福井県立大学 生物資源学部 教授 村上 茂
 
1.はじめに
タウリンと言えば、栄養ドリンクに含まれる栄養成分として名前が知られており、化粧品、シャンプー、粉ミルク、キャットフードなどにも添加されているが、これらはすべて化学合成されたものである。タウリンは、もともと哺乳類をはじめ生物の体内に存在するアミノ酸誘導体であり、浸透圧調節、タンパク質安定化、Ca2+調節、抗酸化・抗炎症作用などを介して生体の恒常性維持において重要な役割を果たしていると考えられている。生体のタウリンは体内で生合成されるか、摂取する食物を介して補給される。食材の中では、タウリンは魚介類に豊富に含まれる。タウリンの腸管での吸収や細胞内への取り込みには、特異的なタウリン輸送体(タウリントランスポーター)が関与している。タウリンはほぼ全身の細胞に分布しているが、心臓、肝臓、腎臓、脳、筋肉、網膜などに高濃度で存在し、免疫細胞(好中球など)における濃度はミリモルオーダーに達する。ヒトではこれまでタウリン欠乏症の報告はないが、タウリントランスポーターを遺伝的に欠損させ、体内のタウリン量が低下したノックアウトマウスでは、低体重や臓器機能の異常、寿命の短縮などが見られる。また、ヒトを含め、タウリン補給はさまざまな疾患の予防に有効であることが報告されている。したがって、体内のタウリン濃度を保つことは、細胞の正常な機能を維持し、健康維持や疾患予防において重要であると考えられる。本稿では、タウリンがどのような物質で、生体でどのような働きをしているのか、また食品に含まれるタウリンを摂取した場合、体内でどのような効果を示すのか等について紹介する。

2. タウリン分子の特徴
タウリンは1827年に牛の胆汁酸から発見され、雄牛を表すラテン語のタウルス(Taurus)に因みタウリンと命名された。タウリンは、無味、無臭の白色結晶で、分子内にアミノ基と、カルボキシ基の代わりにスルホキシ基を持つアミノ酸誘導体である。タウリンはカルボキシ基を持たないため、他のアミノ酸のようにタンパク質合成には利用されず、体内ではほぼ遊離の形で存在する。カルボキシ基に比べスルホキシ基は強い酸であり、タウリンは生理的なpH範囲で双性イオンとして存在している。

このためタウリンは親水性を示し、比較的水に溶けやすい。また、タウリンは安定な化合物でほとんど代謝されることもない。胆汁酸との抱合や白血球が産生する次亜塩素 酸の中和反応を除き、反応性も低い。これらの特徴は、 タウリンが体内で浸透圧調節物質(オスモライト)と して働いていることを支持している1)。

3. タウリンと生物の進化
後述するように、タウリンは生体内でさまざまな作用を示し、細胞の正常な機能維持に関与している。これらの作用の中で、浸透圧調節物質としての役割が基礎的で最も重要な作用の1つである1)。海で生命が誕生した後、海水の塩濃度の変化に対して、生物はタウリンなどの浸透圧調節物質を利用し生命を維持してきたと考えられ、海に生息する魚介類は体内にタウリンを多く蓄積している。生物が進化し陸上に上がった後も、体内の浸透圧の調節においてタウリンは重要な役割を担っている。したがって、タウリンは外部環境の変化から細胞を保護する役割を担う物質であるといえる。実際、体内で浸透圧変化の激しい腎臓、活性酸素の発生や炎症反応が起こりやすい心臓、筋肉、血管内皮細胞などにタウリンは高濃度で存在している。最近、タウリンがさまざまな生物の生存に関わっている新たなデータが明らかになりつつある。たとえば、生命誕生の場とされている海底の熱水噴出域に生息する二枚貝は、硫黄酸化細菌を体内に共生させており、共生菌が硫化水素を利用して生産した有機物を摂取しエネルギー源として利用している。この際、タウリン誘導体を巧みに利用し、呼吸反応を阻害する猛毒の硫化水素を無毒化していることがわかってきた2)。また、コレラ菌はMIp37というタウリンを認識する受容体を持ち、胆汁の構成成分であるタウリンを認識して生体に感染する可能性が明らかにされた3)。このように、タウリンは細菌から人間に至るまで広範な生物の生命維持活動において、さまざまな形で利用されていることがわかる。

4. タウリンの体内合成、吸収、動態
タウリンは生体内で、メチオニンやシステインなどの含硫アミノ酸から合成される。生体のタウリン合成能は動物種により大きな差があることがわかっており、マウス、ラット、モルモットなどのげっ歯類はタウリン合成能が高く、ヒトやサルは低く、ネコは極めて低い4)。経口摂取したタウリンは腸管から速やかに吸収され、1~2時間後に血中濃度がピークとなり、数時間後には元のレベルに戻る。タウリンは必要に応じタウリントランスポーターを介して細胞内に取り込まれる。過剰なタウリンは腎臓から尿中へ速やかに排泄され、必要以上のタウリンが体内に蓄積することはない。一方、体内のタウリンが欠乏状態にある場合は、腎臓の尿細管でタウリンの再吸収を増やして尿中排泄を抑制し、体内のタウリン量を維持している。タウリンは一部腸内細菌による分解が報告されているが、ほぼ安定で代謝も受けにくい。

5. 食品中のタウリン
タウリンは野菜や果物など植物由来食材を除き、ほとんどすべての食材に含まれ、特に魚介類に多い5)。陸上の植物にはタウリンは含まれていないが、海の植物である海藻にはタウリンが含まれる。これは、海中に生息する動植物は海水の高い浸透圧から身を守るために、浸透圧調節物質としてタウリンを利用していることと関係していると考えられる。海では、タウリンを豊富に含む動物プランクトンが小型の魚のエサとなり、最終的にマグロ等の大型魚類が小中魚類を摂食することにより、海の食物連鎖を介して魚介類の体内にタウリンが蓄積される。エサからのタウリン補給に加え、魚介類の体内でもタウリン合成は行われている。マグロやブリなどでは、筋肉から成る血合い肉にタウリンが多く含まれる。タウリンは水溶性のため、水に浸けて保存したり、調理の際に茹でたり煮たりすると、食材からタウリンが失われる。

6.タウリンの生理作用と健康効果
ヒトの体内には体重の0.1 %のタウリンが含まれ、体重60 kgのヒトでは約60 gのタウリンが存在している。このうち60-70 %は筋肉にあり、Ca2+の動員、浸透圧調節作用、抗酸化作用などを介して筋収縮や筋機能維持において重要な役割を担っている6)。タウリントランスポーターを遺伝的に欠損させ、組織のタウリン量が減少しているタウリントランスポーター欠損マウスでは、筋肉のタウリンも減少しており、運動能の顕著な低下が認められる7)。実験動物を用いた研究により、タウリンが生体でさまざまな生理反応に関与し、また投与したタウリンが、高血圧、脂質異常症、糖尿病、脂肪肝などの生活習慣病をはじめとする疾患の予防効果を示すことが報告されている8), 9)。脳においては、タウリンは抑制性の神経伝達物質として作用し、興奮やストレスの抑制に働く10) 。また、心臓、肝臓、膵臓、腎臓、肺などの機能低下を抑制し11) 、皮膚の保湿12) にも関係している。タウリントランスポーター欠損マウスの表現型の解析結果からも、タウリンが脳、心臓、肝臓、筋肉、腎臓、眼、皮膚などの臓器機能維持において重要であり、タウリンの欠乏は糖や脂質などの代謝異常を引き起こすことが示されている7), 13)。タウリンはさらに、加齢による組織の機能低下を抑えたり、寿命を延長する効果のあることがマウス等で報告されている14)。先に示したタウリン欠乏による運動能の低下には、筋収縮能の減弱以外に、筋肉でのエネルギー産生や脳機能の異常も関連している可能性がある。また、タウリンは胎児や乳幼児の成長、特に脳の成長にとっても重要であることが証明されており15)、粉ミルクには合成タウリンが添加されている。海水魚はタウリン要求性が高く、タウリン含量の低いエサで養殖すると、成長抑制、行動異常、緑肝症などの異常が認められる16)。魚粉を含まない配合飼料にはタウリンの添加が必須となっている。

タウリンは生体で浸透圧調節物質として働いており、前述のように、安定で反応性は低い。しかし、例外的に生体内では他の物質と結合することがあり、1つはタウリンの古くから知られた胆汁酸の抱合作用である。胆汁酸は肝臓においてタウリンあるいはグリシンと結合することにより、毒性が軽減され水溶性が増す。近年、胆汁酸の特異的な受容体として核内受容体FXRおよびGタンパク質共役受容体TGR-5が発見され、胆汁酸は脂質や糖代謝、免疫をコントロールする重要なシグナル伝達物質であることが明らかとなってきた。これらの受容体に対する胆汁酸の親和性はタウリンの抱合により変化することが報告されており、タウリンは胆汁酸抱合を介して、間接的に全身のエネルギー代謝の調節に関与している可能性がある17)。また、好中球(白血球)などの免疫細胞にはミリモルオーダーの高濃度のタウリンが存在し、これらの細胞が殺菌のために産生する次亜塩素酸と結合し、タウリンクロラミンを産生する。これは毒性の強い次亜塩素酸の中和反応であり、タウリンは次亜塩素酸の過剰産生を調節している物質であると考えられる。興味深いことに、産生されたタウリンクロラミンは抗炎症作用を持つ。白血球やマクロファージなどの免疫細胞が浸潤している炎症部位では、タウリンがタウリンクロラミンに変化することにより、局所での炎症反応を制御している可能性が示唆されている18)。

培養細胞や実験動物における報告に比べ、ヒトにおけるタウリンの研究例は少ないが、世界25ヶ国、約2 万人を対象に、30年以上進められてきた家森らによる国際的な疫学調査研究(WHO CARDIAC Study)により、食事からのタウリン摂取が生活習慣病の予防に有効である可能性が示されている。尿中タウリン排泄量を指標とした食事からのタウリン摂取量は、虚血性心疾患による死亡率と負の相関が認められた19)。さらに、タウリンを多く摂取しているヒトでは、血圧、血中コレステロール量、肥満度などが低値あることが示されている20)。

これらの長年にわたる世界規模の疫学調査研究の結果から、食事からのタウリン摂取は高血圧、脂質異常症、肥満などの生活習慣病の予防に有用であり、循環器疾患の発症リスクを低下させることが明らかになってきた。尿中のタウリン排泄量を指標とした食事からのタウリン摂取量を見ると、欧米人に比べ日本人は高い値を示す。タウリン摂取量は魚介類の摂取頻度と相関関係が認められることから、タウリンは主に魚介類の摂取を通して補給されていることが示唆される。日本人を対象とした調査において、1日のタウリン摂取量は平均で100-200 mg、多い例では600 mg以上であった。疫学調査やヒト試験の結果から、1日300 mgのタウリンを摂取すれば生活習慣病などの疾患抑制効果が期待できるとされている21)。

7.タウリンの食薬区分
タウリンは日本において、医薬品として開発、使用されてきた経緯があるため、化学合成されたタウリンは医薬品に分類されている。タウリンが添加された栄養ドリンクは医薬部外品、医療現場で使用されるタウリン散は医療用医薬品である。したがって日本では、サプリメントや健康食品の原料として合成タウリンを使用することはできない。一方、日本以外のほとんどの国では、合成品を含めタウリンは食品に区分され、サプリメントやエネジードリンクのような清涼飲料水にタウリンを添加することができる。タウリンは多くの食材に含まれる天然成分でもあることから、現行の区分については以前より議論がある。

8.新たな治療薬としてのタウリン
日本において、タウリンはうっ血性心不全と肝機能の改善の効能を持ち、医療用医薬品としても販売されている。タウリンの疾患予防効果に関する最近のトピックスとして、ミトコンドリア病の1つであるMELAS(mitochondrial myopathy, encephalopathy, lactic acidosis, stroke-like episodes)治療薬への応用がある。ミトコンドリア病は、ミトコンドリア機能が障害され臨床症状が出現する病態の総称で、MELASはミトコンドリア脳筋症の中では最も頻度の高い病型である。全身性の筋萎縮や脳卒中様発作を繰り返しながら進行する。ミトコンドリアDNAがコードするtRNA遺伝子(tRNALeu(UUR))は、タウリン修飾されていることが知られているが、MELAS患者では遺伝子変異によりタウリン修飾が欠損しており、これによりタンパク質の合成障害が引き起こされる22)。MELASモデル細胞を用いた検討から、タウリンの添加によりミトコンドリア機能が改善し、MELAS患者においても、タウリン投与により脳卒中様発作が長期間にわたり抑制されることが明らかとなった23)。これらの結果を受けて、2013年から医師主導治験が開始され、2019年2月にタウリンがMELAS治療薬として承認された。

9.ネコとタウリン
前述したように、体内のタウリン生合成能は生物種により著しく異なり、特にネコは体内でタウリンをほとんど合成できない。さらに、ネコはタウリン要求性が高く、エサからのタウリン補給が減りタウリン欠乏状態になると、眼や心臓に異常を引き起こすことが知られている。ネコは肉食で、エサとなる小動物の肉や臓器、魚などを食べることによりタウリンを補給していると考えられる。ネコは日本において、ネズミ退治用に飼育されてきた。1970年代頃から、ネコがペットとしてより身近で飼育されるようになると、死亡するネコや眼が見えなくなるネコが増加し、米国の研究者たちが原因解明を進めたところ、ネコの病気や死亡原因はタウリン不足であることが判明した24)。タウリン不足では、タウリンが特に重要な役割を担っている眼の網膜や心臓の機能が低下し、失明や心筋梗塞を発症する。ペットとして、タウリンをあまり含まないエサを与えられたネコはタウリン不足に陥り、健康を害したのである。これ以降、市販のキャットフードには合成タウリンが添加されるようになった。ネコがどうしてネズミを捕るのか? ネコは動く小動物を捕獲するという本能があると言われているが、ネコにとってのタウリンの栄養学的重要性を考えると、ネコがネズミや魚を捕るのは本能的にタウリンを多く含む食材を認知しており、これらの食材摂取を通してタウリンを補給している可能性がある。

以上、タウリン分子の特徴、体内に存在するタウリンの役割、投与したタウリンの作用などを紹介した。栄養ドリンクに添加されているタウリンであるが、実は下等生物からヒトまで多くの生物の生命維持に関わる重要な生体内物質であることがわかってきた。しかし、単純な構造を持つタウリンが、なぜこのような多彩な作用を示すのか、解明すべき点も多く残されている。タウリン研究は1970年代から盛んになり、現在では世界で毎年500報以上のタウリンに関する論文が報告されている。タウリン研究の推進を目的に、日本では国際タウリン研究会日本部会が、世界ではInternational Taurine Societyが組織されており、タウリン研究者の情報交換の場となっている。今後さらに詳細で広範な研究から、生物におけるタウリンの重要性が明らかになり、新たな産業的利用の拡大にもつながることを期待したい。

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