このままでは仕事に殺される - 過労死・過労自殺を強制する経団連会長・副会長出身企業13社 | すくらむ

このままでは仕事に殺される - 過労死・過労自殺を強制する経団連会長・副会長出身企業13社

 世界の中で日本特有の現象とされている「過労死」は、「KAROSHI」として、英語の辞書や他言語の辞書にも掲載されている“国際語”です。


 過労死の労災請求件数は、1999年の493件から2007年の931件と2倍近く増加し、過労自殺の労災請求件数は、1999年の155件から2007年の952件と6倍以上も増えています。(厚生労働省「脳・心臓疾患及び精神障害等の係る労災補償状況」各年度)


 関西大学・森岡孝二教授の著作『貧困化するホワイトカラー』(ちくま新書)の中に、「このままでは仕事に殺される」と題した章があります。その章の中で森岡教授は、2001年度から2007年度の数字(前述の厚労省資料)で、「職業をホワイトカラーとブルーカラーに大別すれば、過労死の労災認定件数はホワイトカラー(1136人、53%)のほうが多い。さらに過労死を一般の過労死と過労自殺に分けると、過労自殺は過労死よりさらに高い比率でホワイトカラー(644人、63.9%)に集中している」と指摘しています。


 また、この章の中で、「トヨタ自動車における過労死・過労自殺」や「経団連会長企業の研究者の過労自殺」などの具体例も告発しています。ここでは後者の要旨を紹介します。(byノックオン)


 経団連会長企業の研究者の過労自殺


 キヤノンの研究所「富士裾野リサーチパーク」に勤務していた男性社員Dさん(当時37歳)が自殺(2006年11月30日)したのは、仕事による過労が原因だとして、沼津労働基準監督署が2008年6月6日、労災認定した。


 Dさんは、異動後の新しい部署で、2006年4月、サブリーダーという職責に就いた。富士裾野研究所における業務だけでなく、東京の本社や茨城県取手市にある工場にもたびたび出張して連絡・調整を図らなければならなかった。Dさんの残業は、証拠上確実に認められる時間数に限っても、発症前1カ月間で263時間50分、発症前3カ月間で659時間47分に上った。彼が過労で被災した時期に近い2006年8月29日から10月21日の54日間は、1日も休まずに連続して働いていたことも明らかになっている。


 Dさんは、9月になると帰宅後も夜中1時から2時くらいまで仕事をしていた。10月には毎日午前3時頃まで仕事をし、3~4時間くらいの睡眠時間しかとれないまま、起きて仕事をしていた。9月頃からは、以前はよくしていた家族との外食やドライブにも行かなくなり、11月に入ると、以前は子煩悩だったのに、子どもたちへのリアクションをほとんどしなくなった。そういうなかでDさんは、上司の所長に異動を申し出るが、慰留される。また、液晶テレビの開発への転勤を相談したが、断られる。11月29日には、室長と面談し、「仕事が忙しい」と述べるとともに、「1、2年休んで家族と過ごす時間が欲しい」「疲れた」「リフレッシュしたい」といった発言をし、同日、退職届を上司に提出したが、一時預かりとされて受理されなかった。そして翌30日の午後6時45分頃、電車に身を投げて自ら命を絶った。


 森岡教授は、過労死に加えて過労自殺がホワイトカラーに増えている背景を次のように指摘しています。


 グローバリゼーションにともなう競争の激化、情報通信システムの劇的な変化とオフィス革命、労働分野の規制緩和、労働市場の二極分化、成果主義の導入と普及などの影響があると考えられる。


 なかでも成果主義の導入と普及は、従業員のあいだの賃金格差を拡大させただけではない。それはまた従業員の精神的ストレスを強めずにはおかなかった。労働政策研究・研修機構のプロジェクトチームが2005年2~4月に実施した、労働者に対するアンケート調査によれば、調査時期までの3年間の職場の変化に関する質問に対する回答で、最も高い割合を占めたのは「精神的ストレスを訴える社員が増加した」59.6%であり、次に高いのは「仕事のできる人に仕事が集中するようになった」55.6%であった。また、「進捗管理が厳しくなった」41.6%、「残業が増えるなど、労働時間が増加した」41.2%などの仕事の負担の増大を示す回答も高い割合を占めている。


 成果主義の狙いの一つは、リストラによって人員削減がつづく環境のもとで、ホワイトカラー労働者を相互に競わせ、まえより少ない人員でもっと働かせて、人件費総額を抑制することにあった。その結果、最近は、ホワイトカラーのあいだでも、仕事が増えて給与が下がるという事態が生じている。


 第一生命経済研究所主任研究員の松田茂樹氏によると、ホワイトカラーの男性正社員の労働時間は、2001年の1日平均9.5時間から2005年の10.2時間に増え、10時間以上働く人も4割から6割に急増した。このように労働時間は増えたにもかかわらず、平均年収は2001年の645万円から、2005年の635万円へと10万円下がった。時間当たり賃金は、2001年を100とすると、2005年は91で、1割近く減少したことになる。これらのことは結局、ホワイトカラーが絞り込まれていっそう搾り取られるようになったことを意味している。


 そして、森岡教授が代表をつとめている「NPO法人株主オンブズマン」は、株主の立場から企業の社会的責任(CSR)を求めて活動しているNPO法人として、日本経団連の会長・副会長出身企業16社の労務コンプライアンスの現状を把握するために、昨年10月に所轄の労働局に対して16社の時間外・休日労働協定(「36協定」)に関する情報公開請求を行い、その結果「日本経団連の会長・副会長企業の36協定について」を4月21日に以下のように公表しています。



付表 日本経団連 会長・副会長企業の36協定の概要

企業名 協定成立日 延長することができる最大時間 過半数代表者
1日 1か月 3か月 1年
キヤノン 08/8/29 15時間 90時間 1080時間 労働組合
トヨタ自動車 08/8/24 8時間 80時間 720時間 労働組合
新日本製鐵 08/3/6 8時間 100時間 700時間 労働組合
新日本石油 08/3/31 100時間 480時間 労働組合
三菱商事 08/3/26 5時間 43時間 360時間 労働組合
パナソニック 08/3/31 13時間45分 100時間 841時間 労働組合
第一生命 08/3/26 45時間 360時間 判読不能
三井物産 08/3/26 12時間45分 120時間 920時間 労働組合
東レ 08/9/29 160時間 1600時間 労働組合
みずほFG 08/8/31 11時間 90時間 900時間 従業員代表
日立製作所 08/3/26 13時間 400時間 960時間 労働組合
三菱重工業 08/3/31 13時間30分 240時間 720時間 労働組合
野村H 08/3/21 8時間 104時間 360時間 従業員代表
全日本空輸 08/3/31 7時間 30時間 320時間 労働組合
三井不動産 08/3/31 4時間30分 90時間 360時間 労働組合
東京電力 08/9/26 12時間10分 100時間 390時間 労働組合
(出所)株主オンブズマンによる情報公開請求により所轄労働局から公開された36協定。
(注1)同一企業でも事業や業務の種類が異なる場合は、それぞれの延長時間の長いほうを示した。
(注2)一般協定における延長時間より長い特別延長時間が明らかにされている場合は後者を示した。
(注3)第一生命の07年3月28日の協定の特別延長時間は月120時間、年600時間であった。
(注4)野村Hの1か月104時間は、週24時間を年間26回までを1か月4.35週で換算した。

 労働基準法によれば、使用者は1週40時間、1日8時間を超えて労働者を働かせてはならない。これに違反した場合は、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる。「36協定」とは、労働基準法の第36条にもとづく、時間外・休日労働協定のことで、使用者は労働者の過半数を代表する労働組合ないし従業員組織と協定を結び、労働基準監督署に届け出れば、労基法の定めを超えて時間外および休日に何時間労働をさせても罰せられない。過労死などの過重労働による健康障害が深刻化するなかで、厚生労働省は、「36協定」における労働時間の延長の限度を、1週15時間、2週27時間、4週43時間、1カ月45時間、2カ月81時間、3カ月120時間、1年360時間としている。


 とはいえ、この指導基準は法的拘束力をもたず、実際に労基署に提出された「36協定」は、一般協定では上記限度内の時間を記載しながら、付帯的な特別協定で上記限度をはるかに超える時間外・休日労働を可能にする「特別延長時間」を設けている例が大多数である。他方で厚労省は、月100時間または2~6カ月平均で月80時間を超える時間外・休日労働を、脳・心臓疾患の発症を招く恐れが大きい過重労働とみなしている。過重労働による健康障害を防止するための指導基準からいえば、1カ月の残業が80時間を超えるような「36協定」は受理するべきではない。また、使用者も労働組合も、そうした「過労死ライン」を超える残業を容認するような「36協定」は締結するべきではない。


 にもかかわらず、本会の情報公開請求によって明らかになった日本経団連の会長・副会長企業の36協定は、付表に示したように、三菱商事と全日本空輸と第一生命の3社を除いて、すべて過労死ラインを超える「36協定」を結んでいる。会長企業のキヤノンの最大延長時間は月90時間、年1080時間と驚くほど長い。同社の別の事業所では、最大で月80時間、年700時間働かせることができる協定を結んでいるが、その場合の1日の延長することができる時間は15時間である。これによれば通常の拘束9時間をさらに15時間延長し、1日24時間働かせることもできる。こういう「36協定」を持つキヤノンの職場で実際に過労死や過労自殺が起きているのも不思議ではない。


 問題は労働者の健康と安全に関する個々の企業の社会的責任だけではない。本会として看過できないのは、これらの企業が、日本の経済界に対して労務コンプライアンスの遵守という点で指導的責任を有する、経団連の会長・副会長の出身母体ということである。経団連はCSRに対する取り組みのなかで、ILOが唱える「ディーセント・ワーク」(まともな働き方、人間らしい労働)の実現を言葉としては受け入れている。しかし、実際には会長・副会長企業の大多数は、付表の36協定の概要に明らかなように、過労死・過労自殺を招く長時間残業の削減にはきわめて消極的である。


 本会は、経団連の会長・副会長企業に対して、自社の36協定を過労死ライン以上に働かせることのない内容に至急改めることを求める。