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Jiro's memorandum

泉治郎の備忘録 読書の感想や備忘録 ※ネタバレ注意
【経歴】 日本株アナリスト、投資銀行、ネットメディア経営企画、教育事業経営、人材アドバイザー、新聞社経営管理、トライアスリート

 

 

「AI分析でわかった トップ5%リーダーの習慣」(越川慎司)

 

 

以前読んだ「AI分析でわかったトップ5%社員の習慣」が結構参考になったので、こちらも読んでみた。

 

「AI分析でわかったトップ5%社員の習慣」は、精神論や(なんとなくの)経験論ではなく、客観的事実を基にした分析によって書かれているので("AI"は大げさな感じもしたが)、それまで読んだ自己啓発本とはひと味違う納得感あり、新しい気づきもあり、参考になった。

 

本書も似たような感想で、新しい気づきもあった。優秀なリーダーのイメージもちょっと変わった。ただ、少し考えてみれば「たしかに」「なるほど」と思えるようなことばかりで、今回も結構参考になった。

 

 

優秀なリーダーは、ひとことで言えば「心は温かく、頭は冷静に」といったところか。「頭は冷静に」が特に重要。

語源の“Cool head,but warm heart”は「心は熱く、頭は冷静に」と訳されることもあるが、「心は温かく」の方が、本書が評価するリーダーにはしっくりくる。

 

 

優秀なリーダー(もしくは尊敬されるリーダー、ついていきたいと思われるリーダー)というと、チームを引っ張る気持ち全開でメンバーを鼓舞したり、率先垂範とばかりにモーレツに働いたり、立ちはだかる壁に果敢に挑戦したり、というイメージが先行しがちだ。

 

しかし、実際に成果を上げているリーダーを様々な視点で分析した結果、冷静にリスクを見極め無茶をしない、メンバーのやる気やタレントに依存しない仕組みを作る、失敗確率を下げる方向で思考する、コツコツ地盤を固める、という特性が浮かび上がる。ややもすれば魅力に欠ける人物像に映りかねないが、総じて納得感があった。

 

 

とかくドラマチックな成功を遂げたリーダーは強烈に人々の印象に残る。だから、一見勇敢なリーダーが賞賛されやすい。しかし、真のリーダーは、派手なことはやらず、心に余裕を持ち、冷静沈着な判断で、確実に成功に導いてくれるリーダーだ(地味で印象には残らないかもしれないが)。

 

 

 

 

以下、備忘

 

 

 

AIが突き止めた!トップ5%リーダーの意外な特徴

◆トップ5%リーダーの59%は歩くのが遅い
※意図的に時間と気持ちの余裕をつくっている
※メンバーが声をかけやすい


◆トップ5%リーダーの58%は話が短い
※「伝わること」重視、メッセージはコンパクトに
※最終目標は「行動させること」


◆トップ5%リーダーの48%はメンバーにかなわないと思っている

◆トップ5%リーダーの65%は思いきった決断をしない
※成功確率を上げるより、失敗確率を下げようとする
※やっていたことをやめる決断や重要じゃないタスクを受けない決断をする
※「失敗確率を下げる」と発言をしたのは、5%リーダー291名、一般的管理職4名。成功例を真似することに注力している一般的管理職は891名、5%リーダーは3名。(トップ5%1841人、一般的管理職1715名へヒアリング)
※成功例を真似して成功を目ざす一般的管理職、失敗例をもとに発生原因を追求し失敗確率を下げていく5%リーダー


◆トップ5%リーダーの67%は「感情」を共有する



 

よかれと思ってやってしまう「95%リーダー」の行動習慣

◇95%リーダーは部下に答えを教える
◇95%リーダーは何でも「見える化」しようとする…
◇95%リーダーはタスク管理が自分のメイン業務だと信じる
◇95%リーダーは週報の作成にエネルギーを費やす
◇95%リーダーは定例会議で自分が7割話す
◇95%リーダーは感情で人を動かそうとする



 

トップ5%リーダーが実践する「8つの行動ルール」

[ルール1] 「やる気」をあてにしない
※やる気がないと業務が進まないというのはリスクが大きい
※やる気がなくても業務が実行される仕組みを作る


[ルール2] チームで解決する..

[ルール3] 異質を歓迎する....

[ルール4] ストイックにならない
※がむしゃらに仕事を進めるのはリスク、冷静かつスマートな業務遂行が成果につながる、努力や根性は決してアピールしない(仮に頑張っても、それを隠してメンバーに見せない)

[ルール5] 根回しを構造化する..

[ルール6] 「伝える」ではなく「伝わる」を目ざす

[ルール7] 先にやめることを決める
※業務処理能力を上げることよりも、やめることを決めることが先

[ルール8] 心と身体で聴く…
※うなずきのバリエーションは一般管理職2.5パターン(「はい」「なるほど」など)に対し、5%リーダー5.2パターン(「はい」「なるほど」「そうですね」「うん」「やっぱり」など)



 

トップ5%リーダーの「自分磨き」

◆広げる円を持っている....

◆学んだことを手放す・・・・・
※新たな経験や知識を取得し続け、古い知識は手放す
※読書量は年間49冊(一般管理職の12倍)


◆口角を2cm上げて誤解をふせぐ
※相手が話しやすい表情と空気をつくる

◆内省タイムを定期スケジュールに入れる

◆偶然の出会いを必然にする「歩き回り」

◆人からチャンスをもらう・弱さを出して人脈を広げる




チームを活性化するアクション例

 

◆暇なふりをする
※「今ちょっといいですか?」と話しかけやすい雰囲気をつくる
※時間と気持ちに余裕をつくる
※チーム全体にも「時間的余裕」(すきま時間など)をつくる工夫をしている


◆会議冒頭に2分の雑談で発言者数が1・9倍に



 

5%リーダーの聴く様子

・5%リーダーのうなずきは平均12cm。その他リーダーより33%深くうなずいている
・5%リーダーは1つのうなずきに平均1.1秒かけている(一般的な管理職より1.5倍ゆっくり)
・5%リーダーが、相手の話にかぶって発言した回数は10分につき0.2回(その回数は一般的な管理職の3分の1以下)



5%リーダーが心がけている5つのNGワード

1.「最近どう?」というカジュアルな声掛け
※部下の意見「適当な感じ」「私に関心を持っていない感じ」
2.「最近忙しい?」という他人事のような声掛け
※部下の意見「勤務表見ればわかるでしょ」「忙しいとは言いづらい」
3.「だらだらやってない?」という性悪説の声掛け
※部下の意見「否定から入らないでほしい」「決めつけないで」
4.(ダ行からはじまる)「だけど、でも、どうしても、どうも」から話し始めること
5.テレワーク中に「あれ、これ、それ」と指示名詞を多用すること
※自分の伝えたいことと相手の認識がズレないように

 

 

 

 

5%リーダーは自らがもたらした結果すべてが実力だとは思っていません。

「運がいい」と言っていた5%リーダーが一般の管理職よりも4/3倍多かったのは、運と実力の差をわきまえている、とも言えるでしょう。コントロールできないアウト・オブ・コントロールの領域では、ラッキーなことも逆風も起きるでしょう。

5%リーダーは、逆風にあったときのマイナスのインパクトがないように、しっかりと備えをしているのです。チーム内でペアを組み、一方が何かあったときに、もう一方が支える仕組みを作っています。

エース人材のやり方を水平展開できるようにチームポリシーがあり、新人社員はそれを真似すればある程度の成果を出せるようになっています。パフォーマンスを出せないメンバーには得意なところを伸ばして、他のメンバーの補完ができるようにします。

このように、メンバーの強みと弱みを理解し、その掛け合わせでチームの成果を最大化するのです。

やる気があるかないか、ラッキーなことが起きるかどうか、優秀な人材が入ってくるかどうか、といった不確定要素に賭けをしないのです。やる気がなくても行動を継続する仕組みを作り、偶然の発見を必然にする情報収集をしたり、一個人の能力に大きく依存したりする体制は組みません。

こうした変化に心をしなやかに生き抜く5%リーダーは、レジリエンスな人材といえます。バネのようにしなやかに伸び縮みすることで変化に対応し、仮に何か失敗したとしても元に戻ります。相手に応じてコミュニケーションを変えたり、相手を観察して伝わるコミュニケーションを心がけたり、伝達することではなく行動させることを目ざす人材がレジリエンスな人材です。

 

 

 

 

 

 

著者:越川慎司


株式会社クロスリバー 代表取締役CEO
国内外の通信会社勤務を経て、2005年にマイクロソフト米国本社に入社。のちに日本マイクロソフト業務執行役員としてPowerPointやExcelなどの事業責任者。2017年に働き方改革の支援会社であるクロスリバーを設立し、メンバー全員が週休3 日、複業(専業禁止)を実践。800社以上の業務改善、会議改革や事業開発を支援。講演・講座は年間400件以上で平均満足度は94%。
著書に『AI分析でわかった トップ5%社員の習慣』(小社刊)、『仕事ができる人のパワポはなぜ2色なのか?』(アスコム)、『17万人をAI分析してわかった いやでも成果が出る考動習慣』(アチーブメント出版)、『29歳の教科書』(プレジデント社)など多数。

 

 

 

 

 

「売上最小化、利益最大化の法則」(木下勝寿)

 

 

木下勝寿さんの本は、以前「時間最短化、利益最大化の法則」を読んで今回2冊目。

 

財務面の話は概ね知っている範囲で、全体的にも前回読んだ本ほどのインパクトはなかったが、マーケティング面中心に参考になる部分は多々あり。特に「演歌の戦略」は面白かった。GLAYのケーススタディも知らなかったので勉強になった。

 

読み終わってから北の達人コーポレーションの業績をIR情報等で確認してみたところ、本書を書いた頃(2020年度)が利益率ピークで、その後苦戦しているようにも見える。

ただ、企業経営や戦略の考え方は共感できる部分が多いので、今後も北の達人コーポレーションおよび木下勝寿さんには関心を持っていきたい。

 

 

 

以下、備忘



「北の達人」の事業をひと言で言えば、「D to C」✕「サブスクリプション」。
お客様の悩みを解決する高品質商品を、ネット広告で宣伝して新規顧客を獲得し、その後も定期購入してもらう。

新しく市場をつくる仕事しかしない
新規事業、新商品開発の条件は「GDPが上がること」。競合からお客様を奪わない(2匹目のドジョウは狙わない、他社のヒット商品をマネることはしない)。

「びっくりするほどよいものができた」場合だけ商品化
実際に発売される商品は開発案件のわずか2%。本業では北海道の特産品を扱っていた会社が、副業として始めたから品質にこだわることができた。よいものができたら売るし、できなかったら売らない。

品質に集中
2回目以降のリピート購入は、品質力が大きい。売れ続ける商品こそ高利益を生む。他の中小企業ではマネできない品質を実現する。


「使い方マニュアル」に注力
顧客満足度は商品の品質に比例するが、「使い方を間違えている」場合が盲点。「使い方マニュアル」は、全役員・全社員の厳しい目でチェックし、頭を空にして説明どおりに商品を使ってみて、問題がないかみんなで確認する。


小さな市場で圧勝する戦略をとる
小さな市場を切り拓くヒントが「お客様の悩み」。例えば、「アイキララ」は世間ではアイクリームというカテゴリーの商品と後で知ったが、大手化粧品メーカーと競合するかというと、実際は「目の下の悩み解消市場」という従来なかったニッチ市場の製品なので競合しない。




目立たないプロモーションが利益を生む

売上が上がると、競合に目をつけられ、競争が激しくなり、利益率は下がる。
目立つプロモーションは会社にとってメリットがまったくない。
 

目立たないプロモーションで売上が上がると、競合が生まれないので永続的に成長できる。

「おたくの商品を見たことも聞いたこともない」と言われることがあるが、これは「ほめ言葉」と受け止めている。

ターゲット外の人はその商品の存在すら知らない。それは競合が生まれにくいということ。

「知名度がなくても実力があれば売れる」。お客様は「本物」を見抜く目を持っている。

購入者だけに商品の存在を知ってもらえればいい。

むやみに知名度を上げようとするとコストがかかる。

「認知したけれど買わない人」を削り、「買いそうな人だけ」に認知させる。

商品を必要とするお客様だけに知ってもらい、そのお客様と長くおつき合いする。

少しずつお客様が増え、結果的に知名度が上がるのが理想。




お客様に愛され続ける「演歌の戦略」

演歌歌手は「お客様と直接会って握手をすること」を大事にしている。
握手すると、テレビで見るだけの人気歌手より親近感が生まれ、応援したくなる(CDを買いたくなる)。「演歌歌手は3000人と握手したら一生食べていける」と言われている。

北海道出身の歌手はこの戦略を取る人が多い(北島三郎、細川たかし、松山千春、中島みゆき、GLAY、など)

GLAYはテレビに出ていたが、1999年に有料ライブの世界記録となる20万人を動員して以降、これ以上ファンが増えてもライブで受け入れられない、ということでテレビに出なくなったのではないか。

2010年からは自主レーベルを設立し、ファンクラブも自分たちで運営。ボーカルのTERUさんは、ファンの誕生日に合わせ、毎日バースデーコメントを一人ひとり個別に書き込んでいる。コメントをもらったファンは、一生GLAYのCDを買い続けるだろう。
逆に考えると、1日30分やり続けるだけで、一生買い続けてくれるファンを毎日量産している。これはとても効率的なマーケティングと言える。テレビで関係性の薄いファンをつくるより、一対一のコミュニケーションで関係性の濃いファンをつくるほうが効率的だ。

AKB48の握手会も「一対一」を象徴、これも演歌の戦略。




部下を変えようとしない。作業を変えよう

自分を変えることはできるけれど、他人を変えることはできない。
人は自分の意志でしか変わらない。
人が劇的に変わるのは多くて10年に一回。普通は20年に一回くらい。
「人は変わる」をあてにして仕事をするより、「人は変わらない」前提で仕事の仕組みを考えるべき。




利益を上げる=社会に貢献

企業が利益を上げることは、①お客様の役に立つ(お金を払いたいほど喜ぶ商品・サービスを提供)、②社会全体の役に立つ(納税という形で社会に還元)、の2つで世の中の役に立っている。

当社の一人当たり利益、一人当たり法人税額は大企業より大きい。従業員には「自分がこの国を支えているという自負を持ってほしい」と伝えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
「イーロン・マスク」(ウォルター・アイザックソン)

 

今年に入って、ジェフ・ベゾスフィル・ナイトハワード・シュルツ、などの起業家本を読んだ。過去には、スティーブ・ジョブズマーク・ザッカーバーグ、なども読んだ。

 

イーロン・マスクについての本も以前一冊読んだが、今回本書を読んでの感想は、ジェフ・ベゾスやスティーブ・ジョブスと比べても、一段次元の違う、さらにネジが2-3本飛んでしまっている、すごい人だな、という感想(もっとも、過去読んだ本の印象はどうしても時間とともに薄くなってしまうので、読んだ直後の過剰評価的印象もあるかもしれない)。

 

 

次元が違うところは、まずはビジョンの壮大さ。野心というより、純粋な好奇心や信念が原動力になっている感じだ(火星に人類を送る、エネルギー問題を解決する、言論の自由を守る、など)。

そして、リスクを積極的に取りに行くレベルも次元が違う。言い換えれば、アニマルスピリット(根拠のない自信)の次元が違う。あとは、経営している企業(もしくは事業)の数も多い(かつ、テスラ、スペースX、旧ツイッターのX.comなど、個々の事業のスケールもデカい)。

 

 

今回、イーロン・マスク氏の思想・思考を深いところから理解し、同氏にがぜん興味を持った。今後の一挙手一投足に目が離せなくなった。応援していきたいと思った(特に何もできないが)。こんな人と一緒に働いてみたいな、とも思った。

 

 

それでも、やっぱり一番好きな起業家は孫正義さんかな、と思っている。

 

 

 

※参照

「SHOE DOG 靴にすべてを」

「スターバックス成功物語」

「Invent & Wander ―ジェフ・ベゾスCollected Writings」

「ジェフ・ベゾス 果てなき野望」

「スティーブ・ジョブズ」

「フェイスブック 若き天才の野望」

「イーロン・マスクの世紀」

「孫正義 事業家の精神」
「アニマルスピリット」



以下、備忘




スポーツチームのキャプテン経験もなければ友だちをまとめるリーダーの経験もなく、本能的に友情を求めることもない。そのあたりはスティーブ・ジョブズと同じで、仕事仲間の気分を害したり恐れられたりすることをまったく気にしない。だれもが無理だと思った成果を挙げさせられればそれでいいのだ。

「チームメンバーに愛してもらうことなど仕事ではない。そんなのは百害あって一利なしだ」(イーロン・マスク)




「ほかの人と違い、金儲けの話をしないんです。自分は金持ちか極貧か、どちらかにしかならない、そのあいだはないと考えていたようです。いつも考えていたのは、解きたいと願う問題のことでした」(ジャスティン)




「私は生まれつき完璧主義なんです。私にとって大事なのは勝つこと、しかも大きく勝つことです。」(イーロン・マスク)




「ほんとうに画期的な出来事など、これまでほんのいくつかしかありません。単細胞生物の誕生、多細胞生物の誕生、植物と動物の分岐、海から地上への進出、哺乳類の誕生、意識の誕生くらいでしょうか。そのくらいのスケールで次のステップとなれば、これはもうひとつしかないでしょう。複数惑星に命を広げる、ですよ」(イーロン・マスク)




3回目の打ち上げに失敗した2008年8月、マスクは、次のロケットを6週間で用意しろと発破をかけた。マスク一流の現実歪曲法にしか思えない。なにせ、1回目から2回目までは12カ月、2回目から3回目までは17ヵ月もかかっているのだ。


いまも当時もそうなのだが、マスクのやり方は、ありえない締め切りを設定し、なんとかまにあわせろと発破をかける、である。




「きみがどうしたいかなどどうでもいい」とマスクは切れた。「やれと言ってるんだ」




オラクルの創業者ラリー・エリソンが社外取締役を引きうけたのはわずかに2社、アップルとテスラだけだ。そして彼は、ジョブズともマスクとも親しい友人になった。彼は、ジョブズもマスクも強迫性障害を持つが、それがいいほうに働いたケースだと考えている。

「彼らが成功した一因は強迫性障害にあります。問題に気づくと、なにがなんでも解決してしまう、そうせずにはいられないからです」

マスクがジョブズと違うのは、製品のデザインに加え、それを支える科学や工学、生産にまで強迫的な接し方をする点だという。

「スティーブは概念とソフトウェアさえきっちり押さえられればよくて、生産は委託していました。対してイーロンは、生産や材料、巨大な工場までなんとかしようとします」




「常識では不可能なら、非常識が必要になるわけです」(イーロン・マスク)




生産に関する会議では、テスラでもスペースXでも、マスクは「アルゴリズム」なるものを持ち出すことが多い。ネバダとフリーモント工場で経験した生産地獄から学んだ成果だ。

第1戒――
要件はすべて疑え。要件には、それを定めた担当者の名前を付すこと。「法務部」や「安全管理部」など部門名しか付されていない要件を受理してはならない。必ず、定めた本人の名前を確認しろ。そして、その要件を疑え。担当者がどれほど頭のいい人物であっても、だ。頭のいい人間が決めた要件ほど危ない。疑われにくいからだ。私が定めたものであっても、要件は必ず疑え。そして、おかしなところを少しでも減らせ。

第2戒――
部品や工程はできるかぎり減らせ。あとで元に戻さなければならなくなるかもしれないが、それでいい。実際のところ、10%以上を元に戻さなければならなくならないのなら、それは減らし足りないということだ。

第3戒――
シンプルに、最適にしろ。これは第2戒のあとにやるべきことだ。そもそもそこにあってはならない部品やプロセスをシンプルにしたり最適化したりしてしまうのは、よくあるまちがいだ。

第4戒――
サイクルタイムを短くしろ。工程は必ずスピードアップが可能だ。ただし、第1戒から第3戒までが終わったあとにやること。テスラの工場では、なくすべきだったとのちに気づく工程をスピードアップするのにかなりの時間を使うという愚を犯してしまった。

第5戒――
自動化しろ。これは最終段階だ。ネバダでもフリーモントでも、一番のまちがいは、ステップの自動化から始めてしまったことだ。要件をすべて洗い直し、部品や工程を減らせるだけ減らし、バグをつぶし切るまで自動化は待たなければならない。

このアルゴリズムを前提にするなら、必然的に導きだされることがいくつかある。例を紹介しよう。

・技術系管理職は実戦経験を積まなければならない。たとえばソフトウェアチームの管理職なら仕事時間の20%以上は実際にコーディングをしていなければならない。ソーラールーフの管理職なら、自分も屋根に上って設置作業をしなければならない。そうしなければ、馬に乗れない騎兵隊長、剣の使えない将軍になってしまう。

・仲間意識は危ない。相手の仕事に疑問を投げかけにくくなるからだ。仲間を苦しい立場に追いこみたくないという意識が生まれがちだからだ。これは避けなければならない。

・まちがうのはかまわない。ただし、自信を持った状態でまちがうのだけはやめよう。

・自分がやりたくないことを部下にやらせてはならない。

・解決しなければならない課題に直面したら、管理職に伝えて終わりにしないこと。階級を飛ばし、管理職の下の人間と直接会うこと。

・採用では心構えを重視すべし。スキルは教えられる。性根をたたき直すには脳移植が必要だ。

・気が狂いそうな切迫感をもって仕事をしろ。

・規則と言えるのは物理法則に規定されるものだけだ。それ以外はすべて勧告である。





自動運転を実現すると前にも約束したがそうなっていないではないかとただした。いや、まったくそのとおりとマスクは笑う。
「そうですね。私は、いつごろという予想がちょっと楽観的にすぎるところがありまして。ばれてしまいましたか。でも、楽観的でなければ、こんなことしていると思いますか?ありえませんよ」
この冗談に会場は拍手喝采だ。



 

ベゾスとマスクはある意味似ている。ふたりとも、情熱とイノベーションと意志の力で業界を根底から変えてきた。部下の扱いは手荒だし、なんでもすぐばかやろうと言い出すし、できない理由ばかり探す人がいると腹を立てる。目先の利益を追求せず、未来を見すえて進む。

だが、こと技術開発の方向性はまるで異なる。ベゾスは体系的に進める。モットーはラテン語の“Gradatim Ferociter”、「一歩ずつ、果敢に」だ。対してマスクは直感的である。めちゃくちゃな期日を設定し、リスクを取らなければならなくても構わず、そこに向けて周囲の尻をたたきまくってシュラバを生み出す。



 

(人に優しい職場のツイッターでは「心の安全」という言葉がよく使われていたが)
「心の安全」なる言葉を耳にしたとき、マスクは、ふっと苦い笑いを漏らした。切迫感、進歩、軌道速度など、彼が大事にするものの敵であり、背筋がぞっとする言葉なのだ。そんな彼が好んで使う言葉は「本気」だ。また、彼にとって、不安はいいものだ。充足感という病と戦う武器になるからだ。休暇、花の香り、ワークライフバランス、「心の休息日」など知ったことではない。




「並外れて優れていてやる気もすごくある人がごく少人数のほうが、かなり優れていてやる気はそこそこの人がたくさんよりいい仕事ができると、私は言じていますから」(イーロン・マスク)




マスクはスティーブ・ジョブズに似ている。頭はすごくいいが人当たりは最悪な現場監督で、現実歪曲フィールドを身にまとっている。部下に気が狂いそうなほど大変な思いをさせるが、同時に、できるはずがないと思ったことをやらせてしまう。味方に対しても敵に対しても、対決をいとわない。




AIの燃料はデータだ。今回登場したチャットボットは、膨大な情報で訓練してある。使われたのは、数え切れないほどあるインターネットのページをはじめとする文書だ。グーグルもマイクロソフトも、検索エンジンやクラウドサービス、電子メールなど、訓練に使えるデータがどんどん湧いてくる泉を持っている。
マスクはなにを携えてここに参入するのか。ひとつはツイッターのフィードだ。累計すると1兆ツイートを超えているし、いまも1日5億ツイート増えている。対話、ニュース、興味、トレンド、議論、わけのわからない言葉がぶんぶん飛び交う場で、最高に生きのいいデータが得られる。さらに、チャットボットの言葉に人がどう反応するかを調べ、訓練に生かすこともできる。これは買収時にマスクが意識していなかったツイッターの価値だ。


マスクには、もうひとつ、データの泉がある。テスラの車載カメラから送られてくる1日1600億フレームの動画だ。このデータは、チャットボットに適用するテキストベースの文書と異なり、現実世界を移動していく人間から見える風景だ。これを使えば、テキストを産むチャットボットだけでなく、物理的ロボットのAIも作れる可能性がある。




質問に自然言語で回答するチャットボットの開発ではOpenAIに大きく後れている。だが、物理世界を動き回るのに必要なAIについては、自動運転とオプティマスで大きく先行している。

このふたつをまとめ、本物の汎用人工知能を作ることについては、OpenAIより先を行っていると言えるだろう。

「テスラの現実世界AIは過小評価されています。テスラとOpenAIが仕事を交換したらどうなるか、想像してみればわかるはずです。彼らがこれから自動運転を開発する、我々は巨大言語モデルのチャットボットを作る。どちらが先にゴールに飛び込むか。我々ですよ」(イーロン・マスク)




スターシップの爆発はきわめてマスクらしい出来事だ。なにがなんでも高く狙い、思いのままに進み、大きなリスクを取って、目の覚めるような成果を挙げる――同時に、危ない感じの甲高い笑いをまき散らしながらあれこれ爆発させ、ぶすぶすとくすぶる残骸を残す。歴史を変えるほどの成果とド派手なしくじり、空約束、傲岸不遜な衝動に彩られているのがマスクの人生なのだ。成果も壮大なら失敗も壮大。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メンタル脳」(アンデシュ・ハンセン)

 

アンデシュ・ハンセン氏の本を読むのは3冊目。

 

重複感は少なからずあるものの、人間の脳は狩猟採集時代を生き抜くために進化している、という話は何度読んでも面白い。

 

人の感情や行動のメカニズムについての理解は今回も深まった。幸福感は長く続かない、という話が、今回特に参考になった。

 

脳の仕組み、感情の役割、などを理解しておけば、ストレスや不安にも冷静に対処でき、耐性力がつき、メンタル的な不調(うつなど)に陥ることから逃れられるだろう。

 

 

※参照:「スマホ脳」 「最強脳」

 

 

以下、備忘

 

 

 

幸福感(気分が良い状態)は終わりがくるようになっている

脳がごほうびに「満足」や「幸福」という感情を与えてくれる。
「幸福」という感情は私たちにモチベーションを与え、次の目標に向かって努力させるという役割がある。

 

狩猟採取時代、食べ物を手に入れたときの「幸福」が、また食べ物を探すモチベーションになる(でなければ飢え死にする)。

今の時代、新しいモノを手に入れて「幸福」になっても、すぐにもっと新しいモノが欲しくなる(まったくきりがない)。

脳の1番大事な仕事は「生きのびさせること」。脳はそのために感情をコントロールする。よい気持ちが長く続くより、短くした方が効果的なら(次の目標に向かわせるため)、脳はそうコントロールする。(この脳の特性を理解し、現代人は過剰な欲求を抑制すべき)

 

 

 

不安とストレスの違い

不安は「事前のストレス」。先生に怒られるとその場でストレスを感じる。一方「明日、先生に怒られたらどうしょう…」と考えるのが「不安」。

身体の中で起きている反応は同じでも、ストレスが現実の「危険」によって引き起こされるのに対して、不安は「危険かもしれない」と考えた時に(実際には危険でなくても)わき起こる。

どんな不安も、脳が「何かがおかしい」と私たちに知らせるための手段。不安の原因が漠然としていたり、ありえないようなものだったとしても、不安を感じると脳は全力を尽くしてストレスシステムを起動させる。

扁桃体の役割のひとつは「脳の警報センター」。扁桃体はその役割を愚直に果たそうとする。ちょっとした危険にも大々的に響報を鳴らす。念のために鳴らすこともある(実際には何事もない場合もある)。肝心な時に鳴らし損なうよりは鳴らし過ぎた方が良いという仕組み。脳の1番大切な仕事は「生きのびさせること」だから。



なぜつわりがあるのか

妊娠中は大量のエネルギーを必要とするのでたくさん食べなければいけない。一方、胎児の器官がつくられる妊娠初期は食中毒になったりしては大変で、何を口に入れるか、普段以上に用心深くなる方が防御メカニズムとしては上。なので、脳は「吐き気」を利用する。

また、現代よりずっと感染リスクが高かった時代においては、妊娠中の女性は他の人たちから離れて独りでいた方がよかった。なので、脳は「気分を落ち込ませる」という感情を利用して、引きこもらせようとした。今でも多くの妊婦は「人に会いたい」「何かをしたい」という気分がわかなくなる。



私たちが恐怖症になるようなことは、かつては実際命にかかわったこと

人前で話すことも「怖くてやりたくないこと」のランキング上位によく入る。それは、昔はそれがグループから追い出されるリスク(何かまずいことを言って嫌われるかもしれない)につながったから。追い出されてしまうと、ほぼ必ず死ぬ運命が待っていた。

ヘビやクモに恐怖心を持つのも、昔は命にかかわることだったから。現在のヨーロッパでヘビに噛まれて死ぬのは年間4人程度で、かたや自動車事故では8万人が亡くなっているが、自動車は最近の発明なので脳はまだ恐怖を抱くようには進化していない。



孤独の怖さ

歴史上、群れから追い出されることは確実に死を意味した。脳は孤独を大きな危険とみなす。


連帯したグループから追い出されないよう、脳は常に「私はこのグループに適している?」「ここにいさせてもらえる価値がある?」と問いかけてる。


しかし現代の私たちが生きる環境は脳が進化した頃とはまったく違っている。今ほど自分がダメに思える理由が多い時代はない。SNSでは常に他人のキラキラした人生が連続投下されてきて、それと自分を比べてしまう。いつだって自分が負け犬。ヒエラルキーの下へ下へと落ちていき、グループから追い出されるリスクが高まったように感じる。

グループに属すことは、どんな時代にも人間にとって身を守る最高の方法だった。だから私たちは常に他人と自分を比べ、ヒエラルキーの中で位置が下がらないように気をつけている。1番恐ろしいのはグループから追い出されることで、脳はそれを避けるためならどんなことでもする。



幸せなど気にしない方が幸せになれる

人間は満足する生き物ではなく、常に不満がある(そのおかげで生きのびてこられた)。

脳は「何が起きるのか」を事前に予測し、実際に起きたことと比べる。高い期待をすると、がっかりしてしまうこともある。妥当なレベルの期待をしていれば、満足する可能性は高まる。

幸せを追い求めるのはやめた方がいい。幸せは、追えば追うほど逃げていく。

幸せのレシピ(というものがあれば)
1.一緒にいて快適で、信用出来る人たちに囲まれる。
2.夢中になれて、意味を感じられることをする(他の人に対しても意味を感じられるようなこと)。
3.1と2を繰り返す。
 

 

 

 

 

脳の知識には脳の機能だけでなく、「なぜ」そのように機能するのかということも含まれます。それがこの本から得られる1番大事な知識かもしれません。だからもう1度書いておきます。

脳の1番大事な仕事は私たちを生きのびさせることです。そのために感情をつくります。しかし脳は現代とはまったく違う、常に命の危険があった世界で役目を果たすために進化してきました。脳が私たちにわかせる感情は必ずしも現代に適していません。

そんな知識を身につけることで、うつや不安といった状態が必ずしも病気ではないことがわかると思います。ましてやその人が壊れているとか欠陥があるとかいうことではけっしてないのです。脳が今の世界のことをよくわかっていないにもかかわらず、私たちを助けようとしているから起きることなのです。

 

 

 

 

 

 

 

「happy Money」(本田健)

 
 
本田健さんの本は何冊も読んだ。結局のところ、どの本も底流にあるエッセンスは同じなのだが、それでも毎回気づきがあったり、どこかで一度読んだような内容だけれども忘れていて再度共感したり、たまに読みたくなる作家さんだ。
 
この本は、まずアメリカなどで出版され、日本語に翻訳された本で、前から気になっていた。英語のサブタイトルは"The Japanese Art of Making Peace with Your Money"
 
 
お金がたくさんあれば幸せになれわけではないとよく言うが、まさに、お金に対してどのような価値観(本書で言えば「感情」)を持って生きるのか、ということは人生の幸福感や充実感を左右する重要なポイント。
 
気前のいいひと、太っ腹な人、無駄遣いする人、計算高い人、ケチな人、せこい人、汚い人、ずるい人、等々、お金に対する価値観/感情は本当に人それぞれだ。
 
 
お金に対してどんな感情を持っているか。それは、育ってきた環境、親の価値観、に大きく影響を受けている。この本を読みながら、自分のお金に対する向き合い方を客観視し、なぜ自分はそういう価値観/感情を持っているのか、小さいころから振り返って冷静に分析してみたりした。
 
すると、自分のお金に対する考え方を再確認することができ、なぜそういう考え方なのかを受け入れることで、今まで以上にハッピーな使い方をしようと思えるようになった。
 
自分自身は、お金について「信念のある人」「愛情のある人」になれれば、と思った。そして、自分の子どもに対しても、ハッピーなお金の使い方・向き合い方ができるよう導いていければ、と思う。
 
 
 
 
以下、備忘
 
 
 
「Happy Money」か「Unhappy Money」か。それは、お金を与えたり受け取ったりしたときに、そのお金がどんなエネルギーを持っているかで決まる。「Happy Money」の流れに入りたいと思うなら、「感謝することを選ぶ」だけでいい。



私は東京の大学に進学し、ビジネスやお金のことを教えてくれそうな先生を探しました。いろんなお金持ちを探しては、会いに行きました。
そういう出会いの中で、お金持ちと言われる人の中にも2つのタイプがあることに気づきました。お金持ちの中に、幸せな人々と不幸せな人々がいたのです。幸せなお金持ちは、家族とすばらしい関係を築いているように見えました。そしてどの人も、自分が大好きな分野で働いていました。また、従業員からも顧客からも大きな尊敬を集めていましたし、困っている人たちには最大限の援助をしていました。
一方、不幸せなお金持ちは、さらにどれだけ多くを稼げるかとか、どうしたらもっと資産を増やせるかといったことを、いつも考えて行動しているように見えました。彼らは新しいビジネスを生み出すことや、法に触れずに人を食い物にすることで頭がいっぱいでした。そして彼らは、典型的な「表裏のある人間」でした。



私たちはみんな、過去の影響を受けている

「あなたのお金の歴史」を調べていくと、あなた自身が、「お金についてどう考えるか」「これまでにお金とどんな関係を築いてきたか」がわかります。



お金との間に、心配もなければストレスもない関係を築く。それがどんな感じなのか、ほとんどの人は想像もつかないと思います。
「お金とともに心穏やかに暮らすことは可能だ」と想像してみてください。
お金に「愛情を持って」暮らしている人たちは、自分が愛着を持てる仕事を「しながら」、十分なお金を稼いでいます。事実、彼らはよく口にするのです、「もう十分だ」とか「必要なものは全部あります」と。お金持ちではないかもしれませんが、本当に必要なものは、すべて揃っているのです。彼らは、自分が愛情を持っているものを人生の真ん中に置いています。経済的に満足しているので、日々の生活の中で、お金に対してストレスを感じることがないのです。
彼らは、レストランやお店に行っても、値段ではなく、自分の好みで選びます。だからといって、いつも高いものばかり買っているわけではありません。ただ、自分が好きなものを選んでいるだけです。自分が本当に欲しいものを知っているので、やたらといろんなものを買い込むことも、高価なものやブランド品を買うこともありません。その品物が妥当かどうかを決めるのに、他の人のことなど気にも留めていないからです。彼らはもう、自分に満足しています。これがありのままの自分、なりたい自分なのですから。
そんな彼らですから、他者との間にも信頼できる関係を築いています。付き合うのは、自分の好きな人たちです。
わざわざ自分を曲げたり、相手の関心を引いてまで付き合うことはしません。自分たちの関心を引こうとする相手にも特に合わせません。



世界有数の大富豪ウォーレン・バフェットは、1958年に妻と3万1000ドル強で購入した家に今も住んでいます。
もっと豪華な邸宅に引っ越さず、いまだに慎ましい家に暮らしているのはなぜなのか?
BBCニュースで聞かれた彼は言いました。
「今の家で幸せだからだよ」



経済的にうまくいっている人の多くは、楽しいお金の流れの中で生きています。なぜなら、彼らは何をしてもお金を引きつけやすく、自分が本当にうれしくなるようなお金の使い方をするからです。




ゆっくり儲ける
※どんな職業でも長期間続けることができればお金持ちになれる

お金が流れる場所に行く
※お金は誰もいなくて何もない場所には流れない、人が多く集まる場所に流れる

自分にぴったりの仲間を見つける
※自分に共感してくれる人・評価してくれる人は、応援してくれる人

必要のないものを手放し、大好きなことだけをやる
※もっと手に入れ続けるのは無理

信頼できる人をつくる
※財産を失っても、家に泊めてくれる友人が多くいれば安心




お金の「幸せな流れ」をつくるためにできる10のこと
①お金を寄付する
②友人にお金をあげる
③友人に贈り物をする
④プラスαを提供する
⑤請求された額より多く支払う
⑥クライアントや上司に、贈り物やカードを送る
⑦お金を受け取ったら、素直に喜ぶ
⑧お金を使うときには、相手の幸せを祈る
⑨好きな人、お店から買う
⑩すべてに感謝する!




お金は交換手段、流れ(current)。だから、「通貨(currency)」。

 
 
 
 
 

 

 

「ローマ人の物語 27,28 すべての道はローマに通ず 上・下」(塩野七生)

 

「ローマ人の物語」も文庫本43巻中28巻までたどり着いた。これまで、塩野七生氏は、ことあるごとにローマ街道を高評価しており、「当時の高速道路」とか「ローマ軍はつるはしで勝つ」という表現を幾度となく目にしてきた。しかし、ローマ帝国のインフラに焦点を絞った今回の27,28巻を読んでの感想は “ローマ帝国のインフラは想像してた以上にすごい!(本当のすごさを理解していなかった!)” という感じだ。

 

ローマ帝国。読めば読むほど、面白い。知れば知るほど、すごい。2000年も前の時代なのに。

 


さて、次巻の「ローマ人の物語29」は"終わりの始まり"。ローマ帝国に忍び寄る盛者必衰の理。どんな教訓を学ぶのか、興味は尽きない。

 

 

 

以下、備忘

 

ローマ人が築きあげたインフラストラクチャー、ローマ人自身の言葉を使えば「人間が人間らしい生活をおくるためには必要な大事業」

 

 

■街道


同時代の支那人のように、山を越え谷をはい上ってはつづく長い防壁を築くのではなく、その十倍、いや二十倍の長さになろうとも道路を通すほうを選択したのがローマ人だが、彼らは、道路とは、国家にとっての動脈である、と考えていたように思われる。だからこそ、一本や二本の街道を通したぐらいでは充分と思えず、街道網を張りめぐらせていったのではないか。血管の中を通って身体のすみずみにまで血液が送られてこそ人間は生きていけるのだから、国家が健康に生きていくにも、血管網は不可欠である。


利用目的その1 軍団の敏速な移動

ローマは制覇した地に占領軍を常駐させず(勝者の常駐は敗者との間に摩擦を産みかねないから)、代わりに、何かことが起れば基地から移動させるやり方をとっていた。

重い兵器も効率的に運搬できるよう、可能なかぎり平坦に、直線に、そして風が運んでくる土さえも溜まること不可能というほどにすき間なく敷きつめた石で舗装。

「ローマ軍は兵站(ロジスティクス)で勝つ」


利用目的その2 一般の人々と物の交流

ローマ街道の特色の一つは、町の中央を通り抜けていく点。町の周囲をめぐる環状線は、ローマ人の考えにはない。町の中央を通すことによって、ローマ軍団だけでなく町の住民がローマ街道を活用することも街道敷設の目的の一つ。

それまでの道ならば、雨でも降れば泥に足がとられ、荷車の轍(わだち)が泥沼にはまりこむ状態は常のことだったが、ローマ街道ではその心配はない。平坦に、しかも舗装されているので、人々の往来も容易になり、時間も短縮でき、荷車にも荷をより多く積める。つまり、交通の回数も一回当たりの運搬量も増えた。人と物産の流通増大で自給自足の生活は過去のものとなった。周辺住民の生活水準は向上し、経済は活性化した。


利用目的その3 郵便を運ぶ

現代とは違って一瞬で情報が届く時代ではなかったが、情報伝達制度の確立の重要性は知っていた。

皇帝も、情報の伝達さえ保証されれば、どこに居ようと統治は可能だ。帝国の辺境であろうと、そこに書簡を送るだけで統治できる(アリスティデス)



「ピラミッドは、無用で馬鹿げた権力の誇示にすぎない」(大プリニウス)
「ギリシアの美術品の素晴らしさは有名だが、人々の日常生活への有効性ならば皆無、とするしかない」(フロンティヌス)



街道を敷設した皇帝には凱旋門を贈って感謝の意を表すのが習いになっていたが、その凱旋門には必ず、工事は第〇〇軍団の軍団兵たちによって成されたという文言が、はっきりと刻まれるのも常だった。こうして、ヨーロッパと中近東と北アフリカにまたがるローマ帝国の八万キロもの幹線は、そのほとんどすべてが軍団兵によって敷設されたのである。



■水道


アッピウスは、人や車が踏み固めてできた自然の道があったにかかわらずローマ式の人工の道を通した人だが、水も、自然に頼るだけでは不充分であり、人工による安定供給システムの確立が不可欠、とでも考えたのかもしれない。


街道と同じく水道も、中央政府ははじめから採算を度外視。ローマ街道を「公道」と呼んだのと同じで、ローマ水道も「公」のすべきことと考えていたからであろう。人間が人間らしい生活を送るための「モーレス・ネチェサーリエ」(必要な大事業)なのであった。


ローマ市内は紀元三世紀にアウレリアヌス帝が建てた城壁で守られていたが、水道橋はその城壁をまたいで市内に入っていた。蛮族が水道の坑道内を通って市内に侵入してくるのを怖れたベルサリウスは、ローマに入るすべての水道の水源地の水の取り入れ口を閉じさせるとともに、水道橋が市内に入ったところで坑道も、レンガとセメントを使って閉鎖させてしまった。ローマの水道は、これで死んだ。



■医療・教育


ローマの医療を革命的に変革したのはユリウス・カエサル。

多くの面で中央集権的な法律を通過させたカエサルだが、医療と教育に関しては国家がコントロールするやり方を採用していない。医療と教育を、「公」の担当分野とせず、「私」が活躍できる基盤づくりを整えた。具体的には、医師と教師にローマ市民権を与えた。条件はただ一つ、首都ローマで、医師は医療に、教師は教育に従事すること。

 

文明社会にとっては必要とわかっている医師や教師を集めるのに、聖職という概念を持ち出すことはしなかった。ローマで医療なり教育なりにたずさわるとトクですよ、という手段に訴えたのだ。(当時、ローマ市民権を得ると税金など様々優遇された)





キリスト教の支配が強化されるのと教育制度の公営化は、歩調をともにするように進んだ。教師になるには試験を受けるが、試されるのは知識や教え方の能力ではなく、キリスト教への信仰の有無。教材も、教会が認めた書物以外は使ってはならない。教え方にも、教会の眼は光っていた。教師は定給をもらう身になり、生徒たちの授業料も無料。医療制度も公営化されたが、教育制度も公営化されたのだ。不可思議にも、帝国の経済力が盛んであった時代には医療も教育も私営であったのに、経済力が衰えてしまった時代に公営化されたのである。ある一つの考え方で社会は統一さるべきと考える人々が権力を手中にするや考え実行するのは、教育と福祉を自分たちの考えに沿って組織し直すことである。ローマ帝国の国家宗教になって後のキリスト教会がしたことも、これであった。そしてその半世紀後、ローマ帝国は滅亡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アッピア街道

ローマ帝国「アッピア街道」周辺制覇への旅』ナポリ(イタリア)の ...

街道の女王、アッピア街道(イタリア) – VOYAGE -世界見聞録-

アッピア街道」

ローマの道路 (Roman roads)

歴史をたどる巡礼路、古代ローマの“高速道路”を歩いてみよう ...

 

 

 

 

 

 

ローマ水道 - Wikipedia

 

古代ローマの水道 ― 土木工学の偉業

 

 

本家本元!美しく迫力満点のローマ水道を訪ねようin水道橋公園 ...

 

 

ローマの水道 (Roman aqueduct)

 

ポン・デュ・ガール[ローマの水道橋] - 世界遺産データベース

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こうして社員は、やる気を失っていく」(松岡保昌)

 

 

HR系の本の多くが「やる気をいかに上げるか」という視点で書かれていて、本書のように「やる気をいかに下げないようにするか」という視点は見落とされがちだと思うが、実は重要な視点だ。このユニークな視点とキャッチ―なタイトルが本書の商業的成功のポイントだろう(内容は実際のところ他の本と似たり寄ったり)。

 

参考になった点としては、会社で使っている言葉が企業や組織の文化をかたちづくってしまうという点で、改めて気をつけようと思った。

 

企業文化を磨く、社員の当事者意識を高める、といったことの重要性は本書でも指摘されていて(最近読んだ成功企業にも共通するポイントだ!)、全く同感なのだが、言うは易し、実現するは難し、である。本書視点のように、ネガティブな言葉を使わないなど、まずは社員のやる気を下げないようにすることから気をつけるとよいかもしれない。

 

 

 

以下、備忘

 

 

モチベーションを高めるためにやるべきは、まずモチベーションを下げない、ということです。

 

 

良くも悪くも「企業文化」にふさわしい人が集まる

企業文化には大きく2つの力がある。
①違うタイプの人をも、いつしか同じような考え、行動に染めてしまう力
②磁石のように、似たタイプの人々を引き寄せる力



強い会社とそうでない会社を分かつのは、社員の「当事者意識」

自ら考えて動く。積極的にチャレンジする。社員の「主体性」が生まれる大前提となるのが「当事者意識」。
 

どのようなときに、人は、仕事を「自分事」としてとらえるのか?
それは、仕事が会社のためだけではなく、自分のためでもあると心の底から思えるとき。この仕事は、人生や自分のキャリアにとっても、意味や意義があり、とても価値があることだと思えるとき。
そうでなければ、給料のためと割り切って働いたり、受け身で最低限の業務をこなすだけになる。



やりがいを感じるとき


・目標を達成したとき
・仕事をやり遂げたとき
・自分の成長を感じたとき
・興味のある仕事ができるとき
・仕事で社会に貢献する実感を持てたとき
・尊敬できる人と一緒に仕事ができるとき
・新しい仕事にチャレンジするとき
・チームで仕事をするとき
・裁量権があるとき
・影響範囲が大きい仕事を任されたとき

人はお金だけでなく「見えない報酬」で突き動かされている。



中でも、多くの人に共通する「やりがい」2つ

①「仕事の目的」
最終的に世の中とどのようにつながっているのかを実感できるということ。つまり、「社会的価値」の理解。

②「承認」「称賛」「尊敬」
感謝の言葉や気持ちを伝え合う文化はあるか。「仕事はやって当たり前」「給料をもらっているのだから、それぐらい当然」と考えているようなら、その組織や会社は危険で、メンバーのモチベーションは下がり続ける。「社会的動物」と言われる人間にとって、周囲との関わりは、それぐらい大事。
 

 

 

上司と部下との間の「視野」と「視座」の違いに注意

上司が自分の目線で理解して当たり前だと思って出した指示に対し、部下の「視座」では上司の期待どおりの解釈ができず、部下なりに一生懸命にやったにもかかわらず期待に沿った結果が出ない、ということはよくある。「視野」や「視座」の違いを意識・理解したコミュニケーションを。
 

 

 

組織をかたちづくるのは、自分たち1人ひとり

ふだん何気なく使っている言葉から、組織の文化はかたちづくられる。
ネガティブな言葉やあきらめの言葉が飛び交っているとしたら、それが企業文化になっている。
 

NGワード例
「うちの会社の体質は古い」
「うちの会社はスピードが遅い」
「うちの職場は終わっている」
「どうせうちの会社では、新しいことは受け入れられない」
「上司にこんなことを言っても、どうせムダ」
「頑張ってもバカを見るだけ。適当に力を抜いてやればいいんだよ」
「あの部署は、いつも協力しないよね」
「部長は、役員が怖くて、何も言えないんだ」
「よくうちの会社に入ったね。人事にだまされたな(笑)」

 

 

 

 

「社員がやる気を失っていく上司」に共通する10の問題

1 目を見て話さない。目を見て話せない
2 理由や背景を説明しない
3 一方通行の指示(双方向コミュニケーションがとれない)
4 コントロールできる部分を与えない(1から10まで指示)
5 話を聞かずに結論を出す
6 意見も提案も受け入れない
7 言うことに一貫性がない
8 感覚だけで評価する(結果を出しても評価されないと思わせてしまう)
9 失敗を部下のせいにする
10 部下の仕事を横取りする


「組織が疲弊していく会社」に共通する15の問題

1 個人が仕事を抱えすぎている(不平等で不満が多い)
2 仕事を押しつけ合う(全社的視点、協働の意識がない)
3 物事を決められない(コミュニケーション機能が不全)
4 前例と成功体験から抜けられない
5 「理念」が言葉だけ
6「挑戦」「改革」……空手形の言葉ばかり
7 社長がめちゃくちゃ忙しい(社員を導くリーダーが不在)
8 管理職が逆ロールモデル(めざすべき人物が不在)
9 いつもピリピリしている(不機嫌、不安、不快がはびこる)
10 マイナス要因の犯人探しに執心(不信感と不寛容な組織)
11よくわからない人事異動がある
12 いまだに長時間労働が美徳
13 女性が出世しない
14 子育て、介護で働きにくい(働きやすい制度の不足・不備)
15 長期的な展望を描けない(キャリア設計が不安・不明)
 

 

 

 

 

 
 
 

 

 

 

「真実が人を動かす」(ケン・アイバーソン)

 

 

最近、アマゾンナイキスターバックスの成功ストーリーを読み、「企業の成功要因は何か」というテーマへの好奇心が改めてふつふつと湧いており、また違った業界のケーススタディを、と思いこの本を読んでみた。非常に面白く、いい本だった。

 

 

アイバーソン氏いわく、ニューコアの成功要因は「企業文化7割、技術3割」とのこと。

 

企業文化。最近何冊も読んだスターバックスの企業本に頻出したキーワード。業界業種を問わず、やはり企業文化は重要だ。

 

ニューコアの場合、社員に自主性を持たせる点が大きなポイント(スターバックスほか成功企業にある程度共通するポイントではある)。

情報を与え、責任を与え、意思決定できる環境を与える。社員に当事者意識が芽生え、自主的に効率性・生産性を高める工夫・努力をする。そして、成果は報酬に返ってくる。チームワークを機能させる仕組みも注目すべき点だ。

 

鉄鋼業界は成長産業ではなく、また品質で差別化しにくい製品を扱う。それでも、USスチールとニューコアを比較すると、業績や株価のパフォーマンスにはとんでもない格差がついている。改めて、企業経営の成否は経営者次第だな、と感じる。

 

ニューコアと比較すると、(高炉と電炉の違いなどはあるにしろ)USスチールはボロボロの会社に見える。逆に言うと、USスチールには経営改善余地がかなり残されている可能性がある。日本製鉄は、そこそこ業界ポジションがありながらも収益性が悪くて株価が安い(しかしやり方次第では大きな収益性改善が可能)、という会社を買収しようとしている。教科書通りのM&A戦略だ。問われるのは実行力。

 

 

◇時価総額 USスチール $8.5B / ニューコア$37.9B

◇売上高 USスチール $17.7 / ニューコア$34.1B

◇営業利益 USスチール $0.8B / ニューコア$5.8B

◇営業利益率 USスチール 4.5% / ニューコア17.0%

2024.6.30現在(下図表に詳細)

 

 

 

以下、備忘

 



1.より高き大義のために



従業員と経営者の関係、4つの原則

(1)従業員がその生産性に応じて報酬を受ける機会を持てるように会社を経営することは、経営者の義務である。
(2)今日の職務を適切に果たしさえすれば明日もまた自分に仕事があることを、従業員は確信できなくてはならない。
(3)公平な処遇を受けることは従業員の権利であり、従業員は自分が公平な処遇を受けるであろうことを確信できなくてはならない。
(4)処遇が公平でないと思う従業員には、改善を申し出る何らかの方法が与えられなければならない。




2.自分が正しいと思うことをやれ



3年ごとに全社員に調査表を配り、仕事の満足度・職場の雰囲気を調べる(複雑ではなく、おなじみの質問とお決まりの手法)。社員との結びつきを保つための重要な道具。



各事業所長は管理下にある全社員と少なくとも年1回、50名以下のグループでミーティングを開くことを義務づけられている(500名の工場なら年10回)。



情報過多が管理過多。
情報が多すぎると、いま何が起こっているのかわからなくなる。社員に「自分が正しいと思うことをやれ」と本心から言うのもむずかしくなる。
情報過多を排除するのは、たやすいことではない。大切なのは、本当に重要なわずかな情報を見つけ、それに集中すること。




3.人間はみな平等である



鉄鋼業界では、組合が組織されている会社が圧倒的に多い。その中にあって、ニューコアの経営陣は組合とつきあう必要もなく、組合をどうやって締め出そうかと頭を悩ませる必要もない。それは平等主義の企業文化によるところが大きい。



「ニューコア社の成功をどう説明なさいますか」。答えはこうだ。「企業文化が7割、技術力が3割でしょうか」。



企業文化が本物になるために重要なのは一貫性。

一貫性は、自分がかたちづくろうとしている企業文化を、心底信じることから始まる。ニューコアが拠って立つ原則は、陳腐に聞こえるほど基本的。自分がしてもらいたいことを社員にせよ――これがわが社が心底信じている原則。この原則がニューコアをつくり上げている。あまりに単純に聞こえるかもしれないが、効き目は絶大だ。




4.社員こそ前進の原動力


社員に自由に発言させ、意思決定させ、大事な責任を任せたら、何が起こるか。混乱に陥るのではないかと怯える心は意識して抑え、好奇心に満ちた心で、無限の可能性をじる心で考えてみる。



社員にもっと情報を、もっと責任を、もっと意思決定を。



絶えざる変革のために

・ふさわしい人材を選ぶ
・管理者の時間の使い方を変える
※人の話を聞く、新しい試みをする、分析する(計画を練る、指示を出す、チェックする、ではなく)
・自らを成長させる責任を本人に持たせる
※教育訓練など能力開発の機会と、そのための自由度を与える
・社員に情報を与える
・社員の判断で技術投資をさせる



買収や合併を決断する場合、株主や顧客のことを考えるのと同じように、つねに社員のことを考える。会社が行なうすべてのことについて、社員にも理解し納得しておいてもらいたいと思っている。成功するのも失敗するのも社員次第だから。



経営者と管理者は、企業を前進させるエンジンは自分たちではなく社員であるとはっきり認め、社員が伸び伸びと働いて高いパフォーマンスを発揮できるような環境づくりに専念すべき。





5.給料のことを話そう



業界最高給はこうして決められる

基本給は社員が受け取るであろう金額の一部にすぎない(基本給は業界平均より低い)。ニューコアの現場の人間は、基本給をはるかに上回る週間ボーナスを稼いでいる。最近数年間の週間ボーナスを見てみると、低いときで基本給の100%、高いときは200%を上回ることもあった。工場労働者の1996年の平均年収は6万ドルを超えた。これは業界最高水準。

週間ボーナスをもらうためにしなければならないことは2つ
(1)チームで働く(2)生産する

一つの単位となる業務を行なうーチーム20-40人に対して生産基準量が設定され、その基準を超えた生産量に対し、チームの一人ひとりにボーナスが支給される。

 

たとえば、生産基準量が1時間当たり50トンだとすると、50トンを超える1トンごとに、基本給の4%に相当するボーナスが与えられる。このチームが、その週に1時間平均100トン生産したとすると、チーム・メンバーはそれぞれ基本給の200%のボーナスをもらうことになる(基準量50トン超✕4%=200%)。翌週の木曜日、基本給と200%のボーナスが支払われる。



1996年、ニューコアの人件費は鋼材1トン当たり40ドルを切った(大手鉄鋼会社のおよそ半分)。それなのにニューコアの社員の収入が多いのは効率も生産性も高いから。尻を叩いて強制しているわけではない。わかりやすいインセンティブのある賃金体系を定め、あとは社員に任せているだけ。

これまで、会社の競争力の維持については、社員を信頼してその創意工夫に任せてきたが、彼らがその信頼を裏切ったことはない。

ニューコアの給与体系の一番いいところは、議論の余地なく金額が決まるという点。



チームワークに火をつける給与

会社は設備、教育訓練、福利厚生プログラムなど基本的な支援を提供して、あとは社員たちのチームに任せる!
それがニューコアの給与体系の根底にある考え方。



1トンでも多くという圧力はきわめて強いが、それは経営者や管理者からではなく、同僚つまりチームの仲間からくる。

「あいつは溶接を終えるのが最後だったとか、あいつはしくじったとか、仲間はみんなお見通しさ。そしてまあ、なんとそんなヤツの手助けをしはじめるのさ」
「会社で決められている新入りの試用期間は90日だけど、ここでやっていける人間かどうかは、1か月もあればわかってしまう。はじめはみんなで寄ってたかって、知ってなきゃいけないことを教え込むんだ。新入りの訓練にはみんな真剣だよ。そうしておけば、いまにそいつがみんなのために金を稼ぎ出してくれるからね。使いものにならないヤツがきた場合は、チームでそいつを追い出す。気に入るとか気に入らないとかじゃない。オレたちの生活のためだ。その男にとっては、やり遂げるかお払い箱になるか二つに一つだ」



6.小さいことはいいことだ


1967年に製鉄業に参入したとき、ニューコアは鉄鋼大手と比べてお話にならないくらい小規模で、巨人たちの足元に近づくことすらおぼつかないという見方が一般的だった。



コミュニケーションの容易さは、組織が小さいことの強みのなかでも最大のもの(各事業所の人数を400-500名に制限)。




7.リスクを恐れるな



クレージーなことが起こるのが人生

イノベーションやリスク・テイキングに価値を置くニューコア流経営の根底にあるもの
人生は冒険だ!
クレージーなことが起こるのが人生だ!



「およそやる価値があるものなら、拙速でもいいからやってしまえ」



薄スラブ連続鋳造に賭けたニューコアの決断から引き出すことのできる教訓

 

リスクを冒す価値があるかどうかは、だれか他の人間(たとえ専門家であっても)に教えてもらうようではいけない。これが最も重要な教訓。決断は自分でしなければならない。
もう一つは、失敗の可能性を度外視してはならないということ。リスクとは、失敗の可能性があるということ。その可能性を直視しなくてはいけない。それを研究せよ。絶対に逃げてはいけない。

 

1987年の時点で、ニューコアの大きな賭けが吉と出ると思っていたのはわれわれだけだった。業界の事情通たちも、やりすぎだと考えていた。しかし、あの時点で、成功の可能性を正確に推し量れる立場にあったのはわれわれだけだったのである。




8.ビジネスにおける倫理



ビジネスにおいて何が倫理的であるかの判断は、公平で、正しく、実際上の理にも適っているという、三つの規準を満たす選択肢を探すことにほかならない。




9.シンプルであることの強さ



ニューコアは説明しやすい会社

われわれは本当に大切なことから目を離さないようにしている。つまり、会社の利益と長期的存続である。社員に考えてほしいことはこの二つに尽きる。経営陣は、それ以外のことにあれこれ口を出して会社に道を誤らせないよう心がけている。だから、美辞麗句を並べたビジョン・ステートメントで会社を飾ることもないし、卓越性などというあいまいで半端な目標を掲げることもないし、ややこしい事業戦略などで社員に重荷を負わせることもない。



ニューコアの競争戦略とは何か。経済的に工場を建て、効率よく操業すること。以上。



「生産設備の経済的な建設」こそ、ニューコアの設備投資のエッセンスだ。わが社の工場はどれもコスト競争力が高い。ミニミルの建設費は、年間生産能力1トン当たりわずか200~500ドル。大手高炉メーカーが好きな伝統的な大製鉄所では、これが1400~1700ドルにもなる。

そこへきて低いコストと高い生産性で操業するので(つまり効率よく操業するので)、建設段階のコスト優位性をさらに拡大し、引き続きコストを押さえることができる。基本的にニューコアが社員に求めることは、より多くをより安く生産することに尽きる。うまくやってくれればそれに報いる。これも単純。



あまりに常識的な哲学

短期的な収益ではなく、会社の長期的存続に重点を置く。
役員報酬を増やすのではなく、痛みを分かちあう。
意思決定の権限を現場に下ろす。
経営者・管理者と一般社員の区別をできるだけなくす。
社員にはその生産性に応じて報酬を与える。

これらは断じて革命的な経営コンセプトではない。きわめて単純で、きわめてまっとうな、わかりやすいビジネスの考え方にすぎない。儲けの追求は社員に任せ、経営幹部はその過程で社員がぶつかる障害を取り除くことだけやっていればよい。
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「胡蝶の夢」一〜四(司馬遼太郎)

 

 

大好きな、幕末・維新の時代。司馬遼太郎さんのこの時代の本は随分読んだし、半藤一利さん、磯田道史さん、あるいはジャレド・ダイヤモンド氏、マクニール氏の本などでも、この時代をくり返し、しかし違った視点で、堪能してきた。

 

しかし、まだこんな視点での楽しみ方、味わい方、学び方があったのか・・・ と今回も幕末・維新を堪能した。

 

 

黒船来航をきっかけに、日本は西洋の思想、制度、文明、技術に影響を受けてきたわけだが、本書「胡蝶の夢」は、医学という視点、医者という立場からみた日本の変化を検証する。

そして松本良順の、医者としての(あるいは日本の常識を疑う一人の人間としての)その時代の変化に対する洞察力、さらには松本良順が診療・治療で関わる徳川慶喜、近藤勇、土方歳三、沖田総司らとの掛け合い、などが楽しめる。

 

 

 

以下、備忘

 

(伊之助の町で――あとがきのかわりに――、より抜粋)

 

江戸期の分際という倫理は、人間の普遍的美徳である謙虚、謙遜、恭しさというものを生み、ついにはときに利他的行為までを生むほどの力を持った。
同時に強烈な副作用として日本人に卑屈さを植えつけた。
幕末から明治初年にきた外国人は日本の倫理風俗として礼儀正しさ、謙虚さ、出すぎないことなどを指摘し、かつほめた。しかし日本人に物事を交渉する場合、相手がほとんど意見を言わず、即断せず、いつも結論を宙ぶらりんにすることに手を焼いた。
これは交渉をうけた役人が分際を心得すぎ「自分の役どころで、そういう問題は決めるべきでない」という倫理判断が慣習的にあったからで、上は老中から下は小役人にいたるまでこの倫理的価値基準でもって政治や行政上の課題の中で身を処していた。
「なにぶん先例になきことにて、御同役とも相謀りませねば私一存にては何とも御返答いたしかねます」
ということばが、行政の最高職から卑職の者にいたるまでどれほど使われてきたであろう。


『胡蝶の夢』を書くについての作者のおもわくのひとつは、江戸身分制社会というものを一個のいきものとして作者自身が肉眼で見たいというととであった。
それを崩すのは、蘭学であった。むろん蘭学だけではなく、それに後続する幾重もの波のために洗いくずされてゆくのだが、蘭学もまたひきがね作用の一つをなしたととはいうまでもない。
蘭学――医学、工学、兵学、航海学――といった技術書の叙述に本質的に融けこんでいるオランダの市民社会のにおいから、それを学ぶ者はまぬがれることができなかった。たとえば漢学者や漢方医、または諸技芸の宗家が物事を秘伝にしたがるのに対し、おなじ社会にいながら蘭学者は多分に書生じみていたし、さらには学んだものはすぐ本にして世間に公開する(『解体新書』がその好例であり、また伊之助が、『七新薬』を刊行したように)といった西洋式のやり方が早くからごく自然におこなわれていた。
末期には幕府機関の重要な部分が”蘭学化”することによって身分社会は大きくくずれるし、さらに皮肉なことに蘭学を学んだ者が、卑賤の境涯から身分社会において異数の栄達をした。
一つの秩序――身分社会――が崩壊するとき、それを崩壊させる外的な要因が内部にくりこまれ、伝統秩序のなかで白熱するという物理的な現象が、人間の社会にもおこりうるらしいということも、作者は風景として見たかった。
良順にせよ、伊之助にせよ、関寛斎にせよ、あるいはかれらと一時期長崎でいっしよだった勝海舟にせよ、夢中でオランダ文字を習っているこのグループがのちにやってくる社会の知的な祖であるにはまちがいないが、しかしそのほとんど無意識的ともいうべきかれらの営為が、のちの社会にとってどれほどプラスであったかということになると、まことに混沌としていまなお未分というほかない。
さらに見方をかえれば社会という巨大な、容易に動きようもない無名の生命体の上にとまったかすかな胡蝶(職であってもよい)にかれらはすぎないのではないかと思えてきたりもする。
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ザ・ブランド・マーケティング「なぜみんなあのブランドが好きなのか」をロジカルする」(スコット・ベドベリ&スティーヴン・フェニケル)

 

 

「SHOE DOG」「スターバックス成功物語」を読んで以来、ナイキも、スターバックスも、より好きになってきた。なんとなく類似性を感じて、この2冊を連続で読んだのだが、やはり思った以上にこの2社には共通するものがあると感じていたところ、この本に出合った。著者は7年間ナイキの広告部長をつとめた後、1995-1998年にスターバックスのマーケティング担当副部長をつとめた。


2社に共通するのは、「商品」そのものではなく、ナイキであればスポーツの歓び、スターバックスであれば居心地の良さ、といった「体験」や「価値」の提供をぶれない目的にしていること。その目的を達成するために、商品の機能や味を追求するし、関わる人に投資しているし、一貫したコンセプトの上で草の根的に(時にキャンペーンもするが)価値の訴求をはかっている。


シューズの反発性を〇%向上させる、のが目的ではなく、アスリートにもっといい体験をしてもらうため。こういう根源的な目的を見失わないことが、どの企業においても重要だ。



以下、備忘



「ジャスト・ドゥ・イット」


スニーカーではなく、価値を伝える。商品ではなく、ナイキの精神を伝える。
バスケットボール編、ランニング編、クロス・トレーニング編、ウォーキング編、「ジャスト・ドゥ・イット」をテーマにした1ダース以上のCMを制作した。20歳のトライアスロン選手にとっても、50歳のウォーキング愛好家にとっても、意味のあるメッセージ。
ナイキ・ブランドは「ジャスト・ドゥ・イット」のユニークなブランド・ポジションのおかげで、統一性を保ちつつ拡大することができた。



スターバックス・ブランドの中核アイデンティティは、すばらしいコーヒーを提供することよりも、むしろコーヒーとのすばらしい出会いを提供することにある。いうまでもなく、最高級のコーヒー豆を正しく挽き、清浄な水を使い、適切な温度を保ち、きちんと時間をはかって淹れることは大切である。が、「ナイキ・ブランド」の本質がトーション(ねじれ)・コントロールやミッドソール・クッショニング・システムを超えたスポーツとフィットネスの歓びにあるように、スターバックス・ブランドの本質は、コーヒーが醸成する雰囲気にある。



ブランド・マントラ
 

ナイキ

「本物のアスレチック・パフォーマンス」

(Authentic Athletic Performance)
スターバックス

「満足を味わう日常のひととき」

(Rewarding Everyday Moments)
ディズニー

「楽しいファミリー・エンターテインメント」

(Fun Family Entertainment)
 

ブランド・マントラは、キャッチ・コピーではない。企業がどのような商品やサービスを提供するか、どのようにビジネスを進めるか、どのような人間を雇うか、といった問題に方向性を与える道しるべのようなもの。



優れたブランドは心の琴線を揺らす
「バーガーショップは客の腹を満たす、いいコーヒーハウスは魂を満たす」



スターバックスでの新人研修は、微分積分のようにすぐ忘れてしまう抽象的で非実用的な知識ではない。一度覚えたら一生忘れない技能―――まともなコーヒーの淹れ方を教わる。
完璧なエスプレッソの・ショットの抽出スピード(18-23秒)、スチームミルクのつくり方(煮立てない、80度以下が理想)、ほかにも一杯のコーヒーを注文するときには考えもしないような多くの知識をたたきこまれる。「スター・スキルズ」という研修科目では、人手の足りない朝の7時19分にカウンターの前にカフェイン切れ状態で気の立った客が20人並んでいても、エスプレッソ・バーの後方で禅の平静を保ちつつ親しみのある笑みをうかべて、バリスタの業務を遂行するための訓練をする。



ハワード・シュルツは、ブランドを形作っていく上で各店舗の従業員が決定的に重要であることを理解していた。パートタイマーに対して正社員と同レベルの健康保険を適用し、勤務時間数に関係なく全従業員にストック・オプションを与えた。投資家からは不必要な間接費を増やすとして強い批判を受けたが、シュルツは、企業が従業員を大切にすれば従業員は顧客を大切にするようになる、と主張して譲らなかった。同じ理由から、シュルツはどこの企業にも負けない新人社員研修にも心血を注いだ。最高の福利厚生制度と最高の社員教育を用意することで、最高の人材を確保できると考えたのだ。そして、それは正しかった。



ナイキとスポンサー契約を結んだ最初のテニス・プレーヤー、イリ―・ナスターゼは、テニス・プレーヤーの大多数が「よい子」だった70年代に、正真正銘の「反逆児」だった。そして、1977年、ウィンブルドンの観客席に座っていたフィル・ナイトは、ナスターゼの後継者ジョン・マッケンローを見出した。
「この赤ら顔した18歳の選手が、古臭い決まりごとを打ち破る雰囲気をまき散らしていることにナイトは気づいた。その雰囲気はナイキ流の考え方とも合致していたし、同時に、テニスをエリートのためだけのスポーツにしようと巧みに囲いこみをおこなうテニス界主流派の、抑圧的な規範や協約と一線を画すものであった」(カッツ)




(監修者はじめにより)

長く生き残っているブランドは必ず「信用」を武器にしている
エルメスは150年、虎屋は480年の歴史。「あのブランドなら間違いない」という絶対的な信用を得て、それを武器にしている。
信用も歴史も、商品力でも経営手腕でもなく、「人の力」によって築かれる。だからこそ、人に投資し、社員を教育していくことが一番重要。

デジタルは第一印象で九割決まる
「メラビアンの法則」によれば、「無表情の暗い声で『君は素晴らしい』と褒めたたえる」など、視覚情報、聴覚情報、言語情報が矛盾していた場合、視覚情報を採用する割合が一番高い。
デジタル社会では、スマホを数秒でスクロールする。つまり数秒の視覚情報だけで「いい・悪い」を判断する。


(監修者解説より)

デジタル社会によって、かつて一般の消費者が知り得なかったことが、白日のもとにさらされます。
「内部告発は卑怯だ」とか「一億総監視社会で疲れる」というマイナス面もあることは否定しませんが、本書に書かれているような「誰に見られても恥じることのないブランディング」を心がけることは、もはやきれいごとではなく必要不可欠な危機管理といえるのではないでしょうか。
 

 

 

 

 

※目次はこちらのブログご参照

 

 

 

 

以下、余談

 

2024/6/18 仕事前、職場近くでトリプルエスプレッソラテ。

スターバックスラテより2ショット多い、3ショットのエスプレッソを使っている、とのことだが、そこまで濃厚な感じはしない。味に慣れてきてしまったのか。初めてスターバックスラテを飲んだ時の感動に近い記憶も薄れつつある。

 

 

 

 

2024/6/20

大株主への決算説明、株価評価結果の精査、個人株主への問い合わせ対応、住民税追加手続き、給与支給処理、賞与データ作成、労務問題調査、と今日1日はミッションクリティカルな仕事満載、ずいぶん神経をすり減らす。

そんな夜20時のスタバ、ココアで癒されるひと時。ふわっとしたホイップクリームとともに飲む最初の一口が、やみつきになりそうだ。そしてクリームをぐるぐる混ぜて温かいうちに胃に流し込む。ショートサイズで十分満足(むしろ、トールの量だとちょっと無理かも)。

そして、しばし、ぼんやりした時間を過ごす。