Side−M


オレが学校を辞めて、2ヶ月近くが過ぎようとしていた。


明日の土曜日は、その学校で文化祭がある。凄く楽しみにしていたから、オレは前々からこの日は旅館の仕事を休むと周りに言っていた。


それなのに…


「明日は、お見合いをしてもらいますからね?」


余りにも急な母さんの言葉に、オレは思わず「…なんでよ?」と、返事をした。


「なんでよ、って…。あなたに結婚してもらって、旅館の跡を継いでもらうからに決まってるでしょ?」

「跡継ぎなら、駿佑がいるだろう?」


「そりゃあ…孫の駿佑が跡を継いでくれるのなら、私は何も言いませんよ?でもね?その駿佑が跡を継ぐのにあと何年待たなきゃならないのか分かってる?」

「…またその話かよ?」


「あなたの耳にタコが出来ようが、何度だって言います。貴子が女将として旅館を切り盛り出来ない以上、いつまでも女将不在のままじゃ、他所の女将さん連中に合わせる顔がないのよ?あなたのお嫁さんになる人に女将業をしてもらうしか、他に方法がないことくらい分かってるでしょう?」

「…オレに、旅館のために見合いして結婚しろって言うのかよ?」


「そうよ!」

「嫌だね!」


「潤…!」

「オレは明日、予定があるから休みを取ったんだよ。誰にも邪魔されたくない。見合いは断ってよ。」


「潤…あなたまさか、雅紀くんに会いに行くんじゃないでしょうね?」

「…ちげぇよ。明日はこの前までいた学校の文化祭なんだよ。あいつ達にとって最後の文化祭だから、ちゃんと楽しんでるのか、この目で見たいんだよ!」


半分は嘘だけど、半分は本当だから…。まぁに会えないのは嫌だって思っていることは、たとえ母さんにでさえ、気付かれてはいけない。


「それなら、お見合い相手のお嬢さんと一緒に行きなさい。」

「は?なんでよ?」


「先方のお嬢さんはウチと同業者の娘さんで、週末の忙しい時だっていうのに、わざわざ時間を作って、あんたとのお見合いに臨んでくださるの。それを、顔も見ないうちにお断りするだなんて、出来るはずがないでしょう?」

「母さんが何を言おうとしているのかは分かってる。母さんや旅館の体面のために、見合いだけはしろって、そう言いたいんだろ?」


「…そう受け取ってもらっても、構わないけど?」


母さんは狡い。そんなふうに言われたら、オレが断われないって、知ってるんだ。結局、オレは母さんに押し切られてしまい、明日は見合い相手と文化祭に行くことになった。



まぁにだけは誤解されたくないから、『明日は母さんのゴリ押しで、見合い相手とそっちに行くことになった』という内容のメールを送ると…


まぁからは『分かった』とだけ、返ってきたのが少し気になったから…


『オレには、まぁだけだから』と、もう一度メールを送った。


直ぐに既読が付いただけで、まぁからは何も返ってはこなかった。






…つづく。