Doppelgänger(ドッペゲンガー)は、逐語訳すると「二重の歩く者」となる。
ドイツ語: Doppel(ドッペル)とは、「写し、コピー」という意味である。
以上の意味から、
自分の姿を第三者が違うところで見る、または、自分が異なった自分自身を見る現象、
「生きている人間の霊的な生き写し」などを指すために用いられている。
ドッペルゲンガーの特徴として、

・ドッペルゲンガーの人物は周囲の人間と会話をしない。
・本人に関係のある場所に出現する。

等があげられる。

同じ人物が同時に複数の場所に姿を現す現象、という意味の用語では
バイロケーションと重なるところがあるが、
バイロケーションのほうは自分の意思でそれを行う能力、というニュアンスが強い。

つまり「ドッペルゲンガー」のほうは本人の意思とは無関係におきている、というニュアンスを含んでいる。
「自分のドッペルゲンガーを見ると、しばらくして死ぬ」
などと語られることもあり、恐れられていたものであり、現在でも恐れられることがある現象である。
超常現象事典などでは超常現象のひとつとして扱われる。
近年では医学的な説明の試みもあり、それで一応説明可能なものもあるが、説明不能なものもある。

2013/11/30

この日、私は、AKB48 チームAの伊豆田莉奈の生誕祭に当選したので
秋葉原のドンキホーテ8階にあるAKB劇場にいた…

久しぶりの劇場…
久しぶりの空気…

この場所に来るのは5月の研究生公演以来だった…

チケットを購入し7階のゲーセンで煙草に火をつけ紫煙を荒々しく肺に送り込んで吐き出す…

AKBの劇場の席順は抽選入場だからこの時点では自分がどこの席なのか…
立ち見になるのか全く分からない…

早い段階で呼ばれればもちろん良い席で見れるが…
呼ばれるのが遅ければアウトだ…

せっかく来たのだから早い段階で呼ばれて良い席で座ってゆっくり見たい…

きっと誰もが思っている事だろうが…

もちろん私もそう心から願った…

煙草を思い切り灰皿に叩きつけ勢い良く8階にある劇場に向かった…

伊豆田莉奈の生誕祭だったので生誕委員の方からサイリウムを受け取り…
劇場のロビーの自分の番号の列に並ぶ…

生誕委員の方がメガホンを使いサイリウムの使用方法と使うタイミングを一生懸命説明しながらロビーにいる客達の空気を温める…

全ては伊豆田莉奈に喜んで欲しいという熱い“想い”を感じたが…
私にはどうでも良かった…

伊豆田莉奈の事を何も知らないから…
伊豆田莉奈と話した事もないし…
伊豆田莉奈が私に与えてくれた物なんて何もないのだから…

生誕委員の方の説明が終わり…
入場抽選が始まった…

思い切り睨みつけた…
抽選してるスタッフを睨みつけた…

1順…違う…
2順…違う…
3順…違う…
4順…違う…
5順…違う…
6順…違う…

もう…帰りたくなった…
凄まじい脱力感に襲われた…

ほぼ毎回こうだ…
劇場に来ると気持ち的に一番気合入っているのはこの抽選の時だ…
早い段階で呼ばれなかった時の気持ちの落ち具合は半端ない…

もはや何順で呼ばれたは分からなくなった時くらいに私の番号の列が呼ばれた…

劇場内に入り上手の前から4列目が空いていたので座った…

左隣にはくたびれたオジさんが座り…
右隣には地方からわざわざ出てきたと思われる若者が座った…

腕を組み目を瞑って公演が始まるのを待った…

田野優花のアナウンスが流れ会場内が盛り上がる…

私は微動だにせず目を瞑っていた…

会場内が暗転し流れ出すoverture…

同時に炸裂するヲタク達の咆哮…

「あ~ よっしゃいくぞー!!タイガー!!…」

現場に4年近く通って未だに分からない“MIX”というヲタク達が叫ぶ呪文にも似たコール…

左隣のくたびれたオジさんが目をキラキラさせてMIXという呪文を唱えてる…
右隣の地方から出てきた思わる若者もMIXという呪文を唱えている…
そして無言で瞑想状態で微動だにしない私…

幕が上がり…メンバー達が見えるようになると場内のボルテージは最高潮になる…

若者達はもちろんくたびれたオジさん達も目をキラキラさせて
自分が好きな女の子の名前を思い切り叫ぶ…
そして無言で微動だにせず一点だけを見つめる私…

ここに私みたいなヲタクになりきれなかった中途半端な人間の居場所なんて…
どこにもなかった…

ステージで歌い踊るアイドル達も…
私の様なただ格好だけ傾いて全く微動だにしない人間よりも…
盛り上がってくれる人間の方が遥かにモチベーションが上がるだろう…

ステージで歌い踊るアイドル達はキラキラしていて…
その笑顔が私には眩しすぎた…

この日の公演には前回のブログで書いた私が接触し地獄に叩き落とされ失禁までした
横山由依や菊池あやかもいた…

私と接触した時の彼女達はまるで人形の様で全く生気を感じなかったが…
ステージ上で歌い踊る彼女達は違った…

まるで人形の様だったガラス玉の瞳はキラキラしており…
まるで能面の様にクスリともしなかった顔には笑顔が溢れていた…

AKB48クラスのアイドルにとって全く知らない客との接触なんて…
きっとホントにどうでも良い仕事なんだろうな…
と痛感させられた…

私はそんな彼女達の弾ける笑顔と歌を聞きながら…
少し俯き…
少し笑って…
少しだけ剥いて強がってみせた…

左隣のくたびれたオジさんが兒玉遥が前に来るたびに私の方まで身を乗り出し…
私の視界はそのオジさんの薄い頭皮で埋めつくされるのが気になった…

左の地方から出てきたと思われる若者の横山由依への愛の咆哮が…
私の耳孔を再三刺激した…

上手の花道に来た渡辺麻友の…
全く目が笑っていない飛び切りのフルスマイルに背筋が凍りついた…

伊豆田莉奈が安部総理に見えた…

何もかもが恐かった…
アイドルもヲタクも何もかもが…

意気地のない自分を呪った…
包茎というコンプレックスを呪った…

強がって皮を剥いた所ですぐに被ってしまう…
誤魔化しきれない真実から俺は目を逸らした…

項垂れる様に俯き瞳を閉じた…

溢れる涙…
襲い掛かる劣等感…

胸が苦しい…
助けて…

小さく囁いた…

左隣の謎のオジさんがもう完全に俺の方まで身を乗り出してきて…
兒玉遥を一心不乱に見つめている…
オジさんの高まった酸っぱい体臭が俺の鼻腔を刺激する…

右隣の若者の横山由依への愛の咆哮が限界突破し…
もはや何を叫んでいるのかも分からないほど声が割れていた…

俺は震えが止まらなかった…

凄い世界だ…
こんな世界で何を見出そうとしていたのだろう…
こんな世界で何を手に入れようとしていたのだろう…

答のない疑問符が俺の頭の中を埋め尽くした…

左隣のオジさんがこれでもかというほど身を乗りだしてくるので
もはやステージなんて全く見えなかった…

目を開けばオジさんの薄い頭皮…
俺はこの薄い頭皮を見る為に3000円も払ったのか…

薄れていく意識の中で…
「1234!!」
という掛け声が聞こえてきた…

AKB48の名曲…BINGOのイントロ…

私がAKB48で始めて衝撃を受けた名曲…

心に染みた…
一気に視界が開けた…
感覚が研ぎ澄まされる…

身を乗りだす左隣のオジさんを強引に押し退け…
俺はステージをこの日、始めて何の邪念も無しに見つめた…

左隣のくたびれたオジさんのどうしようもない舌打ちも気にならなかった…
右隣の若者のどうしようもない愛の咆哮も気にならなかった…
ただBINGOという名曲に身を捧げた…

あっという間にBINGOが終わり…
また私は抜け殻の様になった…

きっとこの1曲の為に俺は今日ここにきたのだろう…

そう思う事にした…

公演が終わりお見送りのハイタッチの時間が訪れる…

公演が終わるとその日出演していたメンバーにハイタッチでお見送りして貰えるというイベントが毎回ある…

この日、出演していたメンバーに私を知ってくれているメンバーなんて一人もいない…

疾風の如くハイタッチを済ませて外に出よう…

そう心に誓った…

ハイタッチの列は50音順にメンバーが並んでいる…

一番初めにこの公演が生誕祭だった伊豆田莉奈がいた…

総理…おめでとうございます…

心の中で囁き深々と頭を下げハイタッチをした…

二番目にいたのは…岩田華怜という娘…

私は何も言わずに彼女の手に自分の手を重ね目が合った…

「おう!!久しぶりじゃん!!」

岩田華怜がおもむろに私に声をかけてきた…

久しぶり…だと?

いやいや私は岩田華怜と接触した事なんか一度もないぞ…

どういう事だ…

まさか…私の偽物…?

いや…Doppelgänger(ドッペゲンガー)か!?

しかも口調からしてかなり親しげだが、ここ最近は恐らく顔出してない様子だ…

私のDoppelgänger(ドッペゲンガー)が岩田華怜のレーンで傾いていたのか!?

私は少しだけ俯き口角を上げ残りのハイタッチを疾風の如く捌いた…

外へ出て少し歩きエクセルシオールの前にある喫煙所で煙草を1本取り出し口に咥えた…

穂先をライターで炙ると紫煙が蜷局の様に天に向かって立ち昇る…

私のDoppelgängerも接触会場に足を運んでいたのか…
私のDoppelgängerも包茎で劣等感の塊なのかな…

急に胸に何とも言えない感情が溢れ出す…
その何とも言いようのない感情を誤魔化すように
紫煙を思い切り肺奥に流し込みゆっくりと吐き出す…

「なぁ…俺のDoppelgänger…君は真のヲタクになれたのかい?
なぁ…俺のDoppelgänger…君は手に入れたかい?
俺がどんなに手を伸ばしても届かなかった“その領域”を…」

私の小さな問いかけは紫煙と共に夜風に流された…


完!!