非正規500人分の年収得る上位層が叫ぶ「正社員の解雇規制緩和」「非正規に犠牲を押しつけるな」 | すくらむ

非正規500人分の年収得る上位層が叫ぶ「正社員の解雇規制緩和」「非正規に犠牲を押しつけるな」

 この間寄せられた、正社員の解雇規制の緩和が必要とするコメントの趣旨は、「日本経済全体のパイが少なくなっているから、労働者のパイも減らさざるをえない。にもかかわらず、正社員の既得権(強すぎる解雇規制と賃下げ不可)のせいで、非正規労働者だけに犠牲が押しつけられているのだ。この正規と非正規のダブルスタンダードをただすには、正社員の解雇規制緩和や賃下げをして(特に大企業の中高年正社員がたいして働きもせず給料もらいすぎをただすべき)、その分を非正規労働者に分け与え、正規と非正規を平等にして、雇用流動化してこそ、非正規は救われるのだ。また終身雇用や年功賃金が差別要因となっているので改善が必要だ」というものです。年功賃金の問題については、先日のエントリー「解雇規制緩和でなく劣悪な仕事なくす社会保障が必要 - 福祉国家づくりと均等待遇こそ不可欠」 を参照いただくとして、今回考えてみたいのは、「正社員のパイ(賃金)」の問題です。


 龍さんからコメントでご指摘いただき、思い出した過去エントリー「貧困連鎖 - 所得上位3割による富の独占加速、「中流」以下は奪われ続けアンダークラス出現」 では以下の事実を紹介しています。


 厚生労働省の「所得再分配調査」で、世帯別に所得の額にもとづいて10のグループに分けた所得階級別の所得シェア推移をみると、いちばん裕福な第10階級の所得シェア、つまり取り分は、1987年は25.4%。つまり、国民全体の1割にすぎないいちばん裕福な世帯が、所得全体の4分の1以上を手にしています。さらにこの比率は、96年には26.5%、2005年には27.1%と増加。同じように2番目に裕福な第9階級の取り分も、87年15.6%から2005年16.8%と増加。国民全体の2割にすぎない裕福な世帯(上位20%)が43.9%と全体の半分にせまる富を得ているのです。格差拡大から利益を得ている上位グループを構成するのは、株主や経営者などの資本家階級、大企業の管理職層です。


 これに対して、いちばん貧しい第1階級(下位10%)の取り分は、87年2.3%から2005年1.5%と大幅に減っています。第1階級の取り分は、87年は第10階級の取り分の10分の1だったのが、2005年はわずか18分の1にまで激減しています。加えて、2番目に貧しい第2階級の取り分も、4.1%から3.2%と大きく減っています。


 所得階級全体のうち、取り分が顕著に増えているのは、第10、第9、第8の3つの上位階級です。上位3割が利益を拡大し、2005年の時点では第7、第6階級はほぼ変化がなく、真ん中より下の階級は、いずれも取り分が減少し、その減り方は下へいけばいくほど大きくなっています。2005年までのデータを見るだけでも、貧しいものは益々貧しくなり、富めるものは益々富んでいるのです。この調査は3年おきに行われているので、この次には2008年のデータが発表されることになりますが、2008年といえば、流行語大賞に「蟹工船」や「ロスジェネ(宣言)」がノミネートされるなど、まさに「貧困」が社会問題として大きく噴出した年ですので、上記2005年のデータの比ではない貧困と格差の拡大が数字の上にあらわれることが予想されます。


 国税庁が毎年発表している「法人企業統計調査」で、小泉首相が就任した2001年の金額を100とした指数で、労働者ひとりあたりの給与と、役員賞与、株主の配当金を比較すると、3つのうち、労働者の給与だけが減少し、実額でいえば、2001年375万円から2005年352万円と5%以上の減で、ピーク時の1997年391万円からは1割も労働者の給与は減っています。


 ところが、配当金は2006年までの5年間で、なんと3.6倍。実額で4兆5,000億円から16兆2,000億円と激増しています。役員賞与も、2005年までの4年間で2.7倍。実額で5,650億円から1兆5,200億円と大幅増。(※役員賞与は、2006年にさらに増えているはずなのだが、政府の税制と統計調査方法の改悪によって、実態がわらなくされてしまっている)


 労働者の給与だけが減らされ、その分、企業の株主、経営者・役員など、資本家階級の収入は激増しているのです。


 また、企業が生産活動を通じて新しく生み出した「付加価値」は、企業の生産活動の成果全体から、生産活動のために他から買い入れて生産のために使った原料などの価値を差し引いたもので、ここから人件費が支払われ、さらに税金や家賃・地代などが支払われます。


 2001年の日本企業の付加価値総額は256.9兆円で、このうち63.6%にあたる163.3兆円が労働者の給与や福利厚生費などの人件費。2006年の付加価値総額は290.8兆円と増加し、人件費は172.2兆円で、2001年の割合と同じなら、184.8兆円になるはずの人件費が、12.6兆円も低くなっているのです。2001年から2006年の間に、人件費は大幅に削減され、上記でみたように、逆に、配当金は11.7兆円増、役員賞与は1兆円増(※05年までの数字しかないが)で、あわせて12.7兆円増です。この数字は、労働者の給与などの人件費を減らした分の12.6兆円とぴったり一致しているのです。


 企業の従業員数は増加しているのに、人件費があまり増えないのはなぜか。それは、低賃金で福利厚生費のかからない非正規労働者、つまりパートタイマーやアルバイター、登録型の派遣社員などが増えたからです。このことが、貧困層が増えて経済格差が拡大した最大の原因です。


 財界関係者や経済学者のなかには、このような格差拡大を弁護して、こんな主張をする人々がいる--「経済のグローバル化により、中国やインドなど、賃金水準の低い新興国との競争が激しくなっているので、価格競争に勝つためには、非正規労働者の増加は避けられない」。


 上に挙げた数字をみれば、このような主張が誤っていることは明らかで、人件費の節約によって生まれた利益は、商品を値下げして価格競争に勝つために使われたのではなく、株式の配当金や役員賞与を増やして、資本家階級の懐を潤すために使われたのです。


 それから、過去エントリー「年収格差500倍、トップの報酬vs社員の給料」 の一部も以下紹介します。


 ◆役員報酬が従業員年収の10倍以上の企業


▼会社名   ▼役員平均年収 ▼従業員平均年収 ▼倍率
日産自動車  2億6210万円      714万円     36.7
ソニー      2億8986万円       958万円     30.3
住友不動産  1億1233万円       652万円     17.2
HOYA        9866万円      654万円     15.1
トヨタ自動車   1億2200万円      829万円     14.71
新日本製鉄   1億1024万円     750万円     14.69
シャープ       9570万円       764万円     12.5
ダイキン工業    8160万円       674万円     12.1
三菱電機      8795万円       782万円     11.2
新生銀行      9913万円       917万円     10.8
ヤフー        6300万円       598万円     10.5
※「倍率」=役員平均年収÷従業員平均年収


 上記にあるように、役員1人当たりの年収が最も多かったのはソニー。役員と従業員の年収の格差については、日産自動車とソニーの2社が、役員の年収が従業員の年収の30倍を超えています。この2社を含め、経営陣と従業員の平均年収に10倍以上の差があったのは、住友不動産、HOYA、トヨタ自動車など11社でした。


 日産自動車の場合で、正規の社員と役員の年収格差は36.7倍ですが、これを年収200万円の非正規社員と役員の年収格差を計算してみるとなんと「131倍」もの格差となります。さらに、前述しているソニーのストリンガー氏の報酬10億円と年収200万円の非正規社員と比較するとなんと「500倍」になります。マイケル・ムーア氏は、「1980年には米国の平均的な最高経営責任者は従業員の45倍を得ていた。2003年には自社従業員の254倍を稼いだ。8年のブッシュ時代が過ぎて、今では従業員の平均給与の400倍を得ている」と指摘していますが(※参照→マイケル・ムーアの「ウォール街救済プラン」~労働者給与の400倍得る経営者が救済経費負担せよ )、いまや、3人に1人が非正規労働者とされてしまった日本社会で、「500倍」もの年収格差が生まれているのです。(※過去エントリーからの紹介はここまで)


 以上、見てきたように、「パイを独り占め」しているのは、大企業の株主、経営者、役員などの上位層であり、大企業の正社員も含めた労働者のパイは減らされ続けているのです。


 そして、「雇用の流動化」「雇用の規制緩和」により、ワーキングプアの非正規労働者を大量に生み出してきたのは、これまた上位層です。上位層は、無権利・低賃金の非正規労働者を生み出すことと、加えて正規労働者の低処遇化により、「500倍」にもなる「パイを独り占め」しています。


 上位層による「独り占め」が、非正規労働者の「貧困」と、正規労働者の低処遇化の原因であるのに、まだ相対的には「恵まれている正規労働者」と、「貧困に苦しむ非正規労働者」の「ニセの対立の構図」を描き出し、この際、正規労働者も無権利・低賃金へ引きずりおろうそうというのが、「正社員の既得権(解雇規制等)を奪え」とする主張の本質です。


(byノックオン)