タベルナなんとか、
や、
クッチーナなんとか、
も、
いいけれど、
この赤暖簾が一番眩しいし、
胃袋が唸るくらい、
魅力的だと、思う。
この店は家族経営である。
三人兄弟で、
おっかっぁんも加わる、
強力な布陣である。
この手の店には必ず、
カレーライスやカツ丼など、
ご飯ものがラインナップに加わる。
チキンライスを置く店もあるし、
天津丼でドロドロな官能美も見せる。今朝は、その「官能」について、少し触れたい。
☆
園児の頃から早くも、
近所のよろず屋、大島屋の雑誌コーナーに日参しては、
ヌード雑誌を立ち読みしたものだった。
はたきを持った店員から、
「こんな幼い子が、何見てんのよ!」
と、蠅の扱いで追い出された。
が、
僕は諦めなかった。
「そこにヌードがあるから」
と抵抗したかどうかわからないが、
いつしか張り紙がされたらしい。
母の弁である。
「園児含ム未成年ノ立チ読ミヲ禁ズ」
卵とじが、はみ出している。男ははみ出しに、滅法弱い。最初から丸出しよりも、淫靡なはみ出しに、食指を伸ばす。
小学生に上がると、
活動範囲が広がった。
誰が攻めてくるわけでもないのに、
「基地を作ろう」
と誰が言い出し、
段ポールや枝を集めて建築。
家から持ち出したプロ野球スナックなどを備蓄、
迫る大戦に備えた。
誰かが基地の外で叫んだ。
「女の裸の本、見つけたよ!」
皆で食い入るように眺めた。
誰かが自宅で読めないこの手の本を、
雑木林でこそこそと、
木々が風できしむように、しこしこと、
読み耽っていたのだろう。
湯気が漏れる。ちらりと中を覗いてみる。男は、漏れるのと、ちらり、に滅法弱い。舌なめずりして、妄想で舌先が痙攣しだす。
森の中で、
大戦前夜の少年たちは、
輪になって、ヌード雑誌を食い入るように、見る。
誰かが、次へと焦ってページをめくると、モメる。
「ちょっと待てよ。もうちょっと見させてよ。ここ、ここ、霧吹き?」
「バカ、汗だよ。スポーツした後の撮影じゃないか。よし、次、次に行こう」
おおおおおっ、と皆で唸る。森に木霊する。
「この女のひと、苦しそうじゃないか?
うちのママみたいに、眉間に深い皺が」
「痛いのかな?」
「かゆいんじゃ?」
「どっちにしろ、いつもと違う感覚で、苦しそうなんだな」
森の色に、
夕暮れを知らせるオレンジ色の光が横から差し込んでくる。
僕らは、それも気づかずに、
夢中になって、一ページ、一ページ、
ヌードを眺めた。
「ね、暗くなってきたから、帰ろうよ。」
「ちょっと、待てって。いいところだから」
「でも、母さんに怒られるから」
「後、じゃ、二ページ。明日、また、ここで残りの半分を、
皆で見ないか」
大戦前夜のソルジャーたちは、
統制が取られており、皆で、うん、うん、そうしよう、
と合点した。
基地にヌード雑誌を格納し、
翌日の放課後に、また、迫る大戦の準備のため、
基地に集合することに、した。
ででん。全てを剥ぎ取ると、こんもりと隆起豊かな肢体が横たわり、風呂上りのように、
湯気でこちらを誘惑する。もう、我慢、限界。理性は捨て、飛びつく。地位も名誉も要らない。
翌朝基地を作った木の下に行くと、
友達らが、オイオイ、としゃがんで泣いている。
基地が何者かによって破壊されたのだ。
僕ら6人は、輪になってしゃがみ、泣いた。
誰かが、思い出したように、叫んだ。
「あ、あの、裸のおねえさんの雑誌、あの雑誌が、
ない!」
統制が図られていた。
僕らは広大な森の中を均等に散らばって、
ヌード雑誌を捜索することにした。
会計士の息子の刈谷は、
まだ小学二年生なのに、
おとなのような冷静さを持ち合わせていた。
「意外に、広い森だ。何かあっても不味い。
敵がスキをついてくるともわからない。
kovaクン、きみは、ここで陣地を守っていてくれないか」
「ラジャー」
刈谷は皆に向かって、こう指示した。
彼は司令官だった。
「みんなは、150を数えて、そして、ここに一旦戻ってきてくれ」
「なんで?」と、畳屋の大沢が聞く。
「はぐれても不味いから、この決まりを守ってほしい。」
ラジャー!と皆が叫んで、森の中に消えた。
遠くで、21、22、と数字を口ずさむ声も聞こえる。
静かになった破壊された基地の前でひとりたたずむ自分。
心の中で数字を数えてみるが、
200を超えても、誰も基地に戻ってこない。
400を数えたが、まだ、だ。
だんだん、心配になってくる。
結局、時間にして、
5分は待ったと思う。
三々五々、仲間たちが戻ってきた。
僕は、怒った。
「決まりを守らなければ、軍隊の統制は図れないぞ」
刈谷が申し訳なさそうに、紙を手に、言った。
「ごめん、バラバラになったこの、ヌード雑誌の一ページが、草むらに落ちてて。」
「落ちてて?」
「しばらく、見入っていた。」
僕は、バカッ!と刈谷を怒った。
しかし、他の兵隊たちも、手に数ページの紙切れを持っている。
ポケットに隠していたやつまでいた。
僕は、落胆した。
「皆、もしかして、僕がここで陣地を守っていた間に、
それぞれ、切り捨てられていたヌード雑誌を、見入っていたのか??」
皆、一斉に、
「そのとおりです。」
と頭を垂れた。
これが、僕が生まれて初めて体験した、
同時多発エロ
の全容である。
バダイの中華T。ずば抜けて美味しいわけでもないが、存在は大きい。