【老化への挑戦-14】メグビーメールマガジンVol.111

三石巌全業績 17、老化への挑戦
 
「 からだが硬くなる」
 結合組織とコラーゲンとの関係について、もう少したち入っておく。そうしないと、コラーゲンのクロスリンクの増加が、いかに老化にかかわっているかがはっきりしてこないのである。
 まず、結合組織の成り立ちを見ると、コラーゲンのほかに、<エラスチン>と<プロテオグリカン>がある。エラスチンはタンパク質であるが、プロテオグリカンは糖タンパクである。プロテオグリカンは、もとは粘質多糖体と呼ばれ、多糖体の仲間とされてきた。ところがそれに10〜15%のタンパク質が含まれていることが発見されたので、粘質多糖体と呼ぶのは不適当になった。
 プロテオグリカンの形は、どことなく試験管洗いのブラシに似ている。それは、タンパク質でできた1本のしんから、150本ほどの毛がはえた形であって、毛の正体は<糖鎖>であり、多糖体である。
 プロテオグリカンの一番の大きな役割は水を保つことだ。1gのものに5Lもの水がつくといわれている。その水や無機質を除いて結合組織の組成を見ると、プロテオグリカンの割合は1〜5%というところである。しかし、軟骨だけは例外であって、プロテオグリカンが有機質の40%を占め、コラーゲンとほぼ等量になっている。
 結合組織は、主役がコラーゲンまたはエラスチン、脇役がプロテオグリカンということだ。動脈壁の結合組織はどこよりもエラスチンに富み、抜群の弾力を発揮する。ところが、加齢とともにその量が減ってコラーゲンが増えるので、弾力が失われてゆく。これは<動脈硬化>の一つの姿であるが、自然の自己運動であって病気ではない。年をとって身体が硬くなるのを問題にするとき、これを取り上げる必要があるだろう。このエラスチンからコラーゲンヘの変化は低タンパク食によって促進させるだろう、と私は推測している。
 老化への挑戦を結合組織の硬化の面からみるとすれば、タンパク質・ビタミンC・ビタミンB6・ビタミンAの補給に留意せよということになる。タンパク質は、コラーゲン・エラスチン・プロテオグリカンのため、ビタミンCはコラーゲンのため、ビタミンB6はエラスチンのため、ビタミンAはプロテオグリカンのためである。ビタミンAなしでは糖鎖はつくれない。
 年をとってからだが硬くなる現象は、筋肉において顕著である。これは、筋肉硬化とはいわれないで、コリといわれる。
 コリについて、私は次のように考える。筋肉を外からさわってみると、いわゆる紡錘型のものが手にふれる。このものは、平行に走る筋繊維の束になってある。その筋繊維のなかには、やはり平行に走る<筋原繊維>の束がある。平行に<フィラメント>がならんでいる。細いのは<アクチン>、太いのは<ミオシン>で、どちらもタンパク質である。太い方でも髪の毛より細い。
 筋肉が収縮するとき、二種のフィラメント が互いにそのすきまに滑りこむ。これを<滑り説>という。Z線のあたりからカルシウムイオンが放出されると、この滑りこみがおこるという。
 このフィラメントはレシチンのカバーをつけている。レシチンには、潤滑剤としての役割と、フィラメントの酸化を防ぐ役割とがある。と私は考える。ここに活性酸素がくると、レシチンの不飽和脂肪酸が酸化して過酸化脂質となる。その結果として、隣り同士のフィラメントのあいだに接着部分ができる。このように接着箇所があちこちにできると、その筋肉は硬化して機能低下をおこす、それがコリではないか、と私は考える。
 それとともに関節の可動範囲がせまくなる。そのために、筋肉の伸縮の幅もせまくなる。この結果として、フィラメントが短縮するだろう。
 硬化した筋肉は押せば痛い。これは過酸化脂質に亀裂が生じたためであろう。過酸化脂質はこのとき、強い<発痛物質>となる。年をとってからだが硬くなるのは、コラーゲンの架橋、エラスチンの減少にもよるが、筋肉の硬化によるところが大きい。若い者でも激しい運動をすれば筋肉が硬化する。筋肉の硬化、すなわちフィラメントの接着をほぐすのにはマッサージが効果的である。タンパク質とレシチンの補給がうまくいっている筋肉は、硬化がとれやすい。これらの栄養素の十分な摂取は、からだが硬いという老齢者の特徴を予防するのに効果があるはずである。
 年をとるとトイレが近くなることはよく知られている。これを腎機能の低下によると説く人がいるけれど、これはまちがいのようだ。このとき、タンパク尿も浮腫(むくみ)もおきていないではないか。この頻尿は、腹直筋の硬化によって膀胱の容積が小さくなるという物理的条件からきている。

「からだはくずれる」
 年をとればからだはくずれる。それが端的にあらわれるのは顔だ。シルバーシートにふんぞり返る高校生の目にも、前に立っている乗客が老人であるかどうかは、一見してわかるはずだ。老人の顔はくずれているのである。
 この顔面の老化現象に対する見方・考え方はいろいろだろう。これを合目的性の喪失といったら、取ってつけたようだ。秩序の崩壊といったら、少しはましな見方になるだろう。
 19世紀に熱力学の成立に貢献したことで知られる物理学者クラウジウスは、<エントロピー増大の原理>という理論を発明した。これを日常用語に翻訳すれば、「秩序から無秩序への推移」ということになるだろう、自然の自己運動というものは、エントロピー増大の方向にしか動かない、秩序がくずれる方向にしか推移しないという宣言がこれである。
 「賽の河原に石を積む」という文句がある。地獄の亡者たちが、賽の河原で石を積みあげて塔をつくろうとする。ところが積めども積めども石はくずれ落ち、塔は永久につくれない。石の塔は秩序の象徴なのだ。賽の河原の教訓は、自然の自己運動が抗しがたいものであることを示している。
 私はいま、若い頃の夏を想い出している。大学院生時代、私は住み込みの家庭教師として鎌倉にいたことがある。そこの次男坊は波乗りの名人だった。土用波が立つ時期には、毎日のように浜にゆく。4メートル級の波があれば、彼はさっそく海にはいる。沖に出て大波を待つのだ。私もついてゆく。
 中波や小波をやりすごして、われわれは大波の峰に乗る。海水がからだをもちあげてくれる。高みにいると、まもなくすさまじい音とともに波頭がくずれる。私はまちがいなしに波に巻きこまれてもみくちゃになる。
 彼はちがう、切立った崖のようにそびえる波の壁の高いところに顔を出して、滑らかにすべってくる。
 水面に波がおさまるとき、水分子は垂直な平面上で回転運動をおこなう。そのために生じた位相のズレが波となって直線運動をする、いずれも自然の自己運動である。彼は直線運動に従い、私は回転運動に従ったのだ。一方は爽快、一方は苦汁だ。
 この波乗りの教訓は、自然の自己運動は巧みに利用すべきものであることを示している。
 自然の自己運動を研究する学問を自然科学という。自然科学はわれわれに、自然の運動の法則を教えてくれる。自然の自己運動を利用するためには、その法則を自分のものにしなければならない。読者諸君はいま、活性酸素という自然物について、その自己運動の法則のいくつかを知った。
 活性酸素は、われわれの体内に間断なく発生して傷害事件をくわだてる。一方、これを除去しようとして働く物質がある。その戦いは知覚下に潜行するから不気味だ。それが静かに潜行すれば老化となり、爆発的に進行すれば病気となる。
 活性酸素除去物質の自己運動を巧みに利用すれば抗しがたいものに抗しうるのだ。
 顔の秩序がくずれるというが、くずれるもとの秩序は、いうまでもなく発生完了時のものだ。くだけていえば、それは成人式の顔のことだ。その若さに輝いた顔がすなわち、秩序の完成した顔なのである。それはその時点から、エントロピー増大の原理にしたがって、ゆるやかにあるいはすみやかに、くずれはじめるのである。
 こうしたことになると、秩序がつくりあげられる過程は、無秩序から秩序への推移でないかという疑問がおきるだろう。これはマクロの見方であって、ミクロの見方にすれば、これもまた、秩序から無秩序への推移という代価を払っての現象であることがわかる。こういうことに興味をおもちの方には、「偶然と必然」を読んで頂かなければならなくなる。
 首から上の外見上の老化は、何といっても男性において鮮明である。まず、頭髪から話をはじめよう。そこには、ハゲ型・シラガ型・混合型の3種があるといってよいだろう。
 毛髪というものは、透明なガラス管に黒インクをつめたような構造をもっている。ガラスの実体は<ケラチン>というイオウをふくんだタンパク質である。毛がこげるとくさいのは主としてイオウのせいだ。また、インクは<メラニン>という色素である。
 ケラチンの産生量がへれば、毛は次第に細くなり、ついには消失する。ハゲだ。ケラチンの産生量と比べてメラニンの産生量が少なければ、毛は白くなる、シラガだ。どちらも、秩序から無秩序への推移そのものといえるだろう。
 加齢とともに、ケラチンをつくる細胞もメラニンをつくる細胞も数がへる。さらにまた、ケラチンやメラニンをつくる酵素の活性が低下する。とすれば年をとって、ハゲもせずシラガにもならずということがあったとすれば、それは奇跡に近い。
 ハゲにもシラガにも遺伝があるようだ。恐らくこれは、例のHLA(白血球血液型)のちがいからくるのだろう。
 外から見える無秩序ではないけれど、年をとると耳が遠くなる。私の経験によれば、これは音波が受容できなくなることに関係している。音は聞こえてもことばが聞きとれないのだ。音声というものは、高周波の振動に修飾されてはじめて子音の特性がでてくる。その修飾が受容できなければ、ことばは聞きとれないのだ。
 耳から脳へは<聴覚神経>のケーブルが配線されている。このケーブルの断面を見ると、中心部には低周波用神経繊維があり、周辺部には高周波用神経繊維がある。この構造から考えると、<老人性難聴>ではケーブルの外側から傷害がはじまったとみることができるだろう。とすれば、聴神経のケーブルの環境に、細菌やウイルスのたぐいがあったか、それとも過酸化脂質があったか、どちらかではないかと考えられる、その根底には、聴覚の無秩序をもたらした犯人を活性酸素とする見方がある。
 老人の目が悪いのは通例だ。多いのは<老人性白内障>である。これは、水晶体のタンパク質が活性酸素にやられて変性し、不透明になる病変である。白内障の患者では、水晶体のSOD活性の低下、ビタミンC濃度の低下などが見られるという。
 また、<眼圧>が高くなる<緑内障>という眼病も老人に多い。これは、角膜のうしろの前房とよばれる部分に存在する<前房水>の灌流が悪くなる病気である。これの病因の一つとして、私は前房水の酸化による粘度の上昇を想定している。抗酸化物質の投与によってこれが全快した例は枚挙にいとまがない。
 活性酸素除去物質の摂取は、白内障予防にも緑内障予防にも効果をあげるだろう。それどころか、難聴予防にもシラガ予防にも効果をあげるだろう。活性酸素は、秩序崩壊の促進者なのだ。
 からだがくずれる現象の代表的なものは<ガン>であろう。もともと細胞というものは統制のとれた活動を営んで、生体の合目的性をつくりあげている。また、そのための秩序を保っている。その統制をはずれ、本来の役割を放棄して勝手な活動をし、しかもそのなかまをふやすのが<ガン細胞>である。これは、合目的性に造反するヤクザのようなものだ。
 ガンの原因は、<発ガン物質>ではないか、と反論する人もいるだろう。近頃、発ガン物質として騒がれているものにアスベスト(石綿)がある。これは要するに石の繊維であって、何の化学作用もあらわさない。それが発ガン作用をあらわすのはなぜだろうか。それは、異物として、すなわち、<非自己>としてマクロファージの攻撃対象になる。ただそれだけのことにすぎない。難攻不落の石に対して、マクロファージは際限なく活性酸素を放出する。これが発ガンにつながるのだ。
 賽の河原に石の塔を建立することは不可能だろう。それを以て瞑すべし、というのが現在の私の心境である。
 それにしても、とくに人生の転結の段階で、生体の合目的性を阻害し、秩序を崩壊に導く怪物が、科学者のメスによって正体をあらわすに至ったことは、まことにご同慶といわざるをえない。
 科学万歳を唱えることにしよう。

【三石巌 全業績 17 「老化への挑戦」より抜粋】

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