていたので、そこで3人で話をしてました。

お母さんが待っているということは知っていましたので、呼びに行こうとしましたが、娘さんを

ひとりにしたらいけないと思い、それから事情を説明してお連れしました。」

 

私「わかりました。とりあえず帰ります。ありがとうございました。」

 

走り出す車を最後まで見送るように、担任の先生は深々とお辞儀をしていた。

 

その翌日から、娘はまた学校に行かなくなった。

 

続く...