1千万の借金背負い「高学歴ワーキングプア」の仕事さえ失いかねない若手研究者 | すくらむ
2009-12-13 15:04:15

1千万の借金背負い「高学歴ワーキングプア」の仕事さえ失いかねない若手研究者

テーマ:ワーキングプア・貧困問題

 12月5日に「ポスドク・フォーラム~若手研究者問題の解決をめざして」という集会を開催しました。国公労連、学研労協、全大教、科学者会議、全院協の5団体でつくる実行委員会主催でしたが、事務局を私がほぼひとりでやっていたので少々疲労困憊モードに陥りました。


 来年5月16日には同実行委員会主催シンポジウムで、ノーベル物理学賞受賞者の益川敏英さんに参加いただいて、私たちが求める若手研究者問題解決への政策を広く国民に訴え、政府の科学技術政策を転換させるべく準備中です。


 「高学歴ワーキングプア」の実態には驚くべきものがあります。今回の集会で、全国大学院生協議会議長の秋山道宏さんから以下の報告がありました。


 私たちは大学院生の実態アンケートを毎年実施しています。2009年度のアンケートでは、32の国公私立大学から616人の大学院生に回答してもらいました。「収入の不足が研究に影響を与えている」と答えた大学院生の割合は過去最高の64%にのぼっています。具体的には、「学費を払えない」、「書籍も購入できない」、「学会・研究会に参加できない」、「アルバイトで研究時間がない」など、収入不足が研究の基盤そのものをおびやかしています。そして、「将来の就職に不安を感じる」との回答は71.9%で、「大学院修士までに奨学金返済額は600万円超。本当は博士課程で研究したいが、博士号を取ったとしても就職口が保障されないなか、さらに300万円の奨学金返済額が積み重なることを考えると、返済できるのか、自分の生活が崩壊する気がする」などの悲痛な声がアンケートに寄せられています。(全院協の秋山さんの報告はここまで)


 マイケル・ムーア監督の映画「キャピタリズム~マネーは踊る」の中で、アメリカのパイロットが年収200万円以下のワーキングプア状態に置かれていて、パイロットの仕事だけでは生活できないので、他のアルバイトでくたくたになりながら航空機を操縦していて空の安全が危ない状態にあることが告発されていましたが、同時にパイロットの資格を得るまでに奨学金返済額が1千万円に膨らむことも描かれていました。アメリカのパイロットは社会に出た途端、1千万円の借金を背負った上に、年収200万円以下のワーキングプア状態に苦しみ、日本の研究者も博士号を得るために1千万円近くの借金を背負った上に就職先もないという状態に置かれているのです。それも日本の場合は資源の無い国だから政府みずから「科学技術立国」をめざすとしていながら、肝心の研究者が悲惨な雇用・研究労働条件に置かれているというまったく矛盾した話になっているわけです。


 なかでも大学の非常勤講師は典型的な「高学歴ワーキングプア」です。今回の集会で首都圏大学非常勤講師組合委員長の松村比奈子さんは次のように報告しました。


 私たちが調査した2007年の大学非常勤講師アンケートは、回答者1,011人、平均年齢は45.3歳、女性55%、男性45%、平均年収は306万円でうち250万円未満が44%、その上、授業・研究関連の支出平均は27万円でほとんどが自己負担です。職場の社会保険未加入は96%で、雇い止め経験者は50%にのぼります。首都圏の私立大学では授業の6割近くを非常勤講師が担当。大学の非常勤講師は全国に約2万6千人いますが、その多くが典型的な高学歴ワーキングプア状態に置かれています。(松村さんの報告はここまで)


 今回の集会では、NPO法人サイエンス・コミュニケーション理事の榎木英介さんに講演いただきました。最後に榎木さんの講演の要旨を以下紹介します。


 政府の行政刷新会議による「事業仕分け」で、科学技術予算、若手研究者支援予算が削減判定となり、若手研究者の失業が顕在化しています。一節によると「事業仕分け」のまま削減されると若手研究者が1千名は失業するのではないかとも言われています。


 こうした現実に直面したことによって、この問題は雇用問題であり、「ポスドク問題は自己責任」などというレベルの問題でないとの認識は広がったのではないかと思っています。ただ、今回の「事業仕分け」に対する抗議声明が研究関連機関などから数多く出されていますが、自分の分野の予算確保の“だし”に“若手研究者の悲惨さを全面に押し出す”ことへの疑問も一方で生まれていることは軽視できないと思います。加えて、政治・社会と研究者との分断、基礎科学と応用科学との分断、社会・人文科学と自然科学との分断、そして世代間の分断など様々な矛盾が深まっています。


 フランスでは、2002年に連年の研究予算10%削減や公共セクター研究所の550の常勤ポストを任期制に転換する政府方針が出されました。これに対して、2003~2004年に「研究を救え運動」が展開され、フランス国民の82%の支持を得て、予算確保や研究所の常勤ポスト550増、大学の常勤ポスト1,000増などを勝ち取りました。


 フランスにおける「研究を救え運動」の教訓は、雇用不安定化が研究者という特殊な集団に限った問題ではないことや、研究者の既得権益を守ることではなく、“知性を大切にする社会のため”に、“未来の研究者たちが不安定雇用におびえないですむこと”が必要であると広くアピールし国民世論を巻き込んだことにある。日本においても知性を大切にする社会のために、幅広く連携した運動展開が求められているのです。


 ▼参考までに集会の緊急アピールを転載しておきます。


 「事業仕分け」による若手研究者支援の予算削減を撤回し、拡充を求める緊急アピール


 貧困の拡大が社会問題化するなか、学術・科学技術分野においても、学部卒業・大学院修了生の就職率が低下し、博士課程修了後、正規の研究職に就けないポスドクなど若手研究者に、「高学歴ワーキングプア」と呼ばれる劣悪な雇用・研究労働条件が広がっている。加えて、効率最優先の国公立大学・国立試験研究機関の法人化や、基盤的経費である運営費交付金と人員の連年にわたる削減が、若手研究者の雇用不安に拍車をかけている。直近の日本物理学会の実態調査でも1998年度から2008年度までの11年間で、ポスドクの人数が倍増し、不安定な雇用条件のままで高年齢化が進むなど、ポスドク問題は年々深刻さを増している。


 ところが、政府の行政刷新会議は「事業仕分け」で、こともあろうに若手研究者支援の予算(若手研究者養成システム、科学研究費補助金、特別研究員事業など)を大幅に削減すると判定した。


 たとえ現状維持であっても若手研究者の雇用不安は深刻であるのに、これ以上、支援を削減してしまったら、「派遣切り」と同様の「ポスドク切り」「若手研究者切り」が行われ、多数の失業者が生み出されかねない。「科学技術立国」の未来を担うべき若手研究者が大量にリストラされれば、日本社会にとって計り知れない大きな損失となる。


 若手研究者の雇用・研究労働条件を改善することは、当事者だけの課題ではなく、それぞれの大学や研究機関の将来、そして日本の科学・技術の未来がかかっている大きな課題である。


 いま政府がやるべきことは、現在の不十分な若手研究者支援を抜本的に拡充して、「高学歴ワーキングプア」を無くし、日本社会の基盤である科学・技術の発展をはかることである。


 私たちは2010年度予算編成にあたって、政府が若手研究者支援予算の削減を取りやめ、拡充する方向に転換することを求めるものである。


                  2009年12月5日
                  ポスドク・フォーラム
                  ~若手研究者問題の解決をめざして
                  集会実行委員会


(byノックオン)

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