『FishBowl』 vol.13 - 7 | 佐藤です、小説書いてます。

佐藤です、小説書いてます。

小説を書くこと、読むこと――について。
あと、思いついたことなどを、
まあ、そこはかとなく。

 

 その様子は幾つものカメラにおさめられることになった。

 

 そして、これがスポーツ紙のトップ記事になった。梵のおじさんの葬式についてでなくだ。

 

『草介・美紗子復縁疑惑』の再燃ということだろう。田中和宏という若い恋人の出現をほんのすこし前に取り沙汰していたのに、今度は『この二人、実はよりを戻していたのでは?』と報じたのだ。それらの記事によると、田中和宏は『世間をあざむくカムフラージュ』ということになっていた。

 

「だから、あいつらはイカレてるって言うのよ」

 

 真昼ちゃんはそうわめいた。僕たちの周囲では死をいたむのもごく普通には行われない。いつもなにか妙なものが混じってしまうのだ。

 

「ほんとうのことって、なかなか伝わらないものなのよ」

 

 母さんは(めずらしく冷静に)そう言っていた。

 

「でも、真昼、あなたがいつも言ってるように、そんなのは私たちが持ってさえいればいいのよ。草介のちょう、あれが伝えようとしたことはわかる人にはわかるわ。同じものを見聞きしても曲がって解釈したい人には曲がってしか伝わらないの。そんなの気にすることじゃないでしょ」

 

 父さんの弔辞はテレビで中継もされたし、全文を掲げる雑誌もあった。梵のおじさんの死に方については非難が多かったけど、それは別にして、その弔辞は「わかる人」に真意を伝えられたと思う。以下に、その全文を載せておく。

〈弔辞〉

 

「梵、おめえはよ、ほんとどうしようもねえ奴だよな。最後まで面倒かけやがってよ。なんなんだよ、この写真はよ。誰が選んだんだ? やけに笑ってるじゃねえか。あんなことしておいて、おめえはそんなとこで笑いながら俺たちを見てやがるんだな。ほんと、どうしようもねえ野郎だよ。話にならねえよ。

 

 なあ、俺が芸人目指して、浅草行って、師匠についたときにゃ、おめえはいっぱしの漫才師で、俺なんかはまだなにがなんだかわからねえヒヨッコで、いろんなこと教えてくれたよな。まあ、おめえが教えてくれたことなんて全部たいしたもんじゃなかったけど、それでも俺は嬉しかったんだぜ。

 

 売れない頃は一緒にくだらないことばっかりしてたよなぁ。おめえはそんな面して、ヤクザみたいな格好して、そのくせ小心者でよ、本物が来たら逃げまわってたもんな。一緒にいたときによ、追っかけまわされたことがあったろ? ありゃ、まだコンビ組む前だったよな。俺たちゃ、あん頃からよくつるんでたもんな。

 

 そう、おめえがあんときつきあってた詩人の女と一緒に内職もしたっけな。たいがい俺が駄目にしちまったもんだから、詩人はけっこう言ってきたよな? なんだかんだと小言を頂戴したもんだ。でも、おめえはとりなしてくれたよな。『こいつは天才肌だから、こういうの苦手なんだよ』ってな。

 

 おめえはいつも俺のこと天才だって持ちあげて、自分はその手綱を握ってるとか言ってたけどな、俺は思うんだ、梵、おめえは天才だったよ。相方同士でこんなふうに天才だとか言いあってるのは赤っ恥だろうけどよ、でも、もう一回言うぜ。梵、おめえは天才だった。おめえと一緒じゃなきゃ、俺たちの漫才はいっこも面白くなかったんだぜ。

 

 なあ、よく喧嘩もしたよな。殴りあいの喧嘩だって一度や二度じゃなかったもんな。営業して、小銭を貯めこんで買ったおめえのスーツ、ボロボロになっちまったもんな。おめえはいつもあんな格好して、いかつい顔しやがって、その割にゃ正義感が強くって、悪いことなんてなにひとつできない野郎でよ。

 

 なあ、なんでこんな死に方すんだよ。

 

 笑えねえんだよ。梵、おめえは天才過ぎて笑えねえんだ。

 

 ま、そのことは俺がそっちに行ったらよく聴かせてもらうわ。おめえのせいでこっちはいま大変なんだからよ。待っててくれよな。俺が謹慎くらってたときも待っててくれたもんな。またちょっと待たせるかもしれねえけど、まあ、ちょっとのことだ、待っててくれよ。俺もそんなにしないでそっちに行くからよ」

 

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