月光の女
  監督 : ウィリアム・ワイラー
  製作 : アメリカ

  作年 : 1940年
  出演 : ベティ・デイヴィス / ジェームズ・スティーヴンスン / ハーバート・マーシャル / ゲイル・ソンダーガード / テツ・コマイ

 

 

ウィリアム・ワイラー 月光の女 ジェームズ・スティーヴンスン ベティ・デイビス


椰子の葉影の向こうを月が浮かんでいます。むらむらと雲間が晴れると夜のしずけさを月光がさざ波のように吹き払っていって誰もがつぶった瞼のなかにまざまざと何かを見ているようなそんな寝苦しい夜です。ここはシンガポールの大きなゴム園で、粗く組み上げた鳥籠のような小屋で現地民はめいめい寝床を吊っていますが園の経営から出荷までを握る西洋人たちは気候もあって飾り立てるには不向きながら高床のテラスも白く塗って木造のお屋敷は夜目にも美しく照り映えています。月光が運命のように庭を明暗に分けながら渡っていきます。そのとき一発の銃声が夢の合間を駆け抜けていき更に一発、一斉に跳ね起きるひとびとがひとつになって耳を済ますと更に一発。お屋敷の開け放たれた扉からはよろける男性が出てくると逃げようとしているのかそれとも何かにひれ伏そうとしているのかとぼとぼと自分の足許を追うように階段を降りるところを翻るベティ・デイヴィスが傍らを廻り込んで躊躇することなく残りの弾丸を撃ち込みます。銃声の余韻が消えてしまうと現地民の鳥のようなさえずりがひときわ大きく死体とヒロインを取り囲んで呆然と立ち尽くす彼女は夢のなかのけたたましい出来事がだんだんと冷たく現実に固まっていくのを見下ろしています。月が翳りそしてまた姿を現わすと寧ろ現実が自分を見つめているのです。この夜のはじまりはどうあれいまや殺人が消し去りようもなく自分の足に絡みつき奈落へと重みを増していく...  そこから自分の運命を振りほどくためにデイヴィスは輪郭のない自分の体を引き起こし駆けつける執事に次々と指示を出して夫と友人である弁護士そして検事を呼び寄せます。集まったひとびとは自分たちもよく知る男がいまや息もせず横たわるこの静止したひと間に立ち尽くすでしょう、とりわけ夜通しの積荷作業に家を明けた夫はやがて妻が語る今夜の顛末にその後悔を深めます。夫の留守を見計らうように街でも名うてのプレイボーイであるこの男が訪れてきたと言うのです。拒んでもまといつく馴れ馴れしさでだんだんと言葉と腕を絡めて振りほどいても振りほどいても体を重ねてくるともはや無理矢理体を押し伏せる力づくに咄嗟に引き出しの銃を掴みますが突然のことに動転して引き金を引いてしまって... いやいや夫人の被った非道には誰もが心を震わせ男の末路を当然のことと思うでしょう。ただひとつ心に引っ掛かるのは何もかもがあまりに明瞭なことです、まるで煌々と輝く月光のように、柔らかく光を奏でて。それにしても『月光の女』とは意味深い題名です。原題はサマセット・モームの原作のまま"The Letter"、やがて事件に浮上してくる一通の手紙を見つめていますがこの邦題には闇から光、光から闇へと身を移ろわせる女のありかが浮かんでいます。と言いますのもやがて領事館に身柄を移されるヒロインが邸宅を出ていこうとするところ旋回する車のヘッドライトに浮かび上がって殺された男の妻が庭の闇に立っています、金銀のような荘厳な無表情を身にまとって闇の奥の奥まで見通しながら。そうであるからこそこう問うわけです、月光の女とは誰なのか、誰が月光に愛されそして憎まれるのか。

 

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