■「愛情があるのに気味悪い」という不吉な恐怖がリアルで圧巻！≧∇≦)〃♪

「消えた妹が帰ってきて疑いが始まった」

●吸い込む空気が変わったような家族の変化の恐怖

これも先月観た映画ですが、いつも人気バラエティ『ランニングマン』で気軽に見ているソン・ジヒョさんが、こんな、存在するだけで恐怖を感じさせるスリラー俳優であったということを初めて発見したミステリースリラー『侵入者（침입자）』（ソン・ウォンピョン監督）ですね。演出の力なのでしょうが、すごかったです！ヾ(≧∇≦)〃♪

お話は、キム・ムヨルさん演じる主人公の建築家ソジンが事故で妻を失い、精神科の治療を受けるほどダメージの中にいる中で、ある日突然、子供の頃に遊園地ではぐれて以来、行方不明になっていた妹（ソン・ジヒョさん扮）が現れて、父母と涙の再会を果たしては一緒に暮らし始める、というものです。

行方不明になっていた妹の帰宅、娘を見つけた父母の喜びの涙と笑顔、叔母とすぐに仲良くなる自らの娘――表面的には、まさに絵に描いたような幸福なる家族の再会なのですが、しかし、そのすべての裏側に感じられる違和感と嫌悪感から来る恐怖が圧巻でした。私はソン・ジヒョさんの声がこんなに気味悪いものであると知らなかったのですが、彼女が最初に話す声を聞いただけで、「この女性は何かヤバイ、この人が本当に妹であってはいけない」という思いになってしまった、すごい波動でした。

間違いなく異常で気色悪いのですが、しかし同時に、彼女が親や兄、兄の子である姪に向ける言葉や表情自体には、やっぱり肉親に対する愛情と気配りが感じられるわけです。愛情が感じられるのに、他人よりも何かヤバイ感じ、しかも離れることができない血がつながった家族、これがものすごいスリラーのお膳立てだったといえます。

まさに、日常の鼻から吸い込む空気の質が変わってしまったような、我が家が我が家でなくなり、家族が家族でなくなったような、「こんなリアルな怖さは初めてだ、この映画はヤバイ」と思いました。女性監督ですが、ある意味、他人と家族になるということの不安と恐怖を、男性以上に知っている女性ならではのスリラーなのかもしれないとも思いました。この時点で「これは劇場で観てよかった」と感じましたね。

●あまりにも分かりやすい謎解きがかえって残念に

ただし、冒頭から中盤に至るこの緊張感は、残念ながらそれ以降には崩れていってしまい、現実的な犯罪要素が明らかになり、終盤でさらにその「理由」自体が明らかになると、もはや、とたんに既視感のある作品になってしまったことは残念です。最後まで同じ緊張が貫ければよかったのですが、終盤はまた別の種類の恐怖話にテーマが変わってしまうので、まあ、そのテーマも怖いし、それ自体はいいのですが、でも前半部で期待したそのものではなかったことが、やっぱり残念でしたよね。(>_<)

すなわち、前半は明らかな日常に潜む狂気と違和感の恐怖であり、優秀な心理スリラーだったのですが、後半はまた別ジャンルのスリラーとなります。そのジャンルも嫌いではないのですが、でもより分かりやすい別のテーマ。しかし、その話になることで、実は冒頭から中盤までの違和感の理由、「愛情があるのに気味悪い」という不思議な状況の理由が、全部説明できてしまうんですよね。「なるほどそういうことだったか」と。まあ、あまりにも説明がつき過ぎるからつまらないということであって、つじつまが全部合ったという、そのこと自体は立派なのだろうと思います。

ということで、何よりもソン・ジヒョさんの演技がすごいです。なんか、あんなに怖かったのに、最後は感情移入して不幸な彼女の境遇に同情している自分に驚いてしまいました。キム・ムヨルさんも、奥さんを失くし、残る家族まですべて失いそうになりながら、それでも命がけで家族を守ろうとした姿は感動だし、かわいそうでした。昨年の『悪人伝』で演じていた捜査1課の“狂犬”役もよかったのですが、今回もとても好演されていたと思います。本当に最低限の話をするなら、中盤までの恐怖、それだけでも充分に一見の価値があるのではないかと思いました。オススメです！♪ヽ(´▽｀)/

【あらすじ】少し前に事故で妻を失って、失意の底にいた建築家ソジン（キム・ムヨル）だが、ある日、25年前に失踪していた妹が見つかった、という連絡が来た。初めて会った自分に親しげに「お兄ちゃん」と呼ぶユジン（ソン・ジヒョ）を、どこかぎこちなく感じるソジン。しかし、父母とソジンの娘は、すぐに受け入れて幸せそうに一緒に暮らし始める。ところが、少しずつ家族におかしなことが起き始め、これを不思議に思ったソジンは、妹の秘密を追い、そのうちに自分の日常のすべてを揺るがす事件にユジンが関係していることを知るが…。