■家庭の月にちなんで皆が「老い」の現実を顧みた1本! | 韓国・ソウルの中心で愛を叫ぶ!

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ポッドキャスト韓国語マガジン“サランヘヨ・ハングンマル”の編集長が、韓国と韓国文化の見つめ方を伝授します。


「新しい始まりと幸せを夢見る彼らの真実なる告白」


今月5月は韓国は「家庭の月」であり、父母の日、夫婦の日、子供の日、先生の日などが目白押しですが、それにちなんで先々週末に妻と二人で観てきた映画です。現代韓国社会において人生の不幸な崖っぷちに立ってしまいながら、そこからしたたかに新しい出発を決心する3人の老人の姿を描いた作品『道(길)』(チョン・インボン監督)ですね。♪ヽ(´▽`)/


あくまでも、ふつうの人にふつうに起こり得る悲劇を描いていることが共感を呼びます。そして、私としてはやはり、北海道の我が母のことを終始考えてしまいながらとても胸が痛かったし、また深く反省もしました。さらに自分自身の老後についても考えました。


家に帰ってきてさらに感動したのは、韓国のネットユーザーのレビューでした。皆、「映画を観ながら自分の父母のことを考えた」と書いていて、評点がとても高く、やっぱり誰もが同じなんだなあと共感帯を実感したものです。これは映画自体よりもそのテーマに対する高い評点なのではないかと思いました。


ということでこれは、高校時代のある日の通学路、線路の上で一緒に写真に写った、女学生二人と男子学生一人が、その線路を歩いて向かっていった人生の行く末に、どのように分かれて、どのようになったかを描いた一種のオムニバス映画です。小品でもあり、この際、ストーリーを全部書こうと思いますので、ご覧になる予定の方は読まないでください。



●3人の寂しい「老い」の姿を率直に描く


3人のうちの最初の主人公スネは、韓国を代表するお母さん俳優であるキム・ヘジャさんが演じています。1993年の国民的人気ドラマ『オンマの海(엄마의 바다)』のオンマ役として私もよく覚えています。そのヘジャさん演じるオンマが、夫に先立たれ、子供は皆、海外に住んでいるという状況で、自分の誕生日に一人で「Happy Birth Day」と書いたホールケーキの一部を食べ、その後、家中の電化製品のアフターサービスの修理工を呼んでは、来てくれた若者に順番に食事を出してもてなすわけです。スネは「年老いると、自分が必要ない人間になるということが死ぬことよりももっと怖いことなんだよ」といいながら、また化粧をし、鏡の前で服を合わせ、新しい電化製品を故障させるためにドライバーを手に取ります。


2番目の主人公サンボムは、若い頃に愛情なく結婚した妻が蒸発し、娘を一人で育てますが、娘は母がないことで道を誤り、私生児を産んで、サンボムの娘として戸籍に上げたまま、父の元を去ってしまいます。孫娘を一人で育てる「祖孫家庭(조손가정)」となりながら、老後になってバリスタの資格を取り、パティシエの資格を取ったサンボムは、ベーカリーを営みながら、福祉サービスで職業指導をしてくれた若い女性に感謝と淡い愛情を抱きます。


その女性が最後の奉仕を終えて去った後、生きる意味を失ったように線路の上を歩き、学生の頃、初恋の相手であったスネを思い出しながら、心の声として「歳月が流れることが悲しいわけではないが、ときどき懐かしくなる」とつぶやくと、幻の中にその若き日のスネが現れて、サンボムを優しく励ましてくれます。


3番目の主人公スミは、やはり夫を亡くして一人暮らしなのですが、ある日、最愛の息子が訪ねてきます。理由は、自分が毎朝、息子に掛けていたはずの電話をたまたましなかったことで、母親思いの息子が心配して訪ねてきてしまったわけです。


息子は元気な母の姿を見て喜び、母の愛情を久しぶりに受けたくて、その日は泊まっていくというのですが、そのことが嫁を怒らせると知っているスミは、息子を思って無理にそのまま送り出します。そして夜中に、息子が事故で亡くなったことを知るわけです。


嫁は、「お義母さんのせいで夫が亡くなった」と大声で責め、スミは息子が一人ぼっちでかわいそうだと死を決心、薬局に通って睡眠薬を集め、写真館で遺影を撮影します。そして、自殺の名所である場所の近くの酒場で最後のマッコリを飲むのですが、そこでやはり人生に絶望して死のうとしている2人の若者に出会い、「私がお前たちのオンマとなり、命綱となれたらいいのに」といって、その2人の支えとなって共に生きていこうと決心します。


息子の「命綱」としての生きる意味を失ったスミが、もう一度それを取り戻すことで、生きていく道を選ぶことができたわけですが、「死ぬまで一緒に生きよう。そのほうがもっと自然なんだから」という最後のスミの言葉が胸に迫ります。



●「孝」の価値の普遍性を問いかける


「家庭の月」にちなんでとはいえ、とてもつらくなる映画ではありましたが、人間であれば一人残らずすべての人に平等に訪れる、「老い」というものがどういうものであるか、それを多少でも理解できて初めて、若い日を生きる資格も与えられるのだと感じました。


このような映画がつくられ、そして大きな評価を受けてもいる理由はまさに、このような状況が現実問題として、韓国社会のそこここで起こっているから、ということになるでしょう。


韓国は長い歴史の中で、最も大切な価値として「孝」の価値を守ってきました。それは日本がずっと古くから「忠」の国であったように、韓国は「孝」の国であったわけです。日本でも、いまだに社会への忠誠を大切にし、いまだに「忠臣蔵」がリメイクされるように、韓国でもいまだに、名節ごとに親に敬拝を捧げ、月々親にお小遣いを捧げる文化や、地域ごとに親孝行を実践する市民を探し出して表彰する文化が残っています。


しかしそれが急激に失われていっているという危機感の中で、本来のその普遍性を問いかけてくれた作品ではなかったと思います。(>_<)























映画『道(길)』(チョン・インボン監督)予告編。

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