卒業~奇跡~

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チャイムが鳴り警官と目を合わせた時、何が起きたかわからなかった。

 

「開けていいですか?」

 

の問いかけに、すぐに答えることが出来なかった。

 

「はい」

 

と答えたはいいが、恐怖しかなかった。

 

最悪の事態。

最悪の結末。

 

それしかなかった。

 

ドアを開ける警官。

 

そこに立っていたのは娘だった。

 

自分の目を疑った。

 

本当に娘?

亡霊?

 

いなくなったのは事実。

死んだとは聞いていないし誰も言ってない。

でも、もしものことは考えていた。

そんなこと望んでもいないのも確か。

でも、そこに立っていたのは紛れもない娘だった。

 

娘の名前を呼ぶ。

 

警官から、

 

「娘さんですか?」

 

との問いに、「はい!娘です!」

 

受話器の向こうの担任に娘が返ってきたことを伝え

電話を切る。

 

娘の側に行こうとしていた自分がいた。

身体が勝手に動いていた。

それを止める警官。

 

娘の後ろには作業服姿の見知らぬ男性が立っていた。

その男性は丁寧にお辞儀をしてこう言った。

 

「はじめまして。私、石◯と申します。

娘さんが一人でいたところ、辺りも暗く女の子なので

何かあってもと思いお連れしました。」

 

この言葉が終わった瞬間に、警官が男性と娘を連れて家を離れた。

 

一瞬何が起きたかわからなった。

でも、思い立ったかのように夫に娘が帰ってきたことを報告。

 

同時に、パートナーにも連絡。

今まさにこちらに向かうべく高速に乗る直前だったらしい。

とりあえず、家で待機してもらうことにした。

 

すぐに夫が帰って来た。

 

娘が帰ってきて喜んだのもつかの間、警官が来て

 

「お母さん、家から一度離れてくれますか?」

 

と言われ、ハテナがいっぱいだった。

 

「娘と話がしたいです。」

 

その問いにはこう返って来た。

 

「お母さんとの確執で家を出て行ったかもしれませんので、

事情はこちらで聞くので、とりあえず一旦外に出てください。

娘さんも寒がっているので着替えた方がいいので。」

 

確かに、夏とはいえノースリーブに素足。

寒いのは当たり前。

 

「じゃあ、着替えを用意します。」

 

と言うと、

 

「着替えは娘さん一人で出来ますよね。」

 

ということで、自分の家なのにさっさと追い出された。

 

外に出ると、パトカーの中に娘と連れて来てくれた男性が後ろの席に乗っていた。

 

その姿を尻目に家を後にする。

 

少し離れた公園まで歩く。

振り返ると直線上に家が見える場所。

 

パトカー3台

私服警官の車が3台

救急車が1台

 

赤色灯が回っていて、周りはかなり明るい。

 

その明かりから逃れるように、娘がパトカーから降りて行くのが見えた。

 

私は何をしているのか。

時間も午後の8時を回っていた。

 

娘が帰ってきた時のことを思い出す。

 

娘を連れて来てくれた男性。

娘の産みの父親と同じ姓だった。

彼はもうこの世にいない。

 

娘を助けてくれたのか。

とにかく娘は助かった。

どこで何をしていたかは知らない。

でも帰って来た。

それこそ奇跡かもしれない。

 

少し肌寒い夜。

 

2007年7月7日。

七夕。

 

織姫と彦星が会っているであろう時間に、

私は娘と引き裂かれた。

 

続く...