リンクに咲いた大輪のバラ一輪~ポゴリラヤのThe Rose | 桃象コラム

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音楽(特にピアノ)、演劇鑑賞、料理、旅行、ヨガ、スポーツ観戦(フィギュアスケート、サッカーなど)を心のオアシスに、翻訳を仕事にしていつの間にか四半世紀。まだまだ修行中。

ファンタジー・オン・アイスは素晴らしいスケーターばかりで、本当に楽しいショーだったけれど、そのなかでも特に大きな印象を残したひとりが、アンナ・ポゴリラヤだった。

 

彼女は第1部で「アンナ・カレーニナ」を、第2部では大黒摩季ボーカル、清塚信也ピアノとのコラボレーションで「The Rose」を滑った。どちらもとてもとても素晴らしかったけれど、特にThe Roseは秀逸だった。滑り終わった時にはかなりのスタンディング・オベーションで、場内は温かい雰囲気に包まれていた。

 

The Roseは、伝説のロックシンガー、ジャニス・ジョプリンをモデルにした映画The Roseの主題歌。歌っているのは主演のベット・ミドラー。実際のジョプリンはドラッグの大量摂取でホテルの部屋で倒れているところを発見されるのだけれど、映画のローズはステージの上で意識を失って倒れる。そこでこの曲のイントロが流れてくる。ああ、ローズは死んだのだと示唆して映画は終わる。

 

私は1981年6月にこの映画を観た。製作は1979年だから、私が観たのはロードショーではなく、小さい名画座で300円ぐらいで観た。あの頃は東京にそういう映画館がかなりあった。古き良き昭和の時代だ(当時、ロードショーは、確か1300円だったと思う)。ティーンエイジャーだった私はこの映画にいたく感動した。今でも、カラオケでは必ず歌う。ピアノがあれば弾き語りもする。特に嫌なことがあった時や落ち込んだ時には、泣きながら歌う面倒なヤツになります(笑)。とにかくこの曲の歌詞が好きなのです。英語の歌詞をそのままここに載せてJASRACに目をつけられるのはイヤなので(笑)、拙訳ですが、日本語ではこういう意味です(多分に意訳です)。

 

1.
人は言う、愛は川だと。柔らかい葦を飲み込んで流れる。
人は言う、愛は剃刀の刃だと。触れるとあなたの魂が血を流す。
人は言う、愛は飢えだと。絶えることのない痛みを伴う渇望。
私は言う、愛は花だと。その種はあなただけ。

 

2.
心は傷つくことを恐れていては、喜びの踊りを覚えない。
夢は醒めることを恐れていては、チャンスをつかめない。
人は奪われることをためらっていては、与えることができない。
そして魂は、死ぬことを恐れていては、生きることを学ばない。

 

3.
夜があまりにも孤独で、道程があまりにも長い時、
愛は幸運で強い人だけのものだと思うかもしれない。
だけど、覚えておいて。
深い雪の下で厳しい冬を過ごした種は、
春になって、日の光を浴びると、
バラの花を咲かせることを。

 


毎日の生活の中でなにかにつまずいて、一歩を踏み出すことに憶病になってしまっている人へ、エールを送る歌だと思っている。FaOIで「The Rose」とタイトルがアナウンスされた時、私はアーニャのヘルシンキのフリーを思い出していた。大きなミスを連発して、氷に突っ伏して泣いていたアーニャ。この歌の歌詞のように、自尊心を失って、「愛は幸運で強い人のもの」と思った瞬間もあったかもしれない。だから私は、この曲を滑ることが彼女にとってブレイクスルーになって欲しいと思った。この曲にはそれだけのパワーがあるし、大黒さんのボーカルも包容力に満ちていたから。

 

テレビではよく分からなかったかもしれないが、あの時、氷面いっぱいに照明でバラの花が写しだされた。バラの花の上を滑るアーニャはとても美しかった。きっと何かが彼女の中で昇華したのだろう。彼女自身が感極まっているようだった。大黒さんとアーニャのハグは、どこか母と娘のようでもあり、見ていて温かい気持ちになった。個人的な好みとしては、2.と3.の間の間奏と転調は不要で、原曲通りにシンプルかつパワフルに盛り上がっていくほうがいいと思ったけど(清塚さん、スミマセン)、大黒さんとアーニャの気持ちがぴったり合った、素晴らしいコラボレーションだった。

 

映画The Roseのサウンドトラック盤では、このテーマ曲以外にもベット・ミドラーが迫力のボーカルを聴かせてくれている。When a Man Loves a Womanもかっこいいし、Stay with Meも聴きものです。また、ベット・ミドラーが歌った映画の主題歌としては、The Roseともうひとつ私が大好きな曲に「The Wind Beneath My Wings」という曲があります。「Beaches」という映画の主題歌なのですが、日本ではあまりヒットしなかったのか、映画自体はあまり多くの人の記憶にはないのではないかと思います。これは女同士の友情を描いた映画で、Wind Beneath My Wingsの意味は、私が翼を広げて飛び立とうとしている時に、あなたは私の翼を下から持ち上げてくれる風ということ。これまでずっと支えてきてくれた友人への感謝を歌う曲です。とてもいい曲なのでもっとみんな使ったらいいのにと思っていたら、どうやら浅田真央ちゃんがThe Iceのアンコールに用意しているとのこと。ローリー・ニコルの選曲なのでしょうか。さすがローリー。きっと素敵なプログラムになると思います。The Iceに行かれる方は、ハンカチを用意しておかれたほうがよいかと。

 

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