『FishBowl』 vol.14 - 8 | 佐藤です、小説書いてます。

佐藤です、小説書いてます。

小説を書くこと、読むこと――について。
あと、思いついたことなどを、
まあ、そこはかとなく。

 

「想像力でもって書く方がより実り多いはずだよ」

 

 教えこむような声で《小説家》は割り込んできた。

 

「当然、経験からも物語は生まれるけど、それだけで書いてたらとんでもなく薄っぺらいものができるさ。たとえば俺も君も漫才師や女優についてならある程度こくめいに書けるだろう。こう言っちゃなんだが、そういうのを書くにはここは恵まれた場所だからね。それに、陶芸家についても書けるだろうさ。もしかしたら、かなえてはならぬ思いに苦しんでる人間についても書けるかもしれないしね」

 

 彼は「じゃないか?」といった顔を向けてきた。僕は自然と眉間に力が入っていくのを感じていた。ただ、表情を変えずに彼は話しつづけた。

 

「ここでの生活は刺激に満ちてる。まわりの連中もそう思って張りついてるわけだ。そういった意味でも、ものを書く人間にとっちゃ恵まれた環境なのかもしれない。でも、そんなのを書く意味がどこにある? 見てきたものから類推して書くなんて、それこそ外にいる連中と同じだよ。彼らのつくりだす話があまり面白くないのと一緒で、そんなのには意味がないのさ。それに、想像力を働かせるためにはあまり突飛な経験をしない方がいい。ノンフィクションを書きたいなら別だが、君は劇作家だろ? 想像力を働かせる方が実り多いよ」

 

「それって無から有を生み出すみたいに聞こえるなぁ」

 

 ニヤニヤしながら《劇作家》は椅子に背をあてた。

 

「だけど、まったく経験してないことは書けないでしょう? 想像力だけじゃ物語はつくれないと思うんですけどね。経験をベースにして、そこに想像力をうまく絡ませたものが良い物語になるんじゃないですか?」

 

 彼の質問癖にはだいたいの人間(年齢的に同じようになってきた武良郎を除く)がへきえきしていた。真昼ちゃんは空いてる皿を回収する振りをして、ふたたび睨みにいった。質問の仕方があまりに敬意を欠いてると思えたのだろう。ただ、《小説家》は落ち着いていた。

 

「経験が不要だなんて言ってないよ。人間は嫌でもいろんな経験をするもんだ。誰かを愛することになるし、死に直面することだってある。要は、それをそのまま書くか、そういったものは脇に置いて書くかってことさ。特殊な経験はきちんとしたものをつくる邪魔になる場合がある。書く者の人間性にまで深く刺さった経験は、うまくすれば素晴らしい物語をつくる可能性を高めるけど、たいていの場合は混乱を呼ぶものになるんだ。

 

 なにも君が書いたのや、その手法を批判してるわけじゃないんだぜ。この前やったのは素晴らしかったじゃないか。あれは想像力を発揮したものだったと思ってるんだぜ。それに、演技も素晴らしかった。どんなに上手く演じても感情に寄り添ったものでなければすぐわかる。バレるんだよ。君のはそうじゃなかった。感情に寄り添ったもの――自分の内側にあるものを冷静に見つめ、そのとき求められる役割をこなしてるものだったじゃないか。ま、書くことについての話は自分自身について言ってるようなもんさ。気にしなくっていいよ」

 

「ほら、ねえ、ちゃんと食べましょうよ。料理が冷め切っちゃってるじゃない」

 

 真昼ちゃんは手を大きく叩いた。これでこの話は終わりという合図だ。しかし、そういう意図は伝わらなかったようだ。

 

「どうもよくわからないですね」

 

 椅子に身体を沈めると、《劇作家》は首を振った。

 

「ノンフィクションを書くつもりなんてないんです。でも、経験を使わないわけにもいかないと思うんですけどね」

 

「ノンフィクションだって一定部分は虚構だよ。さっき君の言った、経験に想像力を絡ませたものがノンフィクションなんだ。それが誰のどのような経験であったとしてもね。経験に従えば、あらゆる物語はノンフィクションにおちいってしまうんだ。そして、そういったのは雑誌に載ってる真実めいた嘘だらけの記事と変わらないんだ」

 

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