欧州の変化を端的に表現している元英国外交官の考察を見つけたので、備忘録として貼っておく。

 

 

 

The European Mutiny: The Consequences are Just Beginning 

Alastair Crooke (Director of Conflicts Forum; Former Senior British Diplomat; Author.) 

26 Jun 2024 00:48

 

ヨーロッパの反乱 : 影響は始まったばかり
アラステア・クルック (紛争フォーラム・ディレクター; 元英国上級外交官; 作家)

 

以下翻訳 by Kotaroe

 

リュッセル内のバイデン派は、ロシアに対するウクライナでの戦争の拡大のための米国のプロジェクトに全面的に投資している

今月の欧州議会選挙では、欧州連合の27カ国のほとんどの有権者が、遠く離れたEUの体制を軽蔑している政党に結集した。

フランスでは、かつてタブー視されていた国民連合がマクロン大統領の党を2対1以上で上回った。ドイツではショルツの政党であるSPDが13%の支持率で崩壊し、同時に連立政権の他の構成要素も崩壊した。緑の党は12%に下落し、FDPは一般投票のボーダーライン5% (5%はドイツ議会のエントリーレベル) だった。

欧州議会中道派が「持ちこたえた」と主張する記事は数多書かれているが、新しく選出された欧州議会議員がまず集まってEUのトップポスト、すなわち3人の「議長」(欧州委員会議長、欧州理事会議長、欧州議会議長)と上級代表(EUの「外務大臣」)を承認するまで、そのことも不確定なままである。


今のところ、欧州議会の構成は激しい内部闘争の対象となっている。これらの選挙は、EU内で立法を発議する機関ではなく、全般的な監視を行うことになっている欧州議会のみの選挙であった。

 

直近の欧州の本当の選挙は国政選挙だ。

それ自体が「指針」であり、決定的な投票はブリュッセルの超国家的センターではなく、国家レベルで行われている。

「本当の」選挙はフランスと英国で行われているが、後者はEUの外にある。それにもかかわらず、英国の投票は、まさにその支配層が米国の政策に従うことで知られるようになったため、欧州の意見の重要なリトマス試験紙である。

有権者の間の反体制と反官僚主義の噴出は、エリートたちを驚かせ、混乱させた。与党の由緒ある保守党は敗走しており、7月4日以降、意味のある政治組織として生き残れないかもしれない。

ドイツでも、ショルツの「信号機」連合は、悲惨なEU選挙の後、生き残れないかもしれない。ショルツ政権は400億ユーロの予算不足を抱えている。それは、ショルツと連立相手がギャップを埋めるために連邦支出を削減する必要がある推定額だ。ドイツの与党内では、昨年、ドイツの最高裁判所の判決が同国の財政に600億ユーロの穴を開けた後に起こったように、著しく弱体化した連立政権は予算に関する別の過酷な論争を乗り切れない、というコンセンサスが形成されている。

 

そして9月には、ブランデンブルク州、テューリンゲン州、ザクセン州で重要な州の投票が行われる。世論調査によると、「ドイツのための選択肢 (AfD) 」はいずれの地域でも勝利しており、いずれもドイツの東部と中部に位置している。旧東ドイツ内では、ユーロ選挙で40%の票がAfDか、逆張り政策を掲げるサラ・ヴァーゲンケヒトの新党に流れた。


フランスでは、エリート階級の状況は同様に悲惨である。過去数日間の一連の世論調査は、マクロンの中道同盟を覆う暗雲を反映している。世論調査によると、国民集会はフランスの下院である国民議会の過半数に近づいている。

国民連合が過半数を獲得した場合、ジョーダン・バルデラが首相に就任する可能性があり、その影響はフランスだけでなくEUやその他の地域にも及ぶだろう。同党がブリュッセルに対して対決姿勢を取るのは当然だ。 イタリアでは、ジョルジャ・メローニが主要な政策スタンスでブリュッセルに便宜を図ろうとしているが、バルデラがそれに倣う保証はない。あるいは、メローニがバルデラと同盟を組まないとも限らない。

この「反乱」は長い間続いている。移民政策、グリーン・ファーム政策、高圧的な官僚主義などのEU政策は、大きな怒りに火をつけた。しかし、ほとんど表に出されず、小声で語られている差し迫った問題がある。ウクライナだ。

 

ブリュッセル内のバイデン派は、ウクライナにおける対ロシア戦争の拡大 (少なくとも11月まで) のための米国のプロジェクトに全面的に投資しており、その後、欧州はロシアとのその後の全面対決に備えると予想されているーおそらく、米国防総省が準備に追われている中国に対する米国の軍事行動と連動するように仕掛けられるだろう。 もちろん、「すべて」は米国の選挙結果にかかっている。

「計画室」の中の大きな問題は、ヨーロッパ人がロシアとの戦争を望んでいないということである。 それが支配層によってどんなに強く主張されても、明らかに欧州の利益にならない。

国民連合はウクライナ支持に反対しており、ワシントンの「リード」に最も忠実な指導者であるショルツでさえ日曜日のインタビューで、伝統的にロシア寄りの姿勢をとるドイツ東部の一部地域でSPDの支持率が7%に満たないことを認めた。

「何かがそこで起こっている。それを回避する方法はない」とショルツは叫んだ。

ショルツはさらに、SPDの支持率が低迷しているのは「ウクライナ支援やロシアに対する制裁に多くの人が賛同していない」ためだと認め、「これは(より広範囲にわたる、悪い)選挙結果にも反映されている」と述べ、 「それを変える以外に選択肢はない」と 語った。

 

そして、安全保障問題で伝統的に米国の「先に出ようとする」英国でさえ、政権与党の保守党の支持率を追い抜く寸前まで急追している改革党のナイジェル・ファラージが「言ってはならぬ」発言をしたことで、体制側は卒倒した。


彼は、NATOのロシア国境へ向かう永遠の拡大がウクライナ戦争の原因だ、と言った。彼が隊列を乱し、言うに言われぬことを口にしたとき、(比喩的に)「ピンが落ちる音が聞こえるほど静まり返った」

さて、ファラージはーあなたが彼を好きかどうかは別としてー完璧な政治家である。 ファラージは風向きを見極める術を知っている。

フランスとドイツは、歴史的にヨーロッパのエンジン役を担ってきた。しかし、EUは長年にわたり、ヨーロッパの国民国家の特権を簒奪し、それを超国家レベルで再投資することによって自らを築いてきた。 

今世紀に入ると、ロンドン、ベルリン、ローマ、アテネは、有権者が憂慮するほど、以前よりもはるかに自治力を失っていた: ブレグジットはそのひとつの結果だった。


C. コールドウェルはNYタイムズ紙にこう書いている。「
ヨーロッパ人のほとんどは、フランス、ドイツ、イタリア、その他のヨーロッパの歴史的国家を、意味のある政治的単位として消滅させることを最終目的とした計画に自分たちが参加させられていることに気づいていなかった。ブリュッセルは、その計画の本質を隠すことによってのみ、その計画への同意を得ることができた。しかし、ヨーロッパの若い世代は、そのごまかしを見抜いているようだ。私たちは、その結末の始まりにいるに過ぎない」。


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The beginning of the end of the end of the beginning has begun.

 

A sad finale played off-key on a broken-down saloon piano in the outskirts of a forgotten ghost town.

 

by Monsieur Gustave / The Grand Budapest Hotel 

 

始まりの終わりの終わりの始まりが始まった。

 

忘れ去られたゴーストタウンの郊外で、壊れたサロンピアノが奏でる調子外れの悲しいフィナーレが流れる。

 

ムッシュー・グスタフ 映画グランド・ブダペスト・ホテル

(訳 by Kotaroe)

 

       数字が大きいのが危ない