『FishBowl』 vol.14 - 6 | 佐藤です、小説書いてます。

佐藤です、小説書いてます。

小説を書くこと、読むこと――について。
あと、思いついたことなどを、
まあ、そこはかとなく。

 

 長期の撮影を終えた母さんが久しぶりに合流したときのことだった。ひとしきり父さんがしゃべった後に、なにかの弾みで『草介・美紗子復縁疑惑』の話題が出た。きっと誰かが外に張りつくマスコミ連中についてなにか言ったのだろう、その言葉尻をつかんで母さんはこのように言った。

 

「ほんと、いい加減にして欲しいわ。あんなのがいたんじゃ武良郎を庭で遊ばせられないもの」

 

 その発言自体が――後で思い返せば――奇妙なものだった。母さんは武良郎の養育に関してもほぼ人任せにしていたし、FishBowlにいるときだって「庭で遊ばせる」なんてしてなかったからだ(いたく陽光を嫌う母さんは最愛の息子も紫外線から守ろうとしていたのだ)。

 

「今さらなに言ってんのよ」

 

 真昼ちゃんはすべての者に料理が行き渡ってるか確認しつつ、顔をしかめた。

 

「あんた、ちょっと前には『あんなの放っておけばいい』って言ってなかった? 『もう飽き飽きした。好きなだけ見張ってりゃいいのよ。どうせなにも出てきやしないんだから』って」

 

「ま、そう思ってるわよ。だって、あの人たちの記事なんて全部嘘なんだもの。でもね、こうもしつこいとうんざりしちゃうじゃない」

 

 そう言いながら母さんは《劇作家》の方をちらちら見ていた。これも――後から思い返せば――奇妙だった。しかし、このときには誰もなにが奇妙なのか思い至らなかった。

 

「うん、そう。それに草介にだって迷惑でしょ。だって、私たちが別れたのなんて――」

 

 母さんは僕を見つめた。たぶん、この子はいくつだったっけ? とでも考えていたのだろう。

 

「――まあ、十五年くらい前なのよ。それをいつまでもあんなふうに書きたてられるのっていいことじゃないわ。ね、そう思うでしょ?」

 

「ん? ああ、まあ、そうだな」

 

 ぼそぼそした声で父さんはこたえた。歪むのを抑えようとして、かえって変な顔になっていた。

 

「じゃ、どうすりゃいいっていうのよ」

 

 真昼ちゃんはフォークの先を母さんに向けた。不安感がこうじてきたのだろう、もう一方の手は胸にあてていた。母さんはまたちらちらと《劇作家》の方をうかがった。

 

「私、考えたんだけど、こうなったらここで私たちがどういう生活してるかオープンにしちゃえばいいんじゃない?」

 

 その場にいた全員(田中和宏と武良郎は除く)が母さんを見つめた。すべての顔に「はあ?」という表情が浮かんでいた。

 

「ここでの生活をオープンにする? あんた、なに言ってんの? まさか本気じゃないでしょうね。それに、どういう方法でするってのよ」

 

「それはわからないわ。だけど、誤解があるならそれを正す必要はあるんじゃない? もういいかげん私と草介にそういうことがないってはっきりさせておきたいのよ。草介にだっていろいろあるでしょ? おつきあいしてる人があんなの読んだら、いい気しないじゃない。それに武良郎のこともあるわ。この子の父親が草介なんじゃないかって言われてるのは誰にとってもよくないでしょ。みんな誤解してるだけなんだから、ここでどんなことがほんとうに起こってるのか教えてやればいいのよ」

 

 あたえられた台詞を言うように母さんは朗々としゃべりつづけた。ただ、それはいつものことだった。母さんは常にその場の雰囲気にあわせて幾つかの役を演じわけていたのだ。だいたいは女優・早乙女美紗子役をしていたけど、ごくたまには母親役のときもあったし、女医探偵・如月夕美子が出てくることもあった。

 

 それはまるで自分でも正体がわからなくなってるように自然に行われた。まあ、正体であるところの丹田ノブをうち捨ててからこの時点で二十年以上経っていたから、そうなって当然なのかもしれないけれど。

 

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