あいててて! | 木かげdeえほん

ナタリー・バビット 再話
フレッド・マルチェリーノ 絵
せなあいこ 訳
評論社

表紙なのにタイトルなし、で、おしゃれな男性と小人みたいな男性が

描かれているのが印象的。タイトルはどこー?? ってひっくり返すと

(印刷屋さんだと、表を表1、裏表紙を表4っていうんです。今から、この

表1、表4って言葉を使わせてくださいね)

表1には天地切られたイラストに、イラストレーターと再話をした作者たちの

名前のみで、表4にはこのおしゃれな男性がちょっとびっくりした表情の

囲み窓の中に描かれています。そこにようやくタイトル登場。

「あいててて!」

実際、本文を読むとこの「あいててて!」の場面のイラストが表4なんです

グリム童話なんで、小さな子にもおはなしして、もちろんいいと思いますが、

テキスト量も多く、こういった少し先のお話の流れを見通してくすりと笑える、

最後に思い返して、くすりと笑えるといった要素を含むおはなしは、

高学年以上、おとなの方がより楽しめる絵本だなー、と思いました。



映画でエンデロールの最後の最後に、登場人物が丸い小窓から登場して、

「おもしろかった??」みたいな台詞をいって、暗転するようなものがありますが、

こういった作りを思い出させるような絵本なんです。

中ページも全て細罫に囲まれたイラストで、いかにも「むかしばなしだからね、

ある所の、ある時代の、ある王様のおはなしなんだよー」って空気を伝えます。

それでいて、登場する一人ひとりの表情の人間臭さ、リアルな気持ちが

「わかる、わかる」って感じの描き方で、テキストの長さを感じさせません。

イラスト、テキストのリズムともに、ぐっと物語に入り込めます。

占い師がでてきて、庶民の子が「王になる運命」なんて予言をして物語が

始まるあたり、もう、モーセかペルセウスかシェークスピア戯曲か、

っていうワクワク感。

しかも、王様からの無理難題の課題や、いじわるを乗りこえて、ちゃーんと

王様になるあたりや、このいじわるをした王様がちゃーんとしっぺ返しを受けるあたり

もスッキリするおはなしとなっています。

意地悪なシーンもありながら、しんどくならない読後感って、多分、悪魔が登場しても

その悪魔が強烈な悪いやつじゃなくって、「悪いやつ」として登場するだけで、

すっごーい残忍な悪さをするシーンがなかったり、悪党が登場しても

その悪党っぷりが小悪党でおかしみを感じるエピソードだったりするからかな、

と思います。そのあたりの、文字としての書き方の分量、表現のバランスが

いいんだろうなあ、と思いました。




この絵本もブログつながりでご紹介されていた絵本。

うきょうが未読だったので、さっそく図書館にて借りてきました。

というわけで、西宮の図書館にはありますので、ぜひ、読んでみてほしいな、

と思います。世の中には溢れるほど絵本があって、ほんっと読みきれないほど

いいものが溢れてる。まだまだ、楽しめる絵本がある、これからもいい絵本が

発行されると思うとうれしいですよねえ。





そうそう、このおはなしの中で、おとなのうきょうがおもしろいなあ、

と思ったのはね、「渡し守」のエピソード。

「どうやったらこの仕事をやめられるか」の渡し守の質問に対し

「そのオールを、だれか他の人にわたしてしまえばいいのさ」が答えってこと。



そう、そうりゃそうだ、って単純な話。

一瞬、ほーっと納得しました。

次の瞬間、あれ???

そのオールを手放した手で、次になにを握るの??

仕事って嫌になることがあるんだけど、それ、ほんとにだれかに手渡していいの?

手渡した瞬間から、その役割は自分のものじゃなくなるよ。

次のステップに進むのも大切な選択だから、オールをだれかに譲るのも大切。

だけど、よく考えて、譲らないのも大切。

その手がすっからかんのままじゃダメな気がするんだよねえ。

いや、すっからかんの方が気楽でいいや、っていうのもあるか、とか、

いろいろ考えてしまいました。←そこがこの絵本のテーマではぜったいないんだけど、

今のうきょうにとってひっかかるところがここだった、という話ですね。

こういうのを、絵本セラピーとして深めていくとおもしろくなるところ



童話や昔話というのは、河合隼雄先生や山中康裕先生の著書でも

人間の真理、心理が深く反映されているということがよく書かれています。

日本の昔話も深く読むと、宗教観なども含めてとってもおもしろいものがあります。



あ、でもうきょうのとこのブログの絵本紹介で日本のむかしばなしってあんまり

扱ってないのね 「鬼ぞろぞろ」くらいしかしてないぞ

一時期、「スサノオ」の絵本をいくつか紹介しているけど。

これとか→★★    これとか→★★

つい、創作絵本が好きなんで、新しいものの紹介に偏っちゃうんですけど、

再話ものや、昔話にも光をあてていきたいなーって思いました。





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