パーヴォによるマーラー録音といえば、フランクフルト放送交響楽団との映像による交響曲全集やNHK交響楽団との会員限定で頒布されたライヴCDが存在している。今回のチクルスの進行は、「前回に描いた肖像に若き日と後期の作品で肉付けし、拡大していく」というのがこのプロジェクトの意図であるとパーヴォは述べている。
・マーラー:交響曲第1番「巨人」
録音:2025年1月
パーヴォによる個性的とまではいかないが、各楽器が奏でる演奏は非常に濃厚で分厚く、一音一音明確に演奏が行われている。それを細部まで細かく演奏で行うことによってこれまでに聴いてきたどの「巨人」とも違う演奏を聴くことができるようになっているのは間違いないだろう。
第1楽章ではテンポの緩急からなるダイナミクス変化も場面によって非常に深みを持って演奏されており、聴いているだけで面白い演奏であることをすぐに理解できる。特に終盤もそうだが、溜めてから放たれる瞬間のエネルギーが金管楽器は余すことなく存在感を発揮しているのがよくわかる。第2楽章では冒頭N響ライヴでも聴くことができたようなテンポの加速を聴くことができる。それによるユーモアなアプローチが第2楽章では溢れており、生き生きとしたホルンの音色や中間部における木管楽器の存在感も抜群によく、牧歌的な自然を味わえる。
第3楽章はさらに豊かで伸びやかな世界観が展開される。ダイナミック・レンジの幅広さがあり、テンポも揺れ、やや重めに展開されていることもあってスケール感も美しい。これまでに聴いてきたどの演奏よりも演奏時間は長く感じた。それによるヒーリング的な効果は素晴らしく、ここでは細部まで細かく演奏されていることによるアンサンブルが非常に効果的に描かれていた。第4楽章になると音の重さはより一層増すこととなる。冒頭のシンバル、強烈な金管楽器による咆哮、泣き叫ぶような弦楽器の演奏は圧巻だ。それ以降もテンポの緩急からなる「急→緩」や「緩→急」が駆使されながら演奏が展開されているため、金管楽器を中心として大迫力な演奏を聴くことができるようになっている。やはり終盤におけるホルンとトランペットのサウンドは非常に素晴らしい。これは誰しもが度肝を抜かされるに違いない。
今後も両者によるマーラー・チクルスは続いていくと思われるが、次にどの交響曲録音が発売されるかはまだわからない。次に発売される情報を待ちつつ、前回取り上げた交響曲第5番と今回の第1番をまた聴き直していきたいと思う。個人的には交響曲第6番「悲劇的」がいつ登場するのか。待ち遠しい限りである。


