IMF後継専務理事選任―ドイツの動き | Hidy der Grosseのブログ

IMF後継専務理事選任―ドイツの動き

IMF次期専務理事選出を巡るドイツ連邦共和国内の政治家の言動を紹介します。


Finacial Times Deutschland http://www.ftd.de/politik/international/:naechster-waehrungsfonds-chef-unionspolitiker-wirbt-fuer-iwf-kandidat-aus-schwellenlaendern/60053780.html

Deutsche Welle ドイツの波 http://www.dw-world.de/dw/article/0,,15089509,00.html?maca=de-rss-de-eco-1018-rdf

Reuters Deutschland http://de.reuters.com/article/domesticNews/idDEBEE74M0M920110523

の豪華三本立て。




記事を紹介する前に、背景説明を少々。


IMF新専務理事の選出については、連邦首相 Angela Merkel アンゲラ メルケルがすでに、フランスの Christine Lagarde クリスティーヌ ラガルド経済・財政・産業大臣を推すことに賛意を表明しています。以下の記事ではこれに対する異論が多々紹介されていますが、Merkel の方針が揺らぐことは、おそらくないでしょう。Merkel と同じ CDU キリスト教民主同盟の政治家や、連立パートナー FDP 自由民主党の政治家も、それは十分承知の上で発言しているのだと思われます。


Merkel のこの方針は、一面ではヨーロッパ人のエゴイズムの顕れです。合衆国との暗黙の了解のもとに欧州人が独占してきたIMF専務理事ポストを手放したくない。


しかしながら、単なる地域エゴとも言い切れない側面もあります。


ヨーロッパ各国は、ここ数10年間、一致団結して行動することによって国際政治の場において影響力を発揮してきました。それは必ずしも、他の諸地域の利益を犠牲にしてでも欧州の利益を増大させる、という利己主義的なものばかりではありませんでした。対人地雷やクラスター爆弾の禁止。あるいは、地球温暖化対策。(地球温暖化対策に関しては、環境産業を売り込みたいから、という側面も否めませんが、その話題は今は置いておきましょう。)


今後も、例えば国際金融規制について、また、原子力発電所の国際共通安全基準の導入に関して、欧州各国の共同・協調が必要だ。そういう認識を、ドイツの政治家は持っているでしょう。というわけで、IMFの後継専務理事選出について、そう軽々しくドイツが単独行動をとるわけにはいかないのです。


「大量破壊兵器」を口実とした合衆国の対イラク戦争を巡っては、独仏と英伊西で対応が割れました。あれは、世界政治におけるヨーロッパの存在感、という点で大きなマイナスでした。ヨーロッパ大統領・ヨーロッパ外相の誕生を控えた時期に、独仏の主導権を弱めたい英伊西が自らの存在感をアピールしたがったわけですが、結果としては欧州全体の威信を低下させただけの結果に終わりました。


Lagarde に対して少々不満があったとしても、ここは譲っておくほうが得策だ。ヨーロッパの団結を維持することが優先。その方が、大局的にはドイツの利益になる。 ―Lagarde を推すドイツ政治家の頭の中では、そういう損益計算が働いているはずです。


日本には(もちろんドイツにも。そして、おそらく世界中のどこでも)「国益」という言葉の好きな人が結構いますが、軽々しく「国益」を口にする前に、まず「自分は『国益』をどれだけの視野の広さと長期的展望とを以て把握できているだろうか」と自問したほうが良いですね。


「少々」のはずの前置きが長くなってしまいましたが、ここからは本編です。では、お楽しみください。




Financial Times Deutschland

2011.05.18.


次期IMFチーフ


CDUの政治家が新興国からの IMF 候補を推す


CDUCSU キリスト教社会同盟の副議員団長副院内総務が、Merkel の路線に反対を表明。Dominique Strauss-Kahn ドミニク ストロス‐カーン ストロスカーンの後継を巡る議論において Michael Fuchs ミヒャエル フクス フックスが新興国出身者に賛成。


「次期人事の話の中に新興国出身候補の名が加わっているのは、非常に得なことかもしれない」と、Fuchs は当紙に語った。


「というのも、幾つかのユーロ加盟国が債務危機に陥っている状況のもとで、財政健全化路線を貫くことは、おそらく、非ヨーロッパ人の IMF トップにとってはやりやすいだろうから」。市場における力を伸ばしており、また、IMF の拠出金を増やしている新興国を、人事面でもトップに立たせてみる必要がある、と彼は語った。IWF のチーフは、IMF からの援助金をもらっている諸国に対して非常に厳しくなくてはいけないし、これらの諸国にルールを厳格に守らせなくてはいけない、とも語った。


連邦首相 Angela Merkel (CDU)は、これに先立って、IMF トップにヨーロッパ人を強く推す意向を表明していた。現 IMF 理事 Dominique Strauss-Kahn は現在、性的強要の疑いで New York の監獄に置かれている。




Deutsche Welle

2011.05.19.


IMF


IMF チーフを巡る争い、すっかり延焼


国際通貨基金のチーフ Dominique Straus-Kahn が辞任した。後継はヨーロッパ人であるべきか、という議論が盛り上がっている。


次期 IMF チーフを待ちかまえているのは、チャレンジングな諸課題だ。ヨーロッパ債務危機が終わるのはまだまだ先のようだし、合衆国でも財政は継続的に厳しい状況になっている。反対に多くの新興国では、急速な経済成長を背景としたインフレ圧力が高まっている。また、海外からの巨大な資本流入のために、これら諸国の通貨は顕著な切り上げ圧力を受けている。加えて、新興国は、IMF トップポストへの権利を申し立ている。増大する経済的な重みに見合う地位を、というわけだ。


例えばブラジルの財政大臣財務大臣 Guido Mantega は、Straus-Kahn の後継が何が何でもヨーロッパ人である必要はない、と言う。「ブラジルは常に、選抜は国籍とは関係なく業績をふまえて行う、という立場だ。この重要なポストがヨーロッパ人の予約席である、という時代はもう過ぎ去った」と、G20 の財政大臣に送った手紙の中で Mantega は述べている。


ヨーロッパ人なのは当たり前?


しかしながら、新興工業国の最近の経済的な重みは、この先ヨーロッパ人は もはや IMF トップの座に座るべきではない、という根拠としては不充分である。G7 だけで、世界経済の 49% を占めている。BRIC は合計で 18%EU 諸国は、世界の国内総生産の 25% を占めている。このように、EU は今でも、新興国よりも経済的に重要な意義を持っている。


にもかかわらず産業諸国工業諸国・先進国は今日既に IMF の理事会において過小代表である。産業諸国は理事のたった半数しか出していない。出資額では、今なお優に過半数を超えるにも関わらず。これは IMF の用語でクォータークオーターと呼ばれている。クォーターは、各国の国内総生産に従って割り当てが計算される。ドイツのクォーターは最近 6.1% から 5.4% に下がった。それでも、合衆国の 17%、日本の 6% 強に次いで今なお第3位である。


候補者の豊富さ


EU 委員会欧州委員会委員長 Jose Manuel Barroso は、トップポストに候補者を立てるのは、ヨーロッパにとってまったくの当たり前だ、と語った。ヨーロッパには適任の人が何人もいる、とも述べた。連邦政府もまた、新人事ではヨーロッパ人に賛成だと明らかにしている。ヨーロッパには、質の高い候補者が大勢いる、と或る政府報道官は語った。連邦政府がドイツ人を候補に立てるかどうかについては、彼ははぐらかした。IMF のトップを最後に務めたドイツ人は、後に連邦大統領になった Horst Köler である (20002004)


反対に、連邦議会のCDU 会派の副議員団長 Michael Fuchs は、新興国の代表を IMF のトップとして思い描いているのかもしれない。「新興国出身候補の名が挙がっているのは、非常に得なことかもしれない」と、Fuchs Financial Times Deutschland 紙に語った。彼の論証はこうである。「幾つかのユーロ加盟国が債務危機に陥っている状況のもとで、財政健全化路線を貫くことは、おそらく、非ヨーロッパ人の IMF トップにとってはやりやすいだろう」。将来のチーフは、IMF からの援助金をもらっている諸国に対して非常に厳しくなくてはいけないし、これらの諸国にルールを厳格に守らせなくてはいけない、とも述べている。


執筆:Rolf Wenkel

編集:Henrik Böhme




Reuters Deutschland


2011.05.23.


連立与党内の政治家、ドイツ人 IMF 候補を強く主張


Berlin (Reuters)

IMF トップポストを巡る競争に連邦政府がドイツ候補を送らないことに対して、保守‐リベラル連立政権内部で不満が持ち上がっている。


「私にはドイツ人候補者も考えうる」と、FDP 議員団長 Rainer Brüderle は月曜日に Berlin で語った。このポストにとってドイツからは多くの人材が思い当たる、と彼は言う。しかし、名前を挙げようとはしなかった。CDU-CSU 会派の Michael Fuchs 副議員団長は、IMF のトップとしてドイツ人も考慮するように、要求した。連邦議会財政委員会の CDU-CSU の理事 Hans Michaelbach は、ドイツ人候補を擁立するよう、Angela Merkel 首相に申し入れた。


暴行未遂の容疑で New York で訴えられている Dominique Straus-Kahn IMF 前理事長の後継を巡っては、ヨーロッパ-新興国間の競争が燃え上がっている。ヨーロッパ人の側では、先週末に、フランスの財政大臣 Christine Lagarde が候補者として一層明らかとなった。Merkel もまた Lagarde に対する共感を表明したのであった。新興国も同様に、さしあたっては自陣から候補者の名を挙げた。IMF は、辞任した Straus-Kahn の後継者を来月末までには見出す意向である。


Lagarde 女史は疑問の余地なく、高い能力の女性だ。しかしヨーロッパには、能力の高い人材が大勢いる」と、Brüderle は語った。Fuchs は『Handelsblatt』紙のインターネット版において、誰かドイツ語圏出身者が IMF を率いることもできるとし、スイス人で Deutsche Bank ドイツ銀行トップの Josef Ackermann の名を挙げた。Fuchs Lagarde を評して、規律・秩序という点で疑問視した。このフランス財務大臣は、ドイツ産業の競争力やドイツの輸出超過によって他の欧州諸国の経済が困難な状況におかれている、と批判したのであったが、Fuchs はこれをずれた非難とした。


独自候補を競争に送るチャンスをドイツはみすみす捨てるべきではない、と Michaelbach は語った。「IMF のこの職にとって充分な能力を持った人材が、わが国には充分な数だけいる」。


国際的な人事問題について一つの方向を向いていない、として、緑の党の財政専門家 Gerhard Schick は連邦政府を批判した。「理事ポストにヨーロッパ人が就けるようにするのが、連邦政府の明白な目標である。首相と財政大臣が既にフランス人候補の Lagarde を支持しているのに、FDP 議員団長 Brüderle と連邦首相がバラバラでは、目標実現のチャンスが減ってしまう」と、Schick は『Handelsblatt』に語った。


(以上)