皆が受験一色になる高校三年生
新田改めマッケン(いつの間にかこう呼ぶようになっていた)は、この春から芸能活動を本格化させ
あまり授業には出席出来なくなっていた。

この学校は校則は厳しいものの、生徒の学外活動には寛容で
マッケンにも平日の夜にまとめて補講を受けたり、課題を提出することで卒業に必要な単位を取得できる対策が講じられた。



「ねえせんせー」
「ん?」
「俺、学校中退しようかな」
「・・え?」

放課後、補講の個人授業をしている時
問題を解いてるマッケンが何気ない口調で言った。

「・・だってこうして補講も受けてるし、課題も提出してるだろ?
このままいけばちゃんと卒業できるのに」
「俺、アメリカ行きたいんだよね」
「アメリカ?」
「語学とか、アクションとか・・、今のうちに色々勉強したいんだ。
正直、高校(ここ)にはいま俺が学びたいものはないし」
「・・・」
「ならきっぱり辞めて、渡米してこの時間をレッスンやトレーニングに当てた方がいいのかなって」
「マッケン・・」
「先生に会えなくなんのは寂しいけどね」
「・・学校を卒業してからじゃダメなの?」
「んー・・。
やる事も、やりたい事もあり過ぎて、早く何かやんないとって焦ってんのかも。
俺、人よりずば抜けたものとかないから」
「そんなの普通、誰だってないだろ」
「それがあるのが普通なんだよね、芸能界ってところは」
「・・・」

ああいう世界で成功するのはとても難しいってことくらいはわかっていたけれど
これほどに恵まれた容姿を持つ彼でも、そうやって悩むくらい大変な所なんだと改めて思い知らされる。

「・・でも、俺は。おまえに卒業して欲しいよ」
「・・何で?」
「今を必死なお前にはわからないだろうけど・・
高校生活ってあっという間の時間なんだよ。
その時は永遠に続くように感じてる毎日が、長い人生では本当にあっという間なんだ。
今、おまえにとっては単調で意味のない日々かも知れないけど、あとで振り返るときっとかけがえのない時間だったと思える日が来ると思うんだ。
俺は教師だから、そう信じたい。
仕事にはその後一生向き合っていけるけど、学生生活は今じゃなきゃ過ごせない。2度目はないんだよ。だから貴重なんだ」
「・・・」
「俺も昔、どうしても辛くて学校を辞めようと思ったことがある。実際もう半分辞めてるような状況だった。
だけどそれでも、転校してでも卒業したからこそ今があるんだ。
こうして教師になって、おまえにも出会えた」
「・・先生」
「苦しいことも辛いことも、その焦る気持ちも
きっと無駄じゃないよ。
だからどうしても無理、ってとこまで頑張ってみれないかな?」

気づいたら彼の両腕を掴んでいた。
どうしても、どうしても伝えたかった。
高校生として学校に通う意味を。
悩みながら進む今が、この先へと続くんだということを。

「・・何で」
「え?」
「何でそんなに、俺のこと考えてくれんの?」
「・・?」
「先生、俺のこと好きなの?」
「・・は?」

だからつい必死になって
彼との距離が近くなり過ぎたのかもしれない。

「・・って思われちゃうよ?俺に。そんなふうに一生懸命だと」
「はあ!?」
「あははははっ。その顔!」
「ちょ、マッケン!// 」
「・・ねえ。『サクライ』のこと教えて?」
「!?」
「先生、そいつのこと好きだったの?」
「・・、っ」
「教えてくれたら俺、卒業まで頑張る」
「まっ、」
「怒んないでよ。これ、冗談じゃないよ?」
「・・・」

マッケンの視線があんまり真っ直ぐで
目を逸らせない。

「・・好きだった?」
「・・・。好き・・、だったよ」

だから、認めてしまった。
誰にも言ってはいけない気持ちを。

「生徒なのに?」
「・・生徒なのに」
「先生、生徒のこと好きになったの?」
「・・・」
「・・先生」
「・・・」
「泣かないで、先生・・
・・ごめん」

泣いてなんかない。
そう答えようとするのに
何か言うと嗚咽になりそうで何も言えない。

不意打ちで瞬時に甦る、櫻井への想い
みるみる目の前のマッケンの顔が滲んでいく。

ガタン!

黙って席を立とうとして
「待ってよ」
マッケンに腕を引かれ、抱きしめられた。

「・・離せ」
「先生待ってよ」
「離して。
・・おまえにこんなこと、話しちゃいけなかった」
「何で?」
「おまえも生徒なのに、」
「何で?生徒を好きになっちゃいけないの?」
「ダメに決まってんだろ、離せ」
「じゃあどうして」
「何があったって、教師が生徒を好きだなんて絶対に許されない、」
「じゃあ『サクライ』は?」
「・・っ」
「・・サクライは生徒なのに好きになったんでしょ?」
「・・・」
「答えて?先生とサクライは」
「そうだよ!・・だから離れたんだ。
そんなこと許されないのに・・」

マッケンの腕の中で
自分の声がすでに泣いてるそれだと気付いていた

「・・それが先生の闇?」
「・・・」
「だから俺のことも見てくんないの?」
「・・マッケン」
「先生の闇は深そうだね・・」
「闇とか言うな。・・もう離して」

マッケンの腕が緩んだところでドンと身体を押し離す。

「俺の話はおまえのこととは関係ない。
退学のことは、またちゃんと話そう」
「先生」
「・・なに」

ぐしぐし涙を拭う今の俺に、教師の威厳なんてカケラもない。

「わかったよ。俺、卒業出来る方向で考えてみる」
「・・マッケン・・?」
「それでもし、ちゃんと卒業出来たらさ?
その時は俺のことちゃんと見てくれる?」
「・・・」
「・・なんてね。ま、無理か」
「・・・」
「とにかく。俺の卒業式まではここにいてよ、先生」
「・・・」
「俺、頑張るから」



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