「昼の暑い日に外に出たときには一杯のベルギー・ビールを飲むべきだというのが僕の持論なんだ。あるいはこれは僕の個人的な感情かもしれないけれど。」

彼はそう言って、アントワープ・ファクトリーで買ったきたという2つのグラスの―あるいは1つの、と言えるかもしれない―ひとつを持ち上げ言った。グラスのなかにはチェリーで作られた赤い果実酒が入っていた。クリーク、といっただろうか。


「ねえ、でもほんとうにそんな単純なことなのかな」

彼もまたグラスを取り、首を横に振った。

「もしかしたらそれはもっと、ラフロイグガスクのロックのように、複雑で込み入ったものかもしれないよ」

彼はひどく落ち込んでいた。もしかしたらビールを飲みすぎたのかもしれない。
「飲み物を、水に替えたほうがいい。なんだかひどく酔っ払っちまったみたいだ」僕は言った。
僕が彼のほうを見ると、彼は黙ってうなずき、水の入った大きなグラスを二つ置いた。

「ほんとうにそりゃ悲惨なもんさ。ベルギー・ビールなんてのは」
彼は、額をバー・カウンターにつけたまま、そうつぶやいた。
「赤いのと青いのとを交互に見たら、どちらも飲めなくなっちまう。結局いつもの黒いベルギー・ビールになってしまうんだ。わかるだろう」
僕はうなずき、煙草に火をつけた。何も言わないほうがいい。そんなときもある。
「君はそんな経験があるかい?」ない。僕は黙ったまま、首を横に振る。
「そりゃ賢明だよ。いくら金があったって、していいことと悪いことはある。そうだろ?」
僕らはこんなやりとりをしながら、ひと夏の間ずっとビールを飲み続けた。

バーの代金は、ぜんぶ彼がはらった。僕が出そうとすると、彼は決まって言った。
「ぜんぶ飲んでなしにしちまいたいんだよ。からからにしちまって、ぜんぶ出しちまいたいんだ」
そう、そんな人生もあるのだ。好むと好まないとにかかわらず。

ピース。僕は言った。彼はまるで、サウス・アメリカで見つけられた新種の言語のようにあいまいに笑った。