『FishBowl』 vol.13 - 6 | 佐藤です、小説書いてます。

佐藤です、小説書いてます。

小説を書くこと、読むこと――について。
あと、思いついたことなどを、
まあ、そこはかとなく。

 

 葬式には母さんも参列した。

 

 父さんもそうだったけど、誰も仕事に穴をあけたりしなかった。シゲおじさんも他の弟子たちもみな普通に仕事をこなし、母さんも二時間ドラマのロケ撮りを済まして戻ってきた。母さんの戻った日が葬式の日だった。

 

 その日は雨が降っていた。空はどんよりと曇り、細かな雨がすべてのものを濡らしていた。灰色に覆われた中には黒い服を着た人間がのろのろと動いていた。マスコミの連中は白っぽいビニールで機材を包み、遠巻きから眺めていた。幾つかの番組で中継が予定されていたのだ。

 

「あれに関してはいろいろ言われてたでしょ? あなたたちも知ってたでしょうけど、ほら、亡くなり方がああだったから」

 

 熊井女史は後にその辺の事情を話してくれた。

 

「警察がまだ捜査してたし、マンションの被害だってひどかったじゃない。あまり盛大なお葬式をするのもどうかって話が出てたのよ。でも、草介さんの考えは違ってたわ。盛大にってわけじゃないけど、きちんとみんなで見送ってあげたいって言ったの。中継みたいのはよした方がいいんじゃないかって私やシゲちゃんは言ったんだけどね、それも入れて、後でなにをどう言われてもやるだけのことはやってあげたいって、そう言ったのよ。『かつてであっても一世を風靡した芸人が死んだんだ。それなりの見送り方をしてやんなきゃ梵がかわいそうだ』って言ってたわ。『あれだけ派手な死に方したのに葬式がしょぼいもんだったら格好つかないだろ』ってね。向こうの事務所は及び腰だったけど、――ほら、あの専務がまだ頑張ってたからね、でも、草介さんが押し切ったのよ」

 

 遺体はなかなか戻ってこなかった。そのあいだもテレビや雑誌は危険なコレクションをもてあそんで死んだ梵のおじさんを非難する論調を展開していた。違法な物を収拾してる人間を見つけては、その入手ルートを探るというのもよく行われていた。ワシントン条約で保護されてる動物や、そのはくせいぞうひんの仏像、それに不発弾や銃器などだ。テレビでそういう特集をすると、出てくるのはたいてい顔にモザイクをかけ音声も変えられた《関係者》という人間だった。もちろん、梵のおじさんの行為は非難されるべきことだ。それでも僕たちはそういう報道を見るたびに違和感をおぼえた。同じくくりで下着泥棒まで扱われていたのだ。

 

 真昼ちゃんはこう言っていた。

 

「そりゃ、私たちがとやかく言えることじゃないからしょうがないけど、下着泥棒と一緒にされたら、さすがに梵ちゃんがかわいそうじゃない? なにか問題が起こると、あの連中はすそを広げようとするのよ。こっちも大変な問題だけど、こういうのも問題ですよってふうにね。あれで世間の役にたってるつもりだったら頭がイカレてるんだわ」

 

 梵のおじさんの葬式においては、もうひとつ「頭のイカレた」と真昼ちゃんの言うことが起きた。母さんはロケ地から斎場に直行した。衣装のひとつである黒いドレスを喪服代わりにしたのだ(出てるものがものだったので、そういう服もあったわけだ)。車から降りると母さんは父さんに駆け寄り、強く抱きしめた。きっと何年か振りのほうようだったのだろう、父さんは面食らっていた。しかし、母さんは気にもしてないようだった。

 

「草介!」と母さんは叫んだ。

 

「かわいそうに! 梵ちゃんがあんなことになるなんて! ねえ、つらかったでしょう? 私もつらいわ! だって、梵ちゃんは私たちを引きあわせてくれた人でもあるものね。ねえ、草介、かわいそうに!」

 

 それはもしかしたら少々過剰な言動だったかもしれない。母さんの大仰さというのは、いつも過剰に物事を伝えることになるのだ。

 

「わかった。わかったから」

 

 父さんは腕を垂らしたまま――抱擁にこたえることなく――そうとだけ言った。それでも母さんは抱きついたままだった。そこにいたほぼすべての人間が二人を見つめていた。温佳もしばらく眺めていたけど、肩をすくめてどこかへ行ってしまった。真昼ちゃんやシゲおじさんは二人が一緒に暮らしていた頃を知っていたので、とくに驚きもしないようだった。僕は正直なところ多少驚いた。まあ、自分が生まれた原因であるところの二人なわけだから驚く必要はないのだけど、そういうのを見るのは初めてだったのだ。

 

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