『FishBowl』 vol.13 - 9 | 佐藤です、小説書いてます。

佐藤です、小説書いてます。

小説を書くこと、読むこと――について。
あと、思いついたことなどを、
まあ、そこはかとなく。

 

 祖母はその夫がそうであったようにのういっけつで亡くなった。

 

 僕たちは栃木まで行って、葬式に参列した。FishBowlに住む全員でだ――これは真昼ちゃんの発案で、《家族》の身内は家族同然という理屈だった。また、こうも言った。

 

「美紗子、あんたは向こうの親御さんに会わずじまいだったわけでしょ? 清春っていう子供をつくっておきながらね。ま、いまさら言ったってしょうがないけど、私、ずっとそれが気になってたのよ。せめてお葬式には出て、挨拶くらいすべきだと思うわよ。ね、草介、そうしてもいいでしょ?」

 

 父さんはこたえなかった。ただ気を抜くと激しく歪んでしまう顔を整えていただけだ。そして、それは葬式中もつづいた。泣きもしなかったけど、誰が話しかけてもずっと黙ったままだった。

 

「大丈夫かしら? ま、そうなってあたりまえだけど、だいぶ参ってるみたいね」

 

 真昼ちゃんは心配そうに父さんを見つめた。しかし、僕には他に心配なことがあった。僕たち親子を除いた佐藤家の者は完全にかたの人々だったのでFishBowlの面々(とくに真昼ちゃんだったと思う)を警戒してるようだった。あからさまにはしなかったけど迷惑そうな顔つきでもあった。さらにはマスコミも来てたので斎場周辺は混沌としていた。僕は葬式中にひともんちゃく起こるのではないかと心配していたのだ。

 

「美紗子にあんなこと言ったけど、私も草介の身内に会うの初めてなのよ。――あれが一番上のお兄さんでしょ? 東大出て官僚になったっていう。で、あっちは二番目のお兄さんよね? どっかの商社勤めなのよね。ふうん、ま、そういう感じのお顔をされてるわ」

 

 真昼ちゃんはしきりに耳打ちしてきた。ほぼすべての者が物珍しそうに見てるのは気にしていないようだった。

 

「お子様方もお勉強できますって顔してるわねぇ。ね、あの子たちって、あんたの従兄弟になるわけでしょ? こう言っちゃなんだけど、あんたには似てないわ。いえ、私はあんたの顔の方が好きよ。好きだけど、ま、頭が良さそうには見えないもんね、あんたは」

 

「うんっ」

 

 僕は空咳してみた。でも、まったく効果がなかった。「まわりの人間にとって当たり前のことでなくても、自分にとってそれが当たり前であれば堂々とできるし、そうしてるとそっちの方がより正しいことになる」という信念は年を経るごとに強固になっていたのだ。

 けっきょく心配していたようなことは起こらず(それは主に佐藤家の方が努力したからだろう)、僕たちはその日のうちにFishBowlへ戻った。それから父さんがしばらくほうけたようになったのは書いた通りだけど、その期間が過ぎると今度は妙に元気になった。仕事はまったく変わらずこなしつつ、頻繁に帰ってくるようにもなった。

 

「こういうときこそ家族はまとまるべきなのよ」とは真昼ちゃんの意見で、その言い方と表情には強制力が示されていた。

 

「みんな傷ついてるわ。当然よね。中でも草介はひどく傷ついてるの。私たちは家族なんだから、こういうときこそ、その力を発揮しなきゃならないのよ」

 

 まあ、力を発揮するといっても、僕たちにできるのは一緒に食卓を囲むことくらいだったけど、それでよかったのかもしれない。父さんはつとめていつも通りの自分でいようとしていた。でも、それは父さんの考える《いつもの自分》だったから、デフォルメされたもののように思えた。まるでモノマネされたヒール/ソール草介を見てるようだったのだ。

 

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