アメリカの(2021年)10月の(消費者)物価が、対前年比でプラス6.2パーセントと、31年前の19909月以来の高さになった、と報じられています(アメリカの各月の対前年同月消費者物価指数伸び率の推移を下のグラフに示しています)。 

 

出典:アメリカ労働省が毎月公表する消費者物価指数を素に計算して作成。

 

しかし、物価上昇率の高まりは、世界でアメリカだけに起こっているわけではありません。下に、先進各国の先月(20219月)の対前年同月伸び率と昨年9月の対前年同月伸び率をグラフにして示しています( 但し、10月に至ってアメリカの物価上昇率が5.4%→6.2%に伸びたのは、冒頭に示した通りです)。

 

出典:OECDの統計検索エンジンStatに示されたデータを素に、但し、日本については統計局の示す消費者物価指数データを素に作成。

 

確かに、アメリカの物価上昇率は他の先進国に比べて飛びぬけて高くなっていますが、しかし他の先進国もアメリカほどではありませんが、相当に高い物価上昇率を示していることがわかると思います。

 

さらに、先進各国の今年の9月の上昇率物価上昇率が昨年9月の物価上昇率に比べてどれほど大きくなったのかを見比べて見た結果が、下のグラフです(アメリカについては今年10月と昨年10月の物価上昇率上げ幅を付け加えて表示しています)。 

 

出典:OECDの統計検索エンジンStatに示されたデータを素に、但し日本については統計局の消費者物価指数データを素に作成。

 

ここでは、各国の掲示の上下の順番は、上のグラフと同じにしてあります。そうして見ると、アメリカの昨年から今年にかけての物価上昇率の上げ幅は、他の先進国とほぼ同等の水準であることがわかります。「最近の物価上昇は、アメリカに固有のことではない」、ということを理解する必要があります。

 

物価高騰の理由は、アメリカを含む世界がコロナウイルス禍から抜け出る経済回復中であることを背景として、港の混雑、トラック運転手の不足、原油価格の高騰などが直接の理由として挙げられています。そしてこれらは、先進各国にほぼ共通する事象なわけですから、アメリカ以外の先進国もアメリカと同等ほどの物価上昇を見せるのは当然、ということになります。また、景気浮揚策として、各国も政府財政を拡大してマネタリーベースを増やしていますから、もしそれが物価上昇に影響を与えていたとしても、各国の事情が共通していることに大きな変更はありません。

 

 

しかし問題は、日本です。

 

日本の昨年(2020年)9月の対前年同月消費者物価伸び率は、マイナス0.2パーセントであったのですが、今年9月のそれは0.2パーセントと、その差は0.4%ポイントしかありません。日本に次いで上げ幅が小さいスイスでも1.7%ポイントあるのですから、日本の上げ幅は世界経済の目で観るとほぼゼロ、と言っていい状況です。このように昨年から今年にかけて物価上昇率がほとんど上がらなかったのは、世界の先進国の中で日本だけなのです。

 

なお、日本の20219月の物価を品目別にみると、特に目立つのは、物価指数全体の7.1%を占める”エネルギー“が+7.1%、同5.2%を占める”娯楽サービス“が+6.2%、同3.4%を占める”電気代”が+4.1%となっており、逆に全体の4.4%を占める“通信”がマイナス28.3%となっています。そしてそれらすべての総平均が+0.2%です。

 

日銀が昨日(20211111日)発表した今年10月の企業物価(以前は、卸売物価と呼ばれていました)指数は対前年比8.0パーセントと大きく伸びていますが(同9月の伸びは、6.3%)(下のグラフを参照ください)、それに対して消費者市場は「冷え冷え」としているという印象です。商品の仕入れレベルで物価が上がっても、それを最終消費財に転嫁することを許さない日本の厳しい消費者市場がある、ということです。

 

出典:消費者物価指数については統計局、企業物価については日銀が公表するデータを素に作成。

 

世界の各種物価が高騰している中で、日本の消費者物価が昨年よりも上げる勢いをなくしているということは、日本が、「実質的なデフレ状態」に陥っている、と判断するべきでしょう。

 

このことは、もちろん、世界がコロナウイルス禍から脱出して経済復興を進めている流れの中で、独り日本だけが取り残されている、つまり、「日本の経済後退が世界の中で際立って進んでいる」、ということの証です。

 

日本の議会では、コロナウイルス禍対策として一律10万円の給付金を誰にどのようにして配るか、という点に議論が集中していますが、日本が今、国を挙げて議論すべきは、もっと別のところにあるのではないでしょうか?