森喜朗氏「サマータイムで地球環境の持続を」→省エネに逆行、労働者の命と健康を損なうサマータイム | すくらむ

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 安倍首相が昨日(8月7日)、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森会長と会談し、暑さ対策として「サマータイム」の導入を検討するよう自民党に指示する考えを示しました。そのことを伝えるテレビ朝日の報道ステーションを見ていて、森会長の発言があまりにひどいと思ったので指摘しておきます。



 サマータイムの導入を求めて森会長は、「地球環境の持続を求めていくことは国際的に大事なことだ。ちょうどオリンピックが一つのいいきっかけになる」などと発言しました。サマータイムが地球環境の持続に役立つから導入すべきだと森会長は言っているわけですが本当でしょうか?

 サマータイムに省エネ効果があるかどうか、産業技術総合研究所が以下のように分析しています。

 

 すべての人が生活時間を1時間前倒しすると、暑さの厳しい夕方に、事務所で空調需要が減る一方、帰宅後の家庭で30%程度も空調需要が増えてしまいます。(※結果、東京電力管内全域で4%電力需要が増加する)

産業技術総合研究所「夏季における計画停電の影響と空調(エアコン)節電対策の効果」より


 1時間前倒しするサマータイムで家庭での電力需要が増えるため全体の電力需要は4%増加し、省エネどころか逆にエネルギーを浪費して地球環境の破壊をもたらすのです。今回の2時間前倒しのサマータイムになると、さらに家庭での電力需要が増えるため、もっと大きなエネルギー浪費をすることになります。サマータイムが地球環境の持続に役立つどころか、サマータイムは地球環境を一層破壊するのです。2011年にサマータイムを廃止したロシアでも省エネに逆行することが廃止した一つの大きな理由でした。

 そして、森会長は暑さ対策としてサマータイム導入が必要だと言っているわけですが、具体的にどうなるのか考えてみましょう。

 2020年の東京オリンピックの日程で、女子マラソンは8月2日の午前7時がスタートとなっています(男子マラソンは8月9日です)。そこで、今年の8月2日の1時間ごとの気温を気象庁のデータからひろって作ってみたものが以下の表になります(※東京の1時間ごとの気温は、気象庁のサイトの「過去の気象データ」で知ることができます)。

 



 上の表にあるように、マラソンのスタートがサマータイムで2時間前倒しになることによって、スタート時の気温が29.2度から28.4度へ0.8度下がり、ゴール時の気温が32.7度から29.2度へ3.5度も下がることになり、たしかにマラソンの暑さ対策にはなります。ところが、たとえば陸上競技のトラック&フィールドの日程は19:00からになっていますが、サマータイムの2時間前倒しで逆に31.2度から33.3度へ2.1度も暑くなってしまいます。暑さ対策で夜に開催する競技については、サマータイムが逆に作用してしまうのです。これはアスリートはもちろん、観客や大会スタッフ、ボランティアなどにも深刻な悪影響を及ぼすことになります。

 何よりも問題なのは、東京オリンピックの暑さ対策のためだけに、国民全体が巻き込まれてしまうことです。上の表にあるように、現在の10歳以上の平均起床時間は6時32分です(総務省「社会生活基本調査」2016年版)が、サマータイムで4時32分に起床することになってしまいます。4時の気温を見れば分かるように、1日24時間のうち最も涼しく質の高い睡眠が得られる時間帯に起床することになります。加えて、就寝時間が23時12分から21時12分に前倒しされることにより、28.8度から30.3度と30度を超える寝苦しい暑さの中で就寝しなければならず、眠りの質の劣化と睡眠不足を同時に引き起こします。日本睡眠学会が「サマータイム――健康に与える影響」の中で指摘しているように、サマータイムの導入は睡眠の質と量の両面を劣化させます。欧州諸国での研究によってサマータイムの導入前後で睡眠時間が1割短くなって睡眠不足と睡眠の質の劣化で、生体リズムを崩し、肥満、心筋梗塞などの心疾患、脳血管疾患、糖尿病など生活習慣病のリスクをため、睡眠障害が増加し、うつ病など精神疾患の増加をもたらすことになるのです。(※ツイッターでもサマータイムの問題点を簡潔にまとめておいたので参照ください→サマータイムの問題点

 サマータイムを日本も1948年、連合国軍総司令部(GHQ)の指示で導入したことがありますが、朝早く出勤しても明るいうちに退勤とはならず、長時間労働が増加して労働強化になったという批判などが国民から出されて4年で廃止されました。今現在は、さらに高度プロフェッショナル制度や過労死ライン合法化が加わっているわけですから、昔より一層の長時間労働がサマータイムによってもたらされる危険性は大きくなっています。労働者の命と健康を守るためにサマータイムの導入はやめさせる必要があります。(井上伸)