窓の外を眺めると高速で移り変わる景色が見える…



都会の喧騒をまるで感じさせない景色に俺の廃れきった心が少し癒される…

2013/5/11

この日俺は、岩手産業文化センターで行われる
AKB48の全国握手会に行く為、朝から新幹線で岩手県に向かった…

俺の席の隣には、もちろん生ける伝説つん太郎さんがいる…

つん太郎さんの大好きな佐藤すみれさんがこの日の岩手の握手会に参加するという事で
彼は急遽、仕事を休みにし俺にも召集がかかった…

俺は、久しぶりに佐藤すみれさんに会えるという事よりも
つん太郎さんとこうして岩手まで旅が出来るという事の方が嬉しかった…

新幹線に乗るという事だけでテンションが上がる…


たいしてお腹も減ってないのに新幹線の中で食べようと思い
おにぎりやお菓子を買ってしまう…



金もないのに無駄使いも良いところだ…

もちろん最後まで食べきれず…

生ける伝説つん太郎さんに残飯処理してもらう…



汚い都会にいると滅多に見る事のない田園風景が広がっている…

外はあいにくの曇り空だがそれでもなんだか穏やかに気持ちになる…

隣の席からはつん太郎さんの鼻歌が聞こえてくる…

どうやら、愛しの佐藤すみれさんに会えるのが楽しみで仕方ないようだ…

約三時間半くらいに新幹線に揺られ、盛岡に到着した…



盛岡はまだ寒く、空気も澄んでいた…

盛岡駅からタクシーに乗り込み…
岩手産業文化センターに向かう…

岩手のタクシーの運転手は俺らにわんこそばや冷麺の事など…
岩手のおいしいおススメ料理の事をさんざん語ってきたが
今から俺達がしようとしている事はアイドルとの接触だからあまり関係なかった…



岩手産業文化センターに着く…

少し大きな体育館といった所だった…

入り口には全くと言っていい程、ヲタクはいない…

不安な気持ちを抱えながら会場の中に入ると
すでにLIVEが始まっていた…

それなりにヲタクはいたが
俺が今まで行ったAKBのどのイベントよりも客数は少なかった…

AKB48LIVEが終わると研究生が出てきて研究系のLIVEが行われた…

このLIVEが思ってたよりも長く
この娘達…一体誰なんだ…
と思いながら研究生が行うLIVEをひたすら眺めた…

研究生のLIVEが終わり、握手会の準備の時間になったので一度会場を出る…



謎の休憩所があったが終わってる感が半端ない…

これは…ホントに国民的アイドルのイベントなのか…
と疑いたくなる程の腐臭がした…

握手会が始まる…

つん太郎さんと俺は、並んで歩き始めた…

この日、お目当ての佐藤すみれさんがいるレーンには
佐藤すみれさんの他に菊池あやかさんと北原里英さんがおり
三人一組のレーンだった…

久しぶりの佐藤すみれさん…

何を話そうか…

彼女はいつもの様に笑顔で出迎えてくれるのか…

そして何より…このレーンには俺の心を何度もへし折ってくれたアイドル…
菊池あやかさんがいる…

俺の胸に不安ばかりが募る…

レーンに行くとまるで人がいない…

大丈夫なのか…

このレーンは…

うまくやれるのか…

俺は…うまく弾けられるのか…

レーンに入ると消毒液が置かれていた…

以前、バクステで里中いぶきさんと握手をしようとした時…

『汚いから、ちゃんと消毒して!!

と言われた事を思い出した俺は、入念に消毒液を手にふりかけ良くもみ込んだ…

深く深呼吸をした…

天井を見上げる…

ライトの灯りが眩しい…

大丈夫だ…

イケる…

何をそんなに恐れる必要があるんだ…

相手は例え俺より数倍稼いでる年下のアイドルだとしても…

そんなの関係ない…

女じゃないか…

俺は誰だ?

俺は…

俺こそが…

“三代目ヲタクプレイボーイ”だ!!

俺は思い切り眼を見開き突撃した…

この日の握手の順番は…
菊池あやかさん→佐藤すみれさん→北原里英さんだった…

前の人が握手をしてる時に佐藤すみれさんが俺に気付き…

驚いた顔してくれる…

ほら…思った通りだ…

「アイドルなんて楽勝なんだよ!」

俺は心の中で呟き口角を吊り上げた…

俺は、胸を張って彼女たちがいるブースに入った…

『ああああ!!ち〇ぽこお!!』

佐藤すみれさんが呼んでくれる…

俺は笑顔でまず最初の菊池あやかさんと握手し菊池あやかさんを見た…

完全に無表情で汚い物を見るような視線を無言で俺に浴びせてきた…

もちろん握力も全くなしの握手…

蘇る俺のトラウマ…

こっ恐ぇぇぇ…

菊池さんマジ恐ぇぇぇぇ…

俺のガラスのハートが崩れ落ちていく音が聞こえた…

足が震える…

笑顔が引きつる…

『この人、“ち〇ぽこ”って言うんだよぉぉぉ!!』

俺が瀕死の危機に陥っている事に全く気付かない佐藤すみれさんが
謎に桜井翔さん主演のドラマにも出演している北原さん程の女に
俺が“ち〇ぽこ”だと紹介し始める…

やめてくれ…

非常に…ありがたいが…

今は…やめてくれ…

事故る気がしてならない…

今は…俺をほっといてくれ…

『そんな卑猥な名前なんですか!?』

北原さん程の女からの問いかけにも俺は苦笑いでしか対応出来なかった…

もちろん剥がしが非常に速い為、まともな会話など出来ない…

それでも何か面白い事を一発返すのがヲタクプレイボーイだろ!?

つん太郎さん…教えてくれ…

こんな時は…どうしたら良い…

どうしたら…

自分で自分が嫌になる…

何が三代目ヲタクプレイボーイだ…

結局、菊池あやか一人にボロ負けじゃねぇか…

ちきしょう…

涙が溢れた…

涙が岩手産業文化センターの床に弾ける…

つん太郎さんが俺の肩を優しく叩き思い切り目を細めている…

かっ…かっこいい…

俺は我慢できずに声を出して泣いた…

『行くぞ!!パイナップル!まだ握手会は始まったばかりだ!
こっからは“フルスロットル”だぜ…!?』

つん太郎さんはウインクしながら俺に言ってきた…

なんてかっこいいんだ…

これが初代ヲタクプレイボーイの余裕なのか…

遠い…

つん太郎さんの背中は遠い…

手を伸ばせば届くこんなに近い距離にいるのに…
ヲタクとしては遥か彼方にいる…

つん太郎さんに導かれる様にあの悪夢の様なレーンに向かおうとするも
足取りが重い…

まるで鉛の靴を履いている様だ…

なんで岩手までアイドルと握手しに来てこんな思いしなきゃいけないんだ…

このままじゃ帰れない…

何か…

何でもいい…

何かしら爪痕を残さなければ…

そうだ…

つん太郎さんの言う通りだ!

まだ握手会は始まったばかりだ!

こっからだ…

こっから巻き返してやんよ!!

再度、レーンに突入する…

消毒液を手に振り掛ける…

爪痕を残す!

Leave scars…

Leave scars…

まるで呪文のように唱えながらブースに向かう…

Leave scars…

俺は小声で呟き、ブース内に足を踏み入れた…

菊池あやかさんの無言の冷たい視線が俺を射抜く…

見事に崩れ落ちるMY HEART

何も言えなくなる…

手足が震える…

佐藤すみれさんとうまく弾けられなくなる…

北原里英さんがしっかりと握手してくれて笑顔で「ありがとう」と言ってくれる…

くそおおおおおおおお…

またダメだった…

でもまだだ!!

まだ諦めない…

まだ握手券はある!!

俺は…

俺は…まだ…

何も残せてない!!

Leave scars…

再度レーンに突撃する…

見事に砕け散る…

Leave scars…

再度レーンに突撃する…

見事に砕け散る…

気付けば俺は…どうすれば菊池あやかさんと盛り上げれるかばかりを考えていた…

しかし何度アタックしようが…

交わることのない二人のメロディー…

消えてくれと心の中で叫んでも…

ブースに行けばまた同じ無表情の冷たい視線…

歪んでる旋律が俺の中でただ鳴り響いてるだけ…

嫌というほど掻き毟られた俺の精神は限界だった…

唯一の救いは何度行っても北原里英さんだけは…
毎回笑顔で「ありがとうございます」と言って手をしっかりと握ってくれた事だった…

なんて良い娘なんだ…

恐らくこのブース内にいる娘達の中で一番稼いでると思われるのに…
その事に慢心せず例え自分のファンではなくても来てくれたヲタクに
毎回しっかり対応する北原里英さんは素晴らしいとしか言いようがなかった…

俯き加減で歩いていると俺と同じ顔面蒼白の男がいた…

その男の顔を見ると俺の知っている顔だった…

「将軍!! 将軍じゃないすか!?」

そう…

その顔面蒼白の男はなんと…
“東北のヲタク獅子ウッチー将軍”だった…

『おぅ…パイナップルか…』

「将軍…まさか将軍も…」

『あぁ…完全に折れたぜ…俺のHEARTはよ…』

「ぱるるに何回も特攻かけてる将軍程のヲタクでもやっぱあのレーンはキツいんすね…」

『あぁ…もう…あんま行きたくねぇよ…』

「マジすか…俺もっすよ…」

『クックッ…おいおい…二人とも何、湿気た面してんだよ!?』

その時、余裕の表情のつん太郎さんがブラックコーヒーを片手に現れた…

『二人とも何縮こまってんだよ!?
いくらアイドルと言ってもたかが二十歳そこそこの女じゃねぇかよ!?
そんなんじゃいつまで経っても“本物”にはなれねぇぜ…!?』

『そうだけど…今日のあのレーンはマジ、キツいっすよ…』

ウッチー将軍がため息混じりにつん太郎さん言う…

『将軍…ならよ…この券1枚やっから他んとこ行ってリフレッシュして来い!
でもそんな逃げ腰じゃいつまで経ってもすーちゃんのHEART掴めないぜ…!?』

そう言うとつん太郎さんはウッチー将軍に自分の握手券を渡した…

『ありがとうございます!じゃあ…ちょっくら大島優子んとこ行ってきます!!』

『良いって事よ!じゃあな!将軍!楽しんで来いよ!!』

将軍は大島優子さんの所に走って行った…

『ヤニでも注入しに行くかよ…!?
なぁパイナップル…!?』

「あぁ…」

重い腰をあげ…

喫煙所に向かった…

喫煙所は外にあり…

少し雨が降っていた…

まるで俺の心模様の様だ…

煙草を口に咥え穂先にそっと火をつける…

ゆらゆら揺らめきながら岩手の曇り空と混ざる紫煙をただひたすら眺めた…

一体俺は何しにここまで来たんだ…

何度挑んでも見事なまでに返り討ちにあうだけ…

何度挑んでも菊池あやかさんの静寂の凶気に俺の心は潰される…

思い出すだけで押し潰されそうになる心を誤魔化す様に
紫煙を思い切り胸奥に流し込み吐き出す…

『なぁ…パイナップル…今日もすーちゃんは…
サイッコーに“Cute”だな…!?
いくらなんでもブリバリすぎんぜ…!?』

「あぁ…そうかも…しれねぇな…」

俺は生返事で返した…

はっきり言ってこの日の俺には佐藤すみれさんは全く見えていなかった…

まるで門番の様に佇む菊池あやかさんの静寂の凶気によって…
俺はもう何も見えなくなっていた…

Leave scars…

岩手の曇り空に向かって俺はそっと囁いた…

その後も数回、佐藤すみれさんがいるレーンにつん太郎さんと挑むも
結果は同じ…

何の爪痕も残せないままレーンから菊池あやかさんの静寂の凶気に弾け出されるのみ…

どうしようもなくなった俺は…

研究生レーンや渡辺麻友さん・田野優花さんレーン…
松井咲子さん・篠田麻里子さんレーンに行くも何にも癒されなかった…

何度もつく溜息…

項垂れながら無感情のロボットの様に会場を歩いていると…

Team Tトップヲナニストのごるたさんがいて話しかけてきた…

『どうすか!?調子は!?勃ってますか!?』

「ごるちゃん…もうダメだ…
あのレーンはとても勃起出来るレーンじゃねぇ…」

『マジすか…』

「何にも残してねぇんだ…何にも…」

『そりゃあ…キツイっすね…
何か爪痕を残さないと…
せめて勃起くらいはさせてもらわないと…』

「そうだよな…」

ごるたさんとそんな会話をしていると枚数制限解除のアナウンスが流れた…

僥倖…

まさに僥倖!!

枚数制限解除されれば持っている握手券で佐藤すみれさんとだけ握手が出来る…

助かった…

これは逃げだが…

もうこの際仕方ない!

岩手まで来てこんな気分のまま帰れるかよ!?

俺は顔を叩き、気合を入れごるたさんに別れを告ると枚数制限解除の列に
つん太郎さんと並び始めた…

俺の残りの握手券は3枚…

3枚の握手券を出しホッと肩をなで下ろす…

並びを見ているとどうやらほとんどの人が
北原里英さんか佐藤すみれさんと握手するようだ…

ちょっと待て…

そうなると…俺と佐藤すみれさんが握手している時に
菊池あやかさんに客がいなければ
すぐ横に菊池あやかさんがいる事になる…

それは不味い!!

非常に不味いぞ!

菊池あやかさんが監督みてぇな状況での佐藤すみれさんとの握手なんて
全然集中できねぇじゃねぇか!?

頼む!!

誰でも良い!!

俺と佐藤すみれさんが握手している間だけで良い!!

誰か菊池あやかさんと握手していてくれ!!

神様お願いします!

岩手まで来たのですから…

せめて…

せめて最後だけは佐藤すみれさんと弾けさせて下さい!!

俺の前にいたつん太郎さんがブースに吸い込まれていった…

今の所、菊池あやかさんを指名したヲタクはいない…

Leave scars…

Leave scars…

神様!!

どうか最後に私に爪痕を残すチャンスを下さい!!

Leave scars…

Leave scars!!

神様あああああああああああああああ!!

俺の番になる…

ブースに入り佐藤すみれさんの前に立つ…

係員がストップウォッチで時間を測り始める…

俺は目の前にいる佐藤すみれさんに笑みを浮かべる…

恐る恐る佐藤すみれさんの右隣にいる娘の方へ視線を向ける…

無表情の菊池あやかさんの冷たい視線がこちらを見ている…

もちろん誰も菊池あやかさんの所にヲタクはいない…

終わった…

完全に終わった…

頭がまっ白になる…

「ひさしぶりだねぇ~3か月ぶりくらいだね!」

俺は必死に笑顔を浮かべて佐藤すみれさんにこんなどうしようもない事を話しかける…

よくよく考えると3ヶ月ぶりなんて対して久しぶりでもなんでもない…

隣の菊池あやかさんが気になる…

『全然来なかったもんねぇ~!』

佐藤すみれさんは悪戯な笑みを浮かべながら言ってくる…

このままじゃ終われない…

このまま菊池あやかさんに怯えたままで終われるか!?

逝け!!

逝くしかない!!

ここまで来たんだから逝くしかないぞ!!

パイナップル憲三郎!!逝ってきます!!

三代目ヲタクプレイボーイとして爪痕を残すんだ!!

Leave scars!!

俺は心の中で思い切り叫び…話し始めた…

「でも来て良かった…こうして菊池さんとも逢えたし…」

『どうせ!!ち〇ぽこは顔は私じゃなくて
あやりんみたいなのが好きなんでしょ!?』

佐藤すみれさんが可愛く怒った演技をしながら言ってくる…

さすが佐藤すみれさん…

俺の事を良く分かってらっしゃる…

佐藤すみれさんも十二分に可愛いと思うが
完全に菊池あやかさんみたいな顔はタイプだ…

俺が顔だけで惚れたアイドルは…

菊池あやかさん、板野友美さん、ADなぎささんの三人だけだ…

「いやいやいや!!俺は二人とも好き!!二人とも好きだよ!!」

『ふ~ん』

佐藤すみれさんが怪しむ様な顔つきで俺を見てくる…

「俺はもう完全に二人が好きだからね!!」

剥がされる…

剥がされながら…

菊池あやかさんをチラッと見た…

菊池あやかさんがこっちを見て可愛く舌を出し
最高に可愛いおどけた顔をしてきた…

ドックン!!

うおおおおおおあああああああああああああ!!

胸壁を突き破る程に高鳴る鼓動…

包皮を突き破る程に怒張する亀頭…

俺の海綿体に一気に血液が流れ込んでくる…

勃起した…

思い切り勃起した…

『すーあやだよ!!』

佐藤すみれさんがそんな事を言っていたが
もはや俺の耳には入ってこない…

完全に菊池あやかさんの可愛いおどけた顔に見惚れてしまった…

あんなに無表情だったのに最後の最後で可愛いおどけ顔…

完全にヤラれた…

見事だ…

思い切り俺の心を鷲掴みにした…

爪痕を残すつもりが逆に俺の心に深く残されちまった…



死ぬほど好きです…

俺は菊池あやかさんに向かって心の中で囁いた…

帰りのタクシーの車中…

窓の外を眺めると岩手ではまだ桜が咲いていた…



まるで俺の心に咲いた桜の様だ…

岩手でわんこそばを食べようとしていたが…


『これからすぐに東京に戻りバクステ行くぞ!』

つん太郎さんが、ご発言された為、俺達は早急に東京に戻ることになった…

岩手駅で駅弁を買い…
小岩井農場のソフトクリームというのがあったので買った…



これが最高においしかった…

今度、岩手県に行く機会があるのなら…
是非、本物の小岩井農場に行ってみたいものだ…


新幹線の連結する風景を眺め、新幹線に乗り込み東京へと走り出した…



帰りの駅弁は最高に染みた…


菊池あやかさんの最高に可愛いおどけ顔を思い浮かべ…
気持ち悪い笑みを浮かべながら駅弁を食べていると…
つん太郎さんがおもむろに俺に話しかけてきた…

『パイナップルゥ…
どうやら完全に菊池あやかにイカれちまったようだな…
だが…
1人のアイドルにイカれているようじゃ…
いつまで経っても凡なヲタクだ…』

「…」

『…』

重い沈黙が二人の間をかける…

ゴォォォォォ…

新幹線がトンネルに吸い込まれる…

外の風景が暗闇に包まれる…

『良いか…
パイナップル…
ヲタクプレイボーイってのはな…
アイドルにイカれちなう様な奴じゃない…』

「…」

『ヲタクプレイボーイとは…
アイドルを逆にイカれさせちまう様なヲタクだ!!』

「…」

つん太郎さんは被っていたハットを被り直し…
俺に顔を近づけてきて囁いた…

『敢えて言おう…
佐藤すみれは…完全に俺にイカれてると!!』


「…」

『彼女が俺にイカれているから俺は…彼女に金を注ぎ込む…
でも俺は…一人の女にばかり構ってやれねぇ…
だから俺にイカれちまった女には…
せめて一時だけでも…
良い夢を見せてやりてぇんだ…』

「…」

『それが…“ヲタクプレイボーイ”…だ…』

新幹線が長いトンネルを抜ける…

外はすっかりと真っ暗になっていた…

街に煌くネオンの灯りとつん太郎さんの渋すぎる横顔が俺には眩し過ぎた…



なんて…かっこいいんだ…

これが…

本物のヲタクプレイボーイ…

アイドルをイカレさせちまうヲタクか…

新幹線の座席の後ろに誰もいない事を確認し…

シートを倒しそっと目を閉じた…

つん太郎さんの言葉が蘇る…

『ヲタクプレイボーイとは…
アイドルを逆にイカれさせちまう様なヲタクだ!!』

センチメンタルな気持ちをグッとおし込め…

俺は記憶から…
菊池あやかさんの可愛いおどけた顔を完全に消去した…


完!!