勝利が目を覚ました。


しばらくゆっくりと
視線を彷徨わせていたが
寝起きの頭で理解できる範囲を超えたのか

「・・・・いゃぁァァァーー!!」
急に叫んだと思ったら
自分の上に乗っていた岸を
体をひねり膝だけで投げ飛ばした。


あっ!バカっっ!! 
自分よりもはるかに体重のある奴を
そんな無理な体制で押しのけて
どこか体を痛めでもしたら
どうするんだ!!


「勝利っっ!!」
思わず声を荒らげてしまった。

俺の声が聞こえているのかいないのか
勝利は『ガバッ』と
起き上がると

だから
急な動作はやめろ!!
体を痛めちまうだろ!!

って
そんな俺の心の内なんて
知りもしない勝利は
シャツの前をおさえて
慌てるだけ慌てて
今いる控室の
奥にある物置部屋の方へ
向かって駆けだした。

勝利を捕まえる為に
俺を後ろから羽交い締めにしている
菊池の腕を力任せに振りきり
何とか先に物置部屋へたどり着こうとしたが

さすがは元陸上部のエース。
長距離走が専門だと言っていたが
ダッシュの速さは並ではない。

あっという間に
物置部屋の中へ飛び込まれ
俺の目の前で
ドアを閉められ
『ガチャ』
鍵まで掛けられてしまった。

「勝利っっ!!」
ドアの前で名前を呼ぶが返事はない。
力任せにドアを開けようとして
必要以上にドアノブを回し
前後に揺するが
全くビクともしない。

段々と苛立ってきた。

このまま蹴破ってやろうと思い
ドアの前から少し距離を取った
その時、後ろから

「中島!!少しは冷静になれよ!!
 そんなにドアをガタガタいわせて。
 勝利・・・中で怖がってんぞ!!」

菊池の声で
ハッと我に返る。

分かってる。
自分でも分かってる。
ダメなんだ。
勝利の事となるとダメなんだ。
冷静な自分でいられない。

「こんちくしょう・・。」
自分で自分につぶやく。

大きくひとつ息をすってはいた。
そして
その場に座り込む。

「しょーり?」 
怖がらせてごめん。
責める気持ちなんて
これっぽっちもないんだよ。

お前の事が
好きすぎて、好きで、好きだから
回りが見えなくなってしまう。

「しょーり?」
壊れ物を扱うように
もう一度、静かに名前を呼んだ。






「・・・ったく。
  世話かけさせやがって。
  どっちが年上だよ?全くもって。」

中島を押さえつけていた腕を
アイツに内側から無理やりに外されたせいで
腕の筋肉が痛い。

『全く馬鹿力、出しやがって。』
アイツの勝利への思いの強さを
身をもって知る。

そう思えば
この痛みだって悪いもんじゃない。

まぁいい。
勝利は中島に任せて・・・・と。


問題は 
こっちだよな?
勝利に膝だけで投げ飛ばされて
今もって放心状態のコイツ。

腕をさすりながら近づく。
「おいっ。」
返事なし。

「おいっっ!」
・・・『ぷちっ』!!

「おい!!呼んでんだろうが!返事しろや!」

「なっっ、なんですか?風磨くん?」
その顔を見て
一気に全身から力が抜ける。
「おっ、お前やっぱり最強だわ・・岸・・。」



そこには
俺に屈託のない顔を向ける岸がいた。