「じゃ、最初の一口飲んだら着てよ。わかった?」

 

 

「うん、わかった。ほら、カンナ、乾杯しようぜ」

 

 

 プシュッと音がしたと思う間もなく「プハァ!」と声がした。CMかよ――ツッコミを入れたくなるような飲みっぷりだ。

 

 

「いや、マジで美味い。俺はビールを愛してる。これも俺が一番だろうな。世界中でこの瞬間にビール愛に満ちてる人物ナンバーワンだ」

 

 

 いろいろ呆れてはいたもののカンナは微笑んでいた。当たり前の日常が戻ってきたのだ。苛々させられることも多いけど、それも含めての日常だ。

 

 

「どうした? 変な顔して」

 

 

「変な顔はしてないでしょ。ね、ところで、さっきの話。蛭子の奥さんのことよ」

 

 

「ああ――」

 

 

 彼は濡れた髪をかき上げた。目は細まり、顎は硬くなっている。

 

 

「なんでだって思う?」

 

 

「うーん、考えられることはあるけど、まだよくわからないな。っていうか、そもそものところどうしてああなったんだ?」

 

 

「私、蛭子さん家で倒れちゃったのよ。どうしてって訊くのはやめてね。でも、とにかくびっくりして倒れちゃったの。で、気づいたときには離れだったわ。そこでニュースを見て、さらに驚いたの。だって、殺人で逮捕するなんて言ってるんだもん。そしたら、奥さんがこう言ったの。『犯行時間を聴いてきて欲しい。自分がなんとかするから』って。そのときの表情も変だった。急に青くなって、――そう、お仏壇をじっと見て、」

 

 

「ふうむ」

 

 

 彼は鼻に指をあてた。そのとき、「ナア!」と声がした。

 

 

「キティか?」

 

 

 ガラス戸を開けるなり頬はゆるんだ。カンナは肩をすくめてる。どうせこうなるんでしょ? そう思っていたのだ。はいはい、このパターンよね。

 

 

「ニャ、ニャ!」

 

 

「ンニャ、ニャア!」

 

 

「フンニャア! ニャ!」

 

 

「おっ、みんな来てくれたのか。ああ、クロ、さっき道を横切っただろ。お前が報せてくれたんだな。――はは、やっぱりな。オチョ、そうとうやられたな。男っぷりが上がってるぜ」

 

 

 カンナはソファに沈みこんだ。当たり前の日常ってこういうものなの? そう思いながらだ。

 

 

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《雑司ヶ谷に住む猫たちの写真集》

 

 

雑司ヶ谷近辺に住む(あるいは
住んでいた)猫たちの写真集です。

 

ただ、
写真だけ並べても面白くないかなと考え
何匹かの猫にはしゃべってもらってもいます。

 

なにも考えずにさらさらと見ていけるので
暇つぶしにどうぞ。