ワールド・トレード・センター |  ◆ R I N G O * H A N

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歌うパステル画家5*SEASON鈴御はんの蒼いブログショー


ケムリ・カーテン


ずっと考えていた問いの答えを
この映画が後押ししてくれた。
オリバー・ストーン監督は
『ワールド・トレード・センター』という1本を
愛すべき映画のために作ったのだ。
映画がもつ力を信じて。

今日も世界のどこかで
こんな会話が必ず交わされているだろう、
「'01年の9月11日、あなたは何をしてた?」
「あの時、私は⋯」
互いに“あの日”の、所在を打ち明け合う。

おそらく、どの国にいようと、
世界的に通じる日付「9.11」。
人類は、初めて経験した、
負の歴史を「映像で知る」、この恐怖。

5年前のあの日、
ニューヨークの世界貿易センターに
2機の飛行機が追突したというニュースを、
私はラジオの臨時ニュースで知った。耳を疑った。
ちょうど、その時ラジオを聴きながら、
〆切り前のイラストを描いていて、
日本ではもう、一日が終わろうとしていた時刻で、
時計は もうすぐ夜の10時をさそうとしていた。
ラジオの第一報では 真そうが分からず、
すぐにテレビを付けた。目を疑った。
「映画じゃない、事実なんだ」
世界貿易センターの現状、そして
繰り返し映される「あの瞬間」。
足元が崩れていく⋯その時、電話が鳴った。

電話は遠方に住む女友達からで、彼女は
翌朝「この事件」のことを
子どもたちに どう説明すればいいのか分からない、
そう言って、声を震わせていた。
「むずかしい⋯でも、ちゃんと
 有りのままを説明した方が⋯」
そう言っている私だって、
いったい何が起ったのか、有りのままって何なのか、
何が何だかさっぱり分からず、
ただ世界は「今日」を境に
とんでもない闇に包まれるのかもしれない、
もしかして⋯開戦⋯??
それは生まれて初めて感じた危機感で、
背筋がゾッとするほどだった。

「9.11」の翌年だった、
ポランスキー監督の映画
『戦場のピアニスト』を観たのは。

「つくらねばならない」
制作者の使命感に満ちた作品で、
あの1本で私は芸術がもつ無力と有力の
相反する両方の力を認識し、はたして、
私は どうすればいいのだろうと身がすくんだ。
狂った帝国に支配されたら芸術家など
傍観者でしかいられない、
ポランスキーは諭してくれた、
万が一、好きな絵を描けない、とか、
検閲下でしか表現しか許されない、
表現の自由が奪われる、そんな暗黒時代になったら、
絵描きはどうすればいい⋯? そうならないためには?
たかが絵描きに何が出来る?
芸術の力って、いったい、何なんだー?

私は「9.11」に覚えた驚愕から
まったくもって抜け切れておらず、
日本と米国との関係も、日本のイラクへの侵攻も、
「自己責任」という言葉の愚かさも、
「9.11」の真相も、ひたすら疑うばかりで、
具体的な行動に うつせない自分に辟易してた。
頭では自分が好きで選んだ職業を
心を込めて邁進すればいい、
そう結論付けているものの、一方では、
逃げてるんじゃないか、そんな思いもあった。

あの「9.11」から5年たった今年、
「9.11」を題材にした映画が公開されるようになった。
今後も続々と作られることになるだろう、
その先陣の1本であるオリバー・ストーン監督の
『ワールド・トレード・センター』は
アメリカでは絶賛、他国では不評だと聞いた。
なるほど、私の目にも社会派の監督らしからぬ
アメリカ人お得意の友情物語、
しっかり感動巨編の大看板が掲げられている。

私は思う。人間が他の動物より優れている点は
感動を伝えられることだと。
ならば、自身にしか出来ない方法で、
「9.11」以降も生き伸びた人間の一人として、
あの日に得た感情と感動は伝えるべきだと、
ようやく強く思えるのだった。

そうして、誰にでもすぐ出来ることは、
「9.11」の証人として
繰り返し言い合うべきなのだ。
「2001年の9月11日、
 あなたは何をしてた?」
呑み屋レベルでもいい。切実に そう思う。



★★★★★☆☆ 7点満点で5点

この映画の中に「新しさ」はない。「名ドラマ」が
「プロ中のプロ」の手により作られているだけ。
王道のハリウッド発、大作映画。

そんな中に、奇異な人物をひとり発見。
瓦礫に埋まった人々を救出すべく、
自主的に駆け付ける海兵隊員のおじさん。
「変な人」として、浮いた感じに描かれているが、
この海兵隊員のエピソードは
実話を とことん忠実に再現してあるらしい。

想像だけど、オリバー・ストーン監督が
次回作で描くのは
こういうタイプの「軍人」ではないか?
なんとなく、そんな予感。

その海兵隊員の台詞。
「神様が(ビルの惨状の)全部が見えないよう
 煙のカーテンでお隠しになられた」
・・・綺麗で宗教的な言葉だけど、
そんなこと言っとる場合か? と私はムカつく、
しかし、これも彼を変人として際立たせるため⋯?
あるいは、「9.11」の真実は
今もって煙のカーテンで隠れているという隠喩⋯?
願わくば、閉じたままの煙のカーテンを開けるのは、
オリバー・ストーン監督であってほしい、
映画においては。

この映画を観た後、
同じく「9.11」をテーマにした
『ユナイテッド93』を観なくては
そんな気持になり、すぐに観に行った。

奇しくも日付は10月11日、
1ヵ月遅れで「9.11」と向き合うこととなった。
おそらく本作を観なければ、
そんな気持にならなかっただろう、
映画は最も影響力のある表現なので。
ようするに「9.11」を直視した作品を見るのは、
まだ私には辛いことだった。
日本人の私でさえ、こんなふうなんだし、
ニューヨーク市民の心傷は いかほどか、
まだまだ癒えていないだろう。

いろんな表現があっていい、
特に帝国主義に傾くのか⋯と
かなり世界情勢を危惧していたので、
2タイプの「9.11」を主題にした映画が
今秋 日本で公開されたのは心強い。

あの日、ビルの瓦礫に生き埋めになった、
ふたりの男たちの会話に胸が詰まる。
これも忠実な実話らしい、
見事に演じた2人の俳優に拍手。

~新宿プラザにて観賞~






●映画『ワールド・トレード・センター』サイト
●「9.11」の前年'00年に行ったニューヨークのレポート
●本作の後に観た『ユナイテッド93』の感想