『FishBowl』 vol.14 - 7 | 佐藤です、小説書いてます。

佐藤です、小説書いてます。

小説を書くこと、読むこと――について。
あと、思いついたことなどを、
まあ、そこはかとなく。

 

「誤解なんていつものことじゃない」

 

 居ずまいを正し、真昼ちゃんは母さんを見つめた。

 

「武良郎のことは、だって、全部言えないでしょ? そうやって全部言えないことを抱えながら、それ以外を見せてたら新しい誤解が出てくるだけよ。今までだってそうだったじゃない。ねえ、これって、あんたたちがここに来たときにもあったことよ。ちょうど逆のことを私たちは言いあったわ。それで私があいつらに説明したんじゃない。その後にどうなったかは、よぉく知ってるでしょう?」

 

「いや、面白いんじゃないですか? やり方によってはですけどね」

 

「あんたは黙ってなさい!」

 

 ぴしゃりと言って、真昼ちゃんは《劇作家》をにらみつけた。今度はすべての人間が彼を見た。温佳は細めた目を向けながら、切り刻んだほうれん草を口に運んでいた。

 

「やり方ってなぁに?」

 

 母さんは身を乗り出すようにしていた。その甘ったるい声を聴くなり、父さんは白目をいた。武良郎はニヤニヤしながらそれを見つめた。たぶん面白い顔とでも思っていたのだろう。

 

「たとえばですよ、」

 

 背中をみせるように座り直すと、《劇作家》は身振りもまじえてしゃべりだした。

 

「ドキュメンタリーみたいにしてもらえばいいかもしれない。ここでの生活をきちんと丁寧に追ってもらうんです。そうすれば世間の者が考えてるようないわいんねんがあるとこじゃなく、ごくあたりまえの生活が繰り広げられてるだけだってわかってもらえるかもしれない」

 

 すっくと立ちあがり、真昼ちゃんはみんなの皿に料理を足していった。そうしながら《劇作家》を睨んだ。しかし、彼はふたたび身体を動かし、《小説家》の方を向いた。

 

「どう思います? いまこそ大きな変化が求められてるんじゃないですかね?」

 

《小説家》は微笑を浮かべつつ黙っていた。その表情はこの話がどのように進み、いかなる結果に至るかすべて知っているといったふうにみえた。いや、きっとこの男だけはこの一連の言動がどうして起こり、そしてどうなるのかほんとうに理解していたのだろう。

 

「悪いけど、ここは曰く因縁があるなんて思われてないわよ。うちは化け物屋敷じゃないの」

 

 席に戻ると真昼ちゃんは腕を組み、顎を反らした。

 

「なによ、草介。あんた、なんか言いたそうにしてんじゃない」

 

「いや、」父さんは歪んだ笑顔を調節していた。「とくに言いたいことはないよ」

 

「この子はそういう経験をしたいだけなのよ。それでもって自分の書くものの足しにしたいだけ。なんでそんなのに私たちが巻きこまれなきゃならないの」

 

「ものを書く人間にとっては経験こそが最大にして最高の栄養源ですからね」

 

《劇作家》はそう言った。指摘が正しいのを自ら認めたようなものだけど、あまり気にしてないようだった(あるいは、自らの画策を隠すのに良いカムフラージュになったと思ったのかもしれない)。ただ、視線が集まってるのに気づくと、こう言い足した。

 

「ま、そういう突破方法があってもいいんじゃないかってのは、それとは別に思ったことですよ。馬鹿げたループから逃げ出すためにはね。経験したいってだけで言ってるんじゃないです」

 

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