獅子座
  監督 : エリック・ロメール
  製作 : フランス

  作年 : 1959年
  出演 : ジェス・ハーン / ヴァン・ドード / ミシェル・ジラルドン

 

 

エリック・ロメール 獅子座 ジェス・ハーン ポール・クローシェ

 

言ってしまえば取らぬ狸の皮算用という話ではあるのですが何はともあれ主人公の許に大層な実業家であった叔母が亡くなって億万というその遺産が相続されたという報せが届くことからこの物語は始まります。その夜はまあ誰彼なくパーティに呼んではうずうずと喜びを(そう、明日には夢へと引いていきはしないかと)体に巻きつけるように夜通しはしゃいでいます。気前よくワインを開け料理のあれこれを取ってやってアパートの追い立てを喰らっていることなんてもう何のその、その気になればパリの最高峰のホテルにだって泊まり明かせるのです、何せあそこに工場がこれこれ、どこそこにもこれこれととても使い切れる額ではないんですから。いまだから胸を撫で下ろしますが、定職にもつかないままぶらぶらと日を送って主人公ももうじき40歳、首が座らない大男といった体つきに風貌もともすると子供のような肉厚な無表情に呑み込まれて(アメリカ映画ならば差し詰めブローデリック・クロフォードといったところですが)一見して粗暴な印象です。しかしそこはやはりフランスでして主人公はバイオリンを弾いて(いつまでも最初の一歩を踏み出そうとしないままとは言え)作曲家です。そののちパリの巷に着の身着のまま揉みくちゃにされても身につけた嗜みがあけすけな浮浪者となることに(胃袋の悲鳴に反して)抵抗しているところがあって大雑把な振る舞いのなかに埋もれた繊細な気質があるわけです。それにしてもエリック・ロメールの語りは律儀なものです、遺産が入ったとは言え手許に金のない主人公が友だちとふたりして銀行に金を下ろしに行くところでは車に乗り通りを走って銀行に着くと帰りはその道順を後ろ向きに辿ります。それは女友だちを誘いに行く場面でもそうで車からそのまま彼女の部屋へカットは飛ばず車を下りるふたりを追うと廊下と言えどもおろそかにしません。廊下を歩いてきてノックしドアを開けます。私たちが『我が至上の愛~アストレとセラドン~』(フランス・イタリア・スペイン 2006年)まで一緒になぞることになるロメールの、優雅な律儀さです。そしてその優雅さは主人公の境遇が一転しても何ら揺らぐことなくちょうど真昼にどこまでも追いかけてくる光のように残酷な落ち着きで彼を追い続けます。そうです、そんな工場を手広く経営するような賢明な叔母がいつまでも人生を足踏みしているような甥に大事な遺産を託すはずはありません、ふたりいる甥で二等分と早合点した遺産はそっくりもうひとりに譲られます。いまはまだそんなこととは知らず夜通しの宴に酔いつぶれて主人公は遺産に埋もれる夢でも見ながらヌーヴェルヴァーグの気怠い夜明けが広がっていきます。  

 

獅子座 [DVD] 獅子座 [DVD]
5,184円
Amazon

 

 

 

エリック・ロメール 獅子座 ジェス・ハーン ヴァン・ドード

 

こちらをポチっとよろしくお願いいたします♪

 

エリック・ロメール 獅子座 ジェス・ハーン

 

 

関連記事

右矢印 映画ひとつ、ジャック・リヴェット監督『パリはわれらのもの』 ヌーヴェルヴァーグの作品

右矢印 映画ひとつ、ラオール・ウォルシュ監督『世界を彼の腕に』 ヌーヴェルヴァーグの監督たちが好んでいた

右矢印 映画ひとつ、ハワード・ホークス監督『コンドル』 ヌーヴェルヴァーグの監督たちが好んでいた

右矢印 映画ひとつ、マルセル・カルネ監督『港のマリィ』 ヌーヴェルヴァーグの監督たちが嫌っていた

 

 

エリック・ロメール 獅子座 ジェス・ハーン

 

エリック・ロメール 獅子座 ジェス・ハーン

 

 

前記事 >>>「 映画ひとつ、神代辰巳監督『かぶりつき人生』  」

 

 

エリック・ロメール 獅子座 ジェス・ハーン

 

 

 

 

 


■ フォローよろしくお願いします ■

『 こけさんの、なま煮えなま焼けなま齧り 』 五十女こけ