■『ベイビー・ブローカー』が多くの韓国人に「意味不明」になる理由!>_<) | 韓国・ソウルの中心で愛を叫ぶ!

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ポッドキャスト韓国語マガジン“サランヘヨ・ハングンマル”の編集長が、韓国と韓国文化の見つめ方を伝授します。

「もう、私たちと共に幸せになろう」

 

 

●世界に誇るべき韓国での意外な反応?

 

これも公開からはけっこう経っている映画ですが、前回の『犯罪都市2』と同じ頃に劇場公開されていた、日本が誇る是枝裕和監督による韓国映画『ベイビー・ブローカー(브로커)』ですね!ヾ(≧∇≦)〃♪

 

ご存知、第75回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品されるとともに、ソン・ガンホさんが韓国人俳優として初の最優秀男優賞を受賞した超話題作でしたが、韓国でも126万人を動員して大ヒットはしつつ、評点のほうがそれほど高くなかったことが引っかかっていました。今もネイバーの映画評ページでは、観覧客点数が6.69点、ネットユーザー点数は5.53点ですからね。もちろんひどいというほどではなくても、世界での評価の高さに比べると疑問が生じますよね。それで少しだけ個人的私見で考察してみようかと思います。

 

まず、是枝作品の韓国人から理解されがたい点というお話については、2014年の『そして父になる』の時に一度ここでご紹介したことがあります。これは韓国の映画紹介番組での紹介のされ方なので明らかだと思いますが、まさに当時の韓国の人々にとってはカルチャーショックであり、「未知との遭遇」以外の何ものでもなかった、という話ですよね。(→※「韓国人の『そして父になる』との出会いにみる異文化理解!」

 

今回の『ベイビー・ブローカー』に関する低評価の理由も、基本的にはまったく同じであると思います。まずは実際にどんな反応なのかということで、ネイバー映画の1行評をご紹介します。これはレビューというよりもいいたいことを書くものなので、言葉が過激で雑なのですが、だいたいの雰囲気は分かるでしょうね。「いいね!」がついた数で並んでいて、たくさんの人がその言葉に共感したという順になります。

 

「本当にカンヌで12分の起立拍手は集団催眠にでもかかったのか?」、「俳優たちがもったいない映画。監督が何を意図したのか一つも分からなかった。中間で居眠りしかけた」、「カンヌ映画祭にどうやって行けたんだ」、「親近感ある俳優たちでなければこのように没入して観る映画でもなく、ドラマの内容構成も雑過ぎる。私1人で生きるのが流行の韓国で、家族の崩壊がどれほど響くか知れないが、唐突に捨てられた子供を『私たちが救おう』って?それで何をいいたかったのかが本当に分からない」、「蓋然性、現実性すべてなく本当に退屈だった」…

 

もちろん言葉は雑で深い考察ではなく、実際よい評価のもとに書かれている長いレビューページもあるのですが、とりあえずかなり率直な言葉であり、まあ、本当にそう感じたんだろうなあと思う評ですよね。「ただのネトウヨの悪口じゃないのか」と思う人もいるかもしれませんが、それは違うだろうと思います。なぜなら、この作品は監督以外、あまりにも韓国を代表する韓国映画そのものであり、韓国代表俳優、韓国の各地を美しく切り取った撮影舞台、スタッフも『パラサイト』のホン・ギョンピョ撮影監督に、音楽も『パラサイト』で実力が認められた気鋭の音楽家チョン・ジェイル氏という韓国の精鋭スタッフなので、ふつうに考えればこれが世界で評価されたとなれば、とりあえずもろ手を挙げて喜ぶはずだからです。ましてや世界の是枝監督ですしね。

 

すなわち、「監督の意図が分からなかった」、「何をいいたいか分からない」、「退屈だった」というこれらの反応は、やはりこの映画のストーリー&テーマが、本当にけっこう多くの韓国人には理解しがたいものだったということになります。そしてそれは純粋に日韓の文化の違いによるものです。さらに今回はそれが、韓国人だけによって韓国を舞台に演じられたために、日本人が日本で演じる分にはまだ「異文化」として受け入れられたはずのものが、受け入れられないくらいの違和感になったということですよね。

 

 

●実の母がいるのに「人間愛」はあり得ない

 

結論的に私が考える、この映画が韓国人に理解しがたく、感情移入がしにくい理由は、まさにそれこそが是枝映画の一番のウリではあるのですが、あまりにもヒューマニズム的であり、人間愛的であるということです。実に是枝映画に共通するテーマとして、実際には最も暗く悲惨な現実の現場を舞台にしながら、しかしそこで、寂しい人間同士が擬似家族をつくり出すなどの、普遍的な「人間愛」の温かさをテーマとしているわけです。「ベイビー」が中心となった今回の場合は、それは特に「普遍的母性愛としての人間愛」だということになるでしょう。

 

しかし、それを韓国でやろうとした場合には、そもそも母性愛は本来、イ・ジウン(IU)さん演じる赤ん坊の実の母親ソヨンだけが持つべきものなのです。韓国の映画なら間違いなくそれで充分であって、それがあまりにも絶対的なので、それ以上のものなどあり得ません。韓国では「人間愛」が実の母の愛以上に扱われることはないといっていいです。ところがこの映画では、彼女の「母性愛」が事情があって機能していないようだ、という状況の中で、ソン・ガンホさん演じるベイビー・ブローカーのサンヒョン、カン・ドンウォンさん演じる相棒のドンス、最後に子供を「買おう」とする若い夫婦、彼らを追うペ・ドゥナさん演じる女刑事スジンに至るまで、みんながそれを分け持つことによって、それが結びつける「擬似母親」集団としての擬似家族が生まれるわけです。これはさすがに韓国では異質すぎる状況です。

 

※ここから先は若干のネタばれも含みますので、まだご覧になっていない方でそれを願わない方は読まれないでください。

 

さらには最終的に、その「母性愛」のために、サンヒョンはすべてを捨てざるを得ない罪を犯し、ドンスは逮捕され、スジンも刑事の職分を超えて人生を投入するということになります。その中で、母親のソヨンの心も、擬似家族的「仲間意識」に支えられて「人間愛」の方向に変化を遂げます。さらに若い養父母まで含めて、「子供の未来に対して皆一緒に相談しよう」という形になるのがラストです。なぜ、その子供1人のために、これだけのたくさんの人が「人間愛」的な大きな犠牲を払うようになるのか?実の母がいないならまだしも、現実に存在しているのに?これは韓国的には本当によく理解できないことだろうと思います。韓国文化では家族のつながりではない「仲間意識」にはそこまでの力はなく、それより何より、血を分けてお腹を痛めて生んだ母親がしっかりと存在しているがゆえに、なぜ他人がそれを仲良く肩代わりしているのかが謎そのものでしょう。

 

そもそもソヨンが子供を愛して生んだにもかかわらず、その後に捨てようとした理由は、「犯罪者の子供として生きていかせたくなかったから」というものでした。それゆえに母であることを放棄したことになりますが、韓国では「犯罪者の子供になること」は、決して母子の関係を失うことほどの理由にはとうていなり得ません。社会的な罪を負うこと自体は、母と子の愛情を左右する障害にはなり得ないため、もし子供にそれだけの愛情があるというならば、それがゆえに孤児にしてしまうほうがよっぽどかわいそうなわけです。

 

最後に、この作品の一番の情緒的クライマックスは、子供の母であるソヨンが、その場にいる傷を抱えた登場人物全員の擬似母役となって、一人ひとりに「○○、生まれてくれてありがとう」といっていくというシーンでした。その言葉は、誕生日の親への感謝の言葉の定番が「生んでくれてありがとう!」である韓国においては、実に韓国的な言葉でもあるでしょうが、しかし、それは同時に韓国では、決して他人からいわれて満たされるという言葉などではないだろうなあと感じていました。

 

ということで、その言葉を実の母からいってもらえなかった人たちが、それを埋め合わせる共通の擬似体験をしたことで結びついた「擬似母性」集団が、共通の感動としての母性愛で一つになってその対象の子供のために犠牲的人生を選択して行く、という映画の結論は、まさに是枝作品が描き得る最高のヒューマニズム的感動であることは間違いありません。でもそれを韓国を舞台に、韓国俳優を使って描き出した時には、多くの韓国の観客たちが心情的にとうてい腑に落ちないということにもなるだろうと、長く韓国に住んでいる私にとっては、前述の1行評を見て、「ああ、やっぱりそうだよなあ」という結果だったということになります。もちろん、私個人としてはとってもよかったです!♪ヽ(´▽`)/

 

 

【あらすじ】 ランドリーを経営するも、常に借金に苦しんでいるサンヒョン(ソン・ガンホ)とベイビー・ボックス(匿名で赤ちゃんを預けるシステム)施設で働く養護施設出身のドンス(カン・ドンウォン)。激しい雨が降るある夜、彼らはベイビー・ボックスに置かれた赤ちゃんをこっそりと連れ出す。しかし翌日、母親ソヨン(イ・ジウン)が赤ちゃんウソンを探しに来る。子供がいなくなったことを知ったソヨンが警察に通報しようとすると、正直に連れ出したことを打ち明ける2人。ウソンを育てる養父母を探すためだったと弁明するのが精いっぱいだが、ウソンの新たな父母を探す旅に共に同行することになる。いっぽう、このすべての過程を見ていたスジン刑事(ぺ・ドゥナ)と後輩のイ刑事(イ・ジュヨン)は、半年間の捜査の決定的証拠をつかむために、秘密裏に彼らの後を追っていく…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


是枝裕和監督の『ベイビー・ブローカー(브로커)』予告編。

 

 

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