さて、緊張についての後編、得体の知れない緊張についてお話ししましょう。


皆さんはこんな経験ありませんか?


本番中、いざ難しいフレーズに差し掛かった時突如、今までどうやって吹いていたか?一瞬頭の中が真っ白になってしまい、手探りでなんとか音を出すも緊張による体の硬直も相まって思うように演奏できなかった。


想像するだけでもゾッとしますよね。


これこそが得体の知れない緊張です。



練習ではなんとか、もしくはなんて事なく吹けていたのに、本番で吹き方を忘れてしまったかのような感覚。

これは、


再現性が低い、あるいは無い


状態にあると言えます。


この再現性とはプロアマ学生問わず、実演者にとってはとても重要な能力になってくると思います。


つまり練習であっても本番であっても、いつでも何度でも同じように再現できる能力です。

上手くいったものを再現するだけでなく、極端な話、失敗したことを同じように繰り返し再現できることも含まれます。


ややこしいですね😅


これは一体全体どういうことなのでしょうか?



結論から申し上げると、


自分がどう言う奏法や技術を用いて演奏しているかを理解し説明でき、さらにそれを実行できる。


と言うことになります。



練習をする上で多くの人は、上手くいかない部分や自分の不得意なところにクローズアップしがちですが、上手くいったときに何故上手くいったのか?を顧みることも実は重要です。

そしてそのNGとOKの差異を明確に理解し、両方とも吹き分けられるぐらいまで線引きができるようになれば、再現性はかなり高いレベルに達していると言えます。


調子の悪い時にでも、何故今こんな状態に陥っているのか?ここからどういう道筋で進んで行くべきなのか?これが分かっていれば必ず良い方向に戻って行きます。


ですが、100%自分に起きていることを認識、理解することは容易ではありません。また、理解していてもそれを完璧に実行できるかはまた別の話です。もっと細かい事を言うと今日できたことが明日同じ状態でできるとは限りません。自分の調子だけでなく、外的要因も日々時々刻々と変化しているのですから。




ひとつの音を奏でる時、どれぐらいの要素があるか考えたことはありますか?

フィジカル、メンタル、実に複雑な要素が関係しています。

ざっと挙げてみると、


【フィジカル】

・姿勢

・呼吸

・アンブシュア

・全身の筋肉

・感覚

・体調

・先天的身体的特性

        他


【メンタル】

・イメージ

・経験

・知識

・感受性

・思想、信条

・性格

・集中力

・その時点での喜怒哀楽

        他


まだまだあると思いますが、たった一音を吹くだけでもこんなにたくさんの事が関係しているのです。

これを全て意識してコントロールすることは実際はほぼ不可能に近いと思います。

前編でもお話ししましたが、人間の脳はマルチタスクが苦手なのです。


ではどうするか?


カギは「簡素化」そして「無意識化」です。


簡素化は文字通り、シンプルな要素に集約していったり、あるいは関連した要素をグルーピングしたりです。


例えば、一言に姿勢と言っても骨盤、背骨、頭蓋骨を一つずつ意識するよりも、最適な骨盤の角度を作ることでその上に繋がる背骨、頭蓋骨の位置が自ずと決まりグループ化されると情報量が少なくて済みます。


また、無意識化とは、正しい方法やベターな選択を常に心がけることで、それを習慣化し無意識で出力できる状態を目指そうみたいなことです(ほな寝ながらできるっちゅうことかいな?みたいな厳密な無意識下で、とかじゃありません)。



これらを究極に集約していくと、ホルンの演奏とは全て「バズィングとマウスピースの出会い」に辿り着くことに気付くでしょう。

(但し、設計上の欠陥が少なくよく調整を施された楽器であることが前提で、尚且つ独立したバズではなく、マッピと楽器の抵抗を利用した発音であること。※この件についてはいずれ記事にします)

このバズ × マッピで起こっていることが楽器を通して増幅され、ベルから空間に解き放たれ、何らかの反響を伴い、聴衆の耳へ届きその心を揺さぶる。音楽とは極めてシンプルな芸術なのです。

そしてこのインターフェースで何を起こすか?このためにソフトである体をどう使うか?ただこれだけです。ただこれだけを成し遂げるために注意深くじっくりとモニタリングしながらら練習する必要があるのです。




少し話を戻しましょう。

こういった注意深く集中度の高い練習を積み上げていくと、自分の演奏とは如何なるものか?ということが次第に鮮明に分かってきます。たまには録音や録画をして客観的に分析するのもよいですが、大切なことはアウトプットの際、どのような選択をするか?ということです。可能な限り同じ音は同じように吹ける、ということが本番においては強力な味方になってくれます。

また、これだけ押さえておけば何とかなる、みたいなことがあるだけでもだいぶ気持ちが楽になると思います。


その真逆、冒頭に述べたような頭真っ白、今までどうやって吹いていたか分からなくなってしまうような状態とは、初心者が舞台に立って「ではコンチェルトを演奏していただきましょう!」と言われているのと大差ありません。


緊張したとしても、楽器はこうやって構えて、特に重要なマウスピースと唇の関係性はこうで、どういう呼吸で、、etc.  これを自ら能動的に実行できれば、その時点での能力は100%に近く発揮できるはずです。

うまくいかなければ何かが微妙にズレているのです。



もちろん、どんな世界的なプレイヤーであってもミスは起こります。

大切なことはミスしないように吹くのではなく、イメージする音楽を奏でるために、演奏の具体策を実行することです。



言うは易しですが、心構えとして持っているだけで、必ず前進していけると思います。





以上2回に渡って演奏家にとって最大と言ってもよいテーマ、


「緊張」


についてお届けしました。


いかがでしたか?

どんなに著名な演奏家でも難しいシビアな本番で緊張しない人はいないと思います。


スーパープレイヤーが緊張していないように見えるのは、演奏のコントロール度が高いからです。


中には具体的な理屈など必要なく、もしくは本当に理解せず、いわゆる天才的にそれを成し遂げる人もいるでしょう。


しかしそういった人間はごく一握りです。また、そのようなプレイヤーは加齢や身体的精神的環境的変化がきっかけでバランスが崩れ、今までできていたことが突然できなくなったり、あるいは完全に潰れた状態になることは意外と多いです。


自分を知ることは、長く続けていく上でとても重要なことです。


どうか皆さまの音楽ライフが長く健康的でありますよう、お祈り申し上げます。