第十三回和歌朗詠ライブ 脚本原稿

 「言靈 美しき世界」 
 ~古事記宇宙草創傳説と神々の世界 2


◇シタール演奏  辰野基康氏     


◇出演       語部  松本ゆきえ
           詠ひ人 小林 隆  


 脚本            小林 隆
 和歌撰歌         小林 隆
 和歌創作         小林 隆



  天沼矛(あめのぬぼこ)の神勅  (『古事記』より)

 
是に天つ神諸々の命(みこと)以ちて、

伊邪那岐神(いざなぎのかみ) 伊邪那美神(いざなみのかみ) 

二柱(ふたはしら)の神に


「此の漂へる國を修理(つく)り固め成せ」


と詔(の)りごちて、天沼矛を賜ひて言依(ことよ)さし賜ひき。


 伊邪那岐神、伊邪那美神二柱の神は、天つ神からの命(を受けて、
 

愈々地球を生み成すお仕事を始められます。


 二神(ふたがみ)は天(あめ)の浮橋に立たれて天沼矛を指し降ろし、


  「鹽(しほ)こおろこおろ」


 と掻き回して引き上げた時、 


 その矛(ほこ)の先よりしたたる鹽(しほ)が積もりて島になりました。


 これが「淤能碁呂島(おのころじま)」です。


 この淤能碁呂島(おのころじま)に二神は天降(あまくだ)りまして、
 立派な天之御柱(あめのみはしら)を立てます。


 そして次に大きな大きな建物、八尋殿(やひろでん)を建てられたのです。


 さあ、これですべてを生み成す準備が整いました。

 和歌朗詠_

二神は天沼矛をさしおろし
   こおろこおろとかきなせしかも


 


伊邪那岐神は伊邪那美神に問ひます。


「汝(な)が身はいかになれる。」




「吾(あ)が身はなりなりてなりあはざる處(ところ)一つあり。」




「吾(あ)が身はなりなりてなりあまれる處一つあり。
 このなりあまれる處、
 汝(な)が身のなりあはざる處にさし塞(ふさ)ぎて、
 國生みを成さん。」

 


 阿那邇夜志(あなにやし) 

 愛袁登古袁
(えをとこを)





 阿那邇夜志(あなにやし) 

 愛遠登賣袁(えをとめを)



 ところがそこで生み出たものは
 骨の全くない軟体生物 蛭のやうなものでした。







 もう一度やってみよう。


 阿那邇夜志(あなにやし)
 愛袁登古袁(えをとこを)


 阿那邇夜志(あなにやし)
 愛袁登賈袁(えをとめを)




 しかし、また同じ結果です。


 そこで二神は話し合ひ、
 天つ神に相談にゆく事にしました。
 すると天つ神は次のやうにいはれます。





 「それは女(をみな)から聲を掛けたからです。
  男から聲を掛けなさい。」



阿那邇夜志 愛遠登賣袁

 ああ、なんて美しく素晴らしい人よ!



阿那邇夜志 愛袁登古袁_



 ああ、なんて素晴らしい人なの!


 こんどは上手くゆきました。

 そして、生れた島々が大八嶋秋津洲(おほやしまあきつしま)でした。
 これは日本の國のこと。





  和歌朗詠

讃へあふ美し言の葉あなにやし
   大和(だいわ)の世界生みいづるかな



あなにやし言の葉茂る神籬(ひもろぎ)
   となめあきつの宿れるを見ゆ
  (横尾敬一作) 
   




 最初に生まれたのが淡路島。


 次に伊豫之二名島(いよのふたなじま) 四国が生まれました。


 そして隠岐の島。次に筑紫の島 九州が生まれます。


 壱岐島、對島、佐渡島。


 最後に大倭秋津嶋(おほやまとあきつしま)つまり本州を生み成しました。






*「あなにやし」とは、讃嘆する言葉です。
 「ああ、なんて素晴らしいのだ」といふやうな意味です。




*神籬(ひもろぎ)とは、神が籠り宿って居る木の事です。
 一般的には榊(さかき)などを指します。




*「となめあきつ」は、日本の事を指してゐます。

 その謂はれは こうです。神武天皇が大和の山々を御覧になられた時、





 「連なる大和の山々の様子が
 まるでトンボの交尾が續いて居るようだと



『大和はなほ蜻蛉(あきつ)の臀呫(となめ)せるがごとし』

といはれ、その後日本の國の事を

『となめあきつ島』

といふやうになりました」



 *「臀呫」は「トンボの交尾」をいひます。





 和歌朗詠


八つの島われらがあれしこの國は
   神のみいのち溢れし地なり



國生みに許母理志(こもりし)大和の天津風
   吹きてとどけよ四方(よも)のはらからへ 


(次回に續く)