色紙の裏に「大朝日 渋谷円吉」とメモがありました。ちょうど今の季節のような初冠雪の大朝日です。

 メモにある大朝日とは朝日連邦の主峰、大朝日岳のことです。大朝日岳をはじめ、小朝日岳、高原山などがあります。
 
 中学生の時、大朝日岳に10人ほどの仲間でテントをかついで出かけました。朝日鉱泉から鳥原山を目指し、そこから小朝日岳、大朝日岳という予定でした。元気いっぱい朝日鉱泉を出発したものの、鳥原山に近づく頃に雨が降り出し、風も強くなってきました。仕方なく鳥原山の山頂でテントを張って様子を見ることにしました。雨は止まず、その夜は一晩テントを押さえながら過ごしました。次の日は大朝日どころか、鳥原山から下りるのに精一杯という惨憺たる登山となりました。それでも全員、元気いっぱい家路に着きました。懐かしい思い出です。

 父は渋谷さんとどこで知り合ったのか、とてもいい絵を描く画家だと、いつもかっていました。ある日、渋谷さんが大きな風呂敷包みを抱えてやってきました。それは寒河江川の簗場の絵でした。おそらく父はふるさと、寒河江川の簗場の絵が欲しいと、彼に頼んでいたのでしょう。その絵をもって、彼はやってきたのでした。その絵が居間の中央に飾られると、父はうなりながら見ていて、
「いい絵だ。これが欲しかった!」
といいました。寒河江川の流れ、その中に掛けられた簗場、そして簗場で光り輝いて飛び跳ねる鮎。川の流れと鮎の激しい動きが生き生きと目に飛び込んでくるのでした。そんなことのあった渋谷さんの色紙。「大朝日」も動いています。